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皇室の品格保持に必要な事と、政治的な利用


 「新天皇パレードは国産車 首相周辺「外国車なら批判も」」。昨日の朝日新聞の記事の見出しだ。来年・2019年9月に予定されている新天皇即位に関する儀式・祝賀御列の儀に向けて、政府は国産オープンカーを新たに調達する方針を固めたという記事だ。昨日の時点で「方針を固めた」という報道を各社が行い、流石に昨夜の日産・ゴーン会長逮捕に比べたら規模は小さかったが、それでもそれなりに話題にはなっていた。その影響で「国産車」でも日産は選択肢から大きく外れるね、なんてジョークもSNS上で多く見かけた。
 昨日の時点では「方針を固めた」という報道だったが、今日の毎日新聞の記事「「饗宴の儀」立食も 新天皇即位後の式典、簡素化」には、
 即位礼正殿の儀の後に行うパレード「祝賀御列の儀」で両陛下が乗る車は、オープンカーの新規購入を正式決定。国産車を使う見通しで、来年9月末を納期として発注する。
とあり、本日政府は、新車両の調達を正式に決定したようだ。


 新車両の調達が検討され始めた背景には、昭和から平成への代替わりを機に、およそ4000万円で調達したロールスロイス・コーニッシュは、老朽化により多額の改修費がかかる上、国産車の方が国民に親しまれやすい、という政府の判断があると朝日新聞等は伝えている。この車が使用されたのは調達以来たった2回ということも伝えられている。この宮内庁の皇室用ロールスロイスに関しては、朝日新聞などが、今年の5月にも政府が現在同様の見解を示した事を伝えている(朝日新聞の記事「4千万円の宮内庁オープンカー、走行困難に 使用は2回」)。

 政府に対して自分は言いたい。
 車を新調したいが為、厳しく言えば、彼らの主な積極的支持者へのアピールで国産に置き換えたい、皇室に配慮していると思わせたいが為に、 「多額の改修費」などと嘘をつくのは止めて貰いたい。
と。 この件について、昨日から今朝にかけてテレビのニュースやワイドショーなどで、車への造詣が大して深いとも思えないようなコメンテーターらが、「外国車は国産に比べて部品も高いし、特にロールスロイスは高級車だから...」のような事を軽々しく口走っている。確かにロールスロイスの部品は輸入品が多く、日本の自動車メーカーに比べたら価格は高い事に違いはない。しかし、ロールスロイスを整備に掛かる費用が、新たな車両を購入するのより高くつくとは到底考え難い。例えば、マツダの大衆的なオープンカー・ロードスタに置き換えるのなら話は別だが、皇室行事に相応しいオープンカーは現状日本で販売されている国産自動車の中にはなく、どうやってもオートクチュール、自動車業界風に言えば、最高級車をベースにワンオフで改造車両が制作されるだろうから、新車調達の方が予算は掛かる筈だ。
 自動車評論家の国沢 光弘さんは5月の時点で、同じような視点で自動車情報サイト・クリッカーで記事を書いている。その記事「宮内庁のロールスロイス・コーニッシュは本当に修理できない?」では、ロールスロイスを専門店の代表の、
 1990年と1991年のコーニッシュは生産台数が多く、部品もロールスロイスの中で最も豊富に出回っています。
という見解を紹介している。 つまり、確かに国産車に比べれば修理代や部品代は割高だろうが、新たに特注車両をこしらえる以上に予算が掛かるとは言えないだろう。「当時の外国車は今の国産車よりも遥かに故障が多く、これからも修繕費が膨らむ恐れがある」と言う人もいるだろうが、諸外国ではクラシックカーを愛好する文化が確実に日本より広がっており、それぞれのモデルの所謂持病と言われるような、トラブルが起きやすいパーツに関しては対策品・リプロダクションパーツも多く出回り、然るべき者が然るべき整備を行えばマイナートラブルはある程度抑えられる。また、現在のクルマの性能が良くなったと言っても、全くマイナートラブルが起きないわけではなく相応に整備・消耗品の交換はどうやっても必要だ。要するに「多額の改修費」というのは車を新調する為の口実である懸念がかなり高い
 このような見解は政府や宮内庁が示しているようだが、宮内庁に果たして車に詳しい者がいるのか疑問を感じる。つい数日前に、国土交通省は大雪時のチェーン義務化を検討しているという報道があり、これについて特に雪国の人達から実態にそぐわないという旨の違和感が示されているようだ。この件について国沢さんも、宮内庁の件同様にクリッカーで 疑問を呈する記事 を書いている。また自分は2017年5/102017年12/8の投稿で、公道用カートへのシートベルト義務化も事故の際に生じる怪我を悪化させる恐れがあることを指摘したが、このような短絡的な交通・自動車関連の政策が続け様に発表されるのを見ていると、政府内には自動車に詳しい人間が、自動車・交通関連を所管する立場の国交省の中にすらいないのではないか、そんな人たちが政策を立案・運営しているのではないかと思えてくる。

 前述のように政府は本日新たな車両の調達を決定したそうだが、1990年に4000万で購入した車両が今年までの間に2回しか使用されていなかったのなら、そもそも車両を所有する必要はなく、今後は必要に応じてレンタルすればよいのではないか。なぜかオープンカーに拘っているようだが、絶対オープンカーでなくてはならないという事もない。1990年に購入した車両は、2007年に予算を削減する為なのか登録抹消され廃車扱いだったようだが、その後の約10年間も車両が無くても困らなかったのだから、28年間で使用したのは結局2回で間違いない。その2回は現天皇陛下の即位と皇太子さまの成婚パレードだけだそうなので、新しく車を買っても結局塩漬けにするだけだろう。
 冒頭でも紹介した朝日新聞の記事によれば、政府は、
 (新車両は)政府が所有し、東京五輪・パラリンピックなどでも活用する方向
なのだそう。今まで必要なかったのに、新調する為にわざわざ口実作りなどしなくともよい。新調する為に理由を作るようでは単なる無駄遣いでしかない。
 「皇室の品位を維持する為にはレンタルは相応しくない」などと言う人もいそうだが、果たして28年間で2回しか使わないようなものに4000万+維持費をかけて見栄を張れば、皇室の品位が保たれるのだろうか。それは逆に裸の王様のようで、日本の皇室は見栄っ張り・浪費家だという印象を与えかねず、品位を維持するどころか下げることにもなりかねないと自分は考える。

 10/29に高円宮家の絢子さまが結婚し、彼女に対して、皇室を離れる際に品位を保つため、国から支給される一時金として、制度上の上限額である1億675万円が支給されたそうだ(朝日新聞の記事)。この記事を読んで自分は、
 意地悪なことを言わせてもらえば、品位を保つのには1億675万円必要という事だろうから、1億円持ってない人は概ね品格を維持できない、要するに富裕層以下は下品ということか?
と感じた。 確かに皇室関係者はそれだけで国内外から注目もされるし、その分の不自由も多く、相応の手当は必要なのだろう。それを否定するつもりはないが、品位を保つのに1億円必要というのはどうも納得がいかない。前述の28年間で2回しか使わないクルマに4000万以上の予算が割かれ、更にそれを新調する事に感じるのと同様の違和感を覚える。
 綺麗な服を着て高額な物に囲まれて生活することが果たして品位を保つ上で必要なことなのだろうか。例えば、現代以前・近代の頃までなら、日本だけでなく世界中で身分制度の影響がまだまだ強かっただろうから、品格の為には相応の身なりと相応の調度品などが必要だという認識も強かったのだろう。しかし、果たしてそれは今でも同様なのだろうか。勿論ある程度の服装・調度品等は必要かもしれないが、結婚一時金が1億円とか、28年で2回しか使わない車に4000万円以上、しかもそれをまた新たに新調なんてのは、ハッキリ言って単なる見栄っぱり以外の何ものでもない
 2016年に来日して話題になったウルグアイの元大統領・ホセ ムヒカさん(Wikipedia)は、月1000ドル程度の生活を送り、その質素な暮らしぶりから「世界で最も貧しい大統領」として知られている。彼の身なりは決して華やかでも荘厳でもなく、どこにでもいそうな普通のおじさんだし、テレビで紹介されていた彼の愛車はかなり使い込まれたフォルクスワーゲン ビートルだったし、家もとても庶民的なたたずまいだった。では彼が品位を保てていないのか、彼には品位がないのか?と言えば決してそんなことはない。寧ろ、つつましい生活が彼や、彼が大統領を務めたウルグアイ全体の品位を押し上げているとすら言えそうだ。

 品位を保つ為に必要なのは綺麗な服でも、豪華なクルマでも、無論決してお金でもない。政府には、自分たちの支持を維持・強化する為に皇室をダシに使うのは止めて欲しい。昨年、政権を担う与党・自民党の竹下 亘氏は「パートナーが同性だった場合、私は(晩餐会への出席には)反対だ。日本の伝統にも合わないと思う」などと、皇室の方々が政治に関わる話に触れる事が出来ないのをいいことに、あたかも天皇陛下や皇室の人達が同性愛に不寛容であるかのような話を、まるで皇室の意向を代弁するかのように発言して大きな批判を浴びた(2017年11/24の投稿)。現政府や与党・自民党には、ナチュラルに皇室を政治的に利用する傾向があり、それはとても好ましくない状況だと自分は考えている。

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