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コンビニセルフコーヒー悪用事件から考えるバランス感覚の欠如


 商品に応じたカップを購入し、設置された機械で指定のコーヒーを自分で注ぐ形式の所謂コンビニコーヒーの利用に際して、100円のカップを購入したにも関わらず150円の商品を注いだとして男性が逮捕された、というニュースが先週報じられた。報道によれば、男性はこれまでにも同様の行為を行っていたようで、常習性を勘案して逮捕という措置がなされたのだろう。
 SNS上で、MサイズのカップでもLサイズ分の量が収まる、という検証を行った投稿などを自分も見かけた事がある。つまりMサイズの料金でLサイズのボタンを押して注いでも収まるのでLサイズのカップを購入する必要はない、と暗に示唆する投稿だ。そんな投稿がある程度の注目を集めているということは、逮捕された男性と同様の行為を行っていた者も相応にいたのだろう。そんな風潮を牽制する為にこの男性は逮捕され、そしてメディアも報道したのかもしれない。いいか悪いかは別として所謂見せしめ的な側面が少なからずあったように思える。


 NHKは、この件に関して男性の実名を報道している。


果たして、50円の詐欺行為(厳密には疑い)だけで実名報道をする必要性が本当にあるだろうか。前述のように記事では常習性を示唆しており、仮に常習性があったとすれば被害額は50円ではないだろうが、逮捕に至った容疑はあくまでも逮捕時の行為、つまり50円分のコーヒーの搾取だ。そのようなことが他でも起きている事、つまり社会の一部に存在する風潮を勘案すれば「報道自体する必要はない」とまでは言わない。しかしたった50円、もし仮にこの男性がこれまでに同様の行為を100回繰り返していたとしても被害額は5000円で、被害額と悪質性は必ずしも一致しないかもしれないが、この程度の案件で実名報道というのは社会的な制裁としてバランスを欠いているのではないだろうか。

 BuzzFeed Japanは昨日・1/27に「賃金の未払い分があったときは?オーストラリアでこんなことが起こってます」という記事を掲載している。準見出しにもあるように、「計画的かそうでないかを問わず、賃金未払いを犯罪だとすべき」という議論が、オーストラリア クイーンズランド州で起きていると言う記事だ。
 この記事を読んで自分の知り合いにも、就職した会社がいい加減で、就職当初から面接時に聞いた額よりも低い給与しか支払ってもらえず、しかも数か月後には支払い自体が止まり、後にまとめて払ってもらえると考えて働いていたが、流石に3カ月を過ぎると生活自体に支障が出始めた為、その会社を辞めた者がいた事を思い出した。その3カ月分の賃金は結局今もまだ支払って貰えていないそうだ。自分はここまであからさまな賃金不払いに直面したことはないが、これまでに働いてきた数社ではサービス残業を強制された。サービス残業分の賃金はどの会社でも年額で数万から数十万になる筈だ。その内のいくつかの会社は、サービス残業の強制や休日出勤の強制、又はその分の代休が認められない事、つまり結局はタダ働きさせられるのが不満で辞めている。
 日本でも、大企業が不当な残業を従業員に強いていた場合など、しばしば報道されることはある。大概億単位の未払い是正勧告がなされ企業名が報道される。しかし報道されるのはほぼ大企業だけだ。自分はこれまで所謂大企業で働いたことがない。つまり、同じ様なことが大企業以外でも確実に起きているが、多くの場合、未払いの是正勧告も、経営者が労働基準法違反で摘発されることも、企業名や経営者が実名で報道されることもない。一方で50円分の搾取で逮捕され実名まで報道される人がいるのに、複数の従業員の賃金・数十万から数百万、場合によっては数千万単位でちょろまかしていても、逮捕も報道もされないのは、個人的に、明らかにバランスを欠いた状況だと考える。
 しかも自分の様に、不当な企業の姿勢にノーを突き付ける為、そのような会社を辞めるのに確実に必要な制度・雇用保険について、本来支払われる筈の額を国がちょろまかしていた、そしてその額は数百億円にも及ぶというのが、昨日の投稿で書いた毎月勤労統計調査の不正の一つの側面なのだが、その不正に関する調査で、更に不適切な調査(というか最早それも不正調査という方が妥当だろう)が行われ、政府・厚労省はそのいい加減な調査を根拠に、関与したとされる職員22人と現職大臣や政務官らの減給・給与一部返納という、驚異的な軽さの処分で事を済まそうとした。主要メディアでは関与したとされる職員22人の実名報道すらない。
 一方で50円分の搾取で逮捕され実名まで報道される人がいるのに、数百億円という額のちょろまかしを国が行ったにもかかわらず、全く合理性を欠いた「組織的な隠蔽はなかった」という調査結果が示され、それを根拠に減給・給与一部返納という程度で済まそうとする、勿論誰も逮捕もされず、現状では誰も罪を問われず、つまり誰も明確に責任を取らないようであれば、明らかにバランスを欠いている。


 2018年9月に、僧衣を着て自動車を運転していた僧侶が、「運転操作に支障を及ぼすおそれのある履物または衣服を着用して車両を運転しないこと」という福井県の規定に反するとして、交通違反で切符を切られるという事案が発生し注目を浴びていた。
 最近放映しているメルカリのCM「三日坊主編」では、元スマップの草彅 剛さんが僧侶姿でスクーターを運転している。

 



  このCMが当該案件を念頭に置いて制作されたか・放映されているのかは定かではないが、この件に関しては、僧侶たちが #僧衣でできるもん というハッシュタグを付けて、縄跳びやリフティング・ダンスなど様々な事を行う動画をSNS上に投稿し、暗に僧衣が運転に支障をきたす服装ではないことをアピールしていた。つまり福井県警に対する静かな抗議が盛り上がり、僧侶ら以外からも福井県警の判断に違和感を示す声は高まっていた。
 福井県警は1/26、一転して「違反事実が確認できなかった」として送検しない方針を明らかにしたそうだ。ハフポスト/朝日新聞の記事では次のように書かれている
 県警はこれまで、朝日新聞の取材に「和服が一律に違反ではない。着方によって違反になる」と説明していたが、26日に「本日までに切符を切った方を訪れ、改めて県警本部で内容を精査したところ、証拠の確保が不十分で違反事実が確認できなかったため、本件については送致しないこととした旨をお伝えした」とのコメントを明らかにした。
なぜ福井県警は素直に過ちを認めないのだろうか。 こんなまわりくどい言い方をするのだろうか。単に印象の問題かもしれないが、間違いを起こしたなら間違いを起こしたと素直に認めるべきだし、勿論、そんな事はこのような案件が無くても同じことだが、こんなまわりくどい言い方をされれば尚更の事、
 警察官も証拠を充分に確保しないで強引に逮捕したり、罪を着せようとすることがあるから、警察官と言えども手放しで信用してはいけない、厳しく言えば、警察官でも人を騙そうとすることもあるし、場合によっては不適切に権力を振りかざす事がある
という認識を強めざるを得ない。
 一方で50円分の搾取で逮捕・実名報道される人がいるのに、警察は証拠不十分なのに市民を罰しようとした警察官の実名も明かさなければ、処分すら明らかにしない、つまり処分すらしないという事のようで、明らかにバランスを欠いていると言わざるを得ない。

 どうもこの国では立場によって対応が変わるという不平等がまかり通るようだ。特に権力に近い人間は悪いことをしても大目に見られ、そうでない者は些細なことで過剰に糾弾・非難・処分されるという風潮がある。それは、辺野古基地移設に反対の姿勢を示したローラさんや、沖縄の一部の市町村長らが県民投票不参加を表明した事に抗議してハンストを行った、約9万人分の有効署名を集めて県民投票条例の制定を求めた「『辺野古』県民投票の会」の元山 仁士郎さんへの、誹謗中傷などにも表れている。

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