賃金、労働時間、雇用の変動などを把握する目的で厚労省が行う「毎月勤労統計調査」に関する不正が初めて報じられたのは昨年・2018年末のことだった。実際はもっと前から報道があったかもしれないが、自分がこの件に関する報道を初めて目にしたのは、2018年12/29の共同通信の「厚労省の勤労統計、ずさんな調査」で、そこには
賃金や労働時間などの動向を調べ、厚生労働省が公表している「毎月勤労統計調査」について、従業員500人以上の事業所は全数を調査するルールだったにもかかわらず、一部のみ抽出するずさんなケースがあることが28日、分かった。とあり、恐らくこのタイミングの報道が初報だったのだろう。ただ当時は既に年末年始の休みに突入していた事もあって、この件が大きく取り沙汰・注目されたのは年明け、正月ムードも終わりかけた1/8頃以降だった。
年明けになると、統計の不正は2004年から始まったことが大きく報じられた。毎日新聞は1/9に「雇用保険、過少給付 勤労統計、04年から不適切調査」という見出しでそれを報じている。
MXテレビ・モーニングCROSSで画面に表示された視聴者ツイートの中に、不正が行われていた期間内に民主党政権もあったことを前提に、「この件について旧民主は何も言えないな」という趣旨のツイートがあった。期間内に政権を担っていたのに、それに気付けなかった・正せなかった旧民主系の野党はこの件を批判する立場にない、と言うのであれば、同様に現与党・自民公明もこの件への批判は出来ないということになる。では一体誰がこの件を追求し事態を打開してくれるのだろうか。その旨をリプライしたらこのツイートをした人は当該ツイートを削除した。
一方で、現野党側の指摘にも違和感を感じる部分がなくもない。例えば、時事通信の記事「野党、政権成果「偽装」と追及=与党は厚労省標的-勤労統計」によると、立憲民主党会派の大串議員は、1/24の衆院厚生労働委員会の閉会中審査の中で、
アベノミクスの数字を粉飾するために勤労統計、賃金の統計を偽装したと指摘したそうだ。
これが(問題の)本質だ
個人的には、統計の不正によって支払われなかった雇用保険・労災保険の額が当初は数十憶という話だったのに、日を追う毎に膨れ上がった事や、昨年の通常国会で議論された裁量労働制の拡大に関する資料で、政府与党に利するあからさまな捏造が発覚し、更にそれを追求されると厚労省が元データを廃棄したと隠蔽しようとしたが、実際は段ボール箱数十箱分の調査票が存在していた事、各省庁の障害者雇用者数が数十年に渡り水増し、つまり捏造された数字が発表され続けていた事、昨年末に政府与党が強引に可決成立させた入管難民法改正案に関して、法務省が政府与党に有利になる恣意的な解釈に基づいた統計を行い、それが法案と共に国会に提出されていた事などを勘案すると、年明けに明らかになった2004年から不正が行われていたという話も、「現政府の責任ではなない」とアピールする為に誰かが言いだした事なのかもとも思えてしまう為、大串氏の主張と似たような事は頭に浮かんだが、逆に言えば、現政権以前から不正が行われていたというのは作り話という事を証明するような、証言・証拠はまだ明らかになっていないので、この追及の仕方では支持は得られないだろうとも感じる。
しかし別の視点で見れば、野党側の指摘が必ずしも正しくないとは言えないとも思える。
前安倍政権下の2007年に社会保険庁の年金記録の杜撰な管理が発覚し、所謂消えた年金問題の発端となったが、今振り返ると当初安倍首相はこの問題を軽視していた。また、2007年の通常国会後には
私には2つ使命がございます。 まず、第1の使命は、最後のお一人に至るまですべて記録をチェックし、保険料を真面目に払っていただいた方々に正しく年金をお支払いしていくことでございます。と述べ(首相官邸のサイトより)、 「最後のお一人に至るまで支払う」という事は、同年の参院選でも公約の1つに掲げていたが、最後の一人に至るまで正しく年金を支払う事は、今もまだ実現していない。この参院選が当時の安倍政権崩壊のきっかけ、つまり年金問題が崩壊のきっかけになったことは確実に否定できない。
このような苦い経験が念頭にあったからか、政府・厚労省は素早い対応を見せ、この件に関する調査を行う第三者委員会・特別監査委員会を1/17に立ち上げた(産経新聞の記事)。5日後の1/22、特別監察委は
厚生労働省が猛省し、関係職員の厳正なる処分が行われることを望むとする報告書を発表し、これを受けて厚労省は関係者ら22人を処分、大臣・政務官らが給与を自主返納することで幕引きを図った(ロイターの記事)。しかし「課長級職員を含む職員、元職員は抽出調査の事実を知りながら、漫然と従前の取り扱いを踏襲」「部局長職員も実態の適切な把握を怠り、是正せず」という調査結果だったにも関わらず、「組織的な隠蔽は認定できなかった」という、矛盾が強く感じられる発表もした(毎日新聞の記事)。更に特別監察委の調査に関して、ヒアリングの一部を厚労省職員が行うなど、不適切な点が複数指摘され、既に再調査を行わざるを得ない状況に追い込まれている(東京新聞の記事)。
このような政府・厚労省の杜撰な対応を勘案すれば、「アベノミクスの数字を粉飾するために勤労統計、賃金の統計を偽装した」は言い過ぎかもしれないが、「現政府は不正を把握しつつ、賃金統計の数字を下方修正しなければならなくなることを嫌い、事態の公表を怠った」恐れは充分にありそうだ。
前述したようにこの数年、数々の捏造・隠蔽・改ざんが発覚しているが、政府は事ある毎に「不適切であることは事実だが、決して意図的ではないミス」という説明を繰り返している。しかしどれも「政府に都合のよい方向性のミス」ばかりで、政府に都合の悪いミスが起きた記憶は全くない。こんなことが果たして偶然と言えるのか個人的に甚だ疑問である。勤労統計不正に関しても、始まりはアベノミクスの成果裏付けでなかったとしても、現政権がそれに利用していた恐れは強いと感じてしまう。
自衛隊・防衛省の日報隠蔽、裁量労働制データ捏造、財務省の公文書改竄、各省庁の障害者雇用水増し、法務省の外国人技能実習生に関するデータ捏造などの所為で、既に自分は政府の発表を信用していない。また1/8の投稿でも触れたように、オリンピック招致に関する「アンダーコントロール」、そして辺野古基地移設に関する「あそこのサンゴについてはこれ移しています」等の発言(他にも例はあるが枚挙に暇がないので割愛)の結果、安倍首相の発言も信用していない。2018年12/29の投稿でも書いたが、
政府・政権・行政機関・政治が信頼を失うような事案が頻発すれば、国民からの信頼を失い社会秩序にも悪影響を与えることは勿論の事、悪影響は国内に留まらず、外交にも大きく影響しかねない。また、今はまだ日本を好意的に受け止めて観光等の目的で訪れてくれる外国人が増えているが、政府や政権が信頼できないような国である状況が今後も続けば、その傾向も陰る筈だ。日本人にとって最も身近な「政府が信用出来ない国」と言えば北朝鮮だろう。北朝鮮に行ってみたいと気軽に思う日本人が果たしてどれだけいるか? を考えたらそれがよく分かる筈だ。と感じる。更に統計の不正は勤労統計だけに留まらず、各省庁が行っている22の統計で31件の不正が発覚している(共同通信の記事)。本当に日本の政府は中国や北朝鮮の政府のように、都合のよい事だけを発表するにとどまらず、捏造・改ざんした嘘の情報を躊躇せずに垂れ流すようになってしまったと感じる。もしかしたらなってしまったのではなく、ずっとそうだったが気が付かなかっただけなのかもしれない。
決して現政権だけにこの状況の責任があるとは言えないが、この状況を解消しようとしているとは到底言い難い現政権を、今後も国民が選び続けるようならば、この国は決して遠くない将来、前述の隣国のような自由のない国になってしまうだろう。