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ステレオタイプの○○像による弊害


 ハフポストの連載企画・村橋ゴローの育児連載「ワンオペパパの大冒険」の9回目「42歳おっさんの「孤育て」 平日の昼間、公園にいたらヘンですか?」にはとても共感させられた。その書き出しにも
 結婚して14年、掃除・洗濯・炊事といった家事のほぼすべてをボクが担当している。くわえて4年前に子どもが生まれてからは、育児も主にボクがやっている。
とあるように、村橋 ゴローさんは所謂ライター兼主婦業に勤しむ、云わば兼業主夫だ。子どもを通わせる保育園や、子どもと遊びに出かけた先の公園にいるのは殆どが母親で、ひどいとは言えないレベルかもしれないが、彼が少数派の家事・育児を家庭内で主に担う男性であるが為に、それらのコミュニティが女性の社会であるが為に感じる疎外感について、半ば愚痴るようなニュアンスで書かれた記事だ。


 率直に言って、現在は確実に少数派である平日に子どもの面倒を見る男親が、不審な目で見られるのも、防犯上の観点などから考えればある程度は仕方ないかもしれない。また、村橋さんが経験しているような疎外感は、男社会であるコミュニティの中では女性も感じているはずだ。将来的に、外で働くのは男の仕事で家事や育児は女の仕事、のような固定的な観念が社会全般から払拭されればそんなことはなくなるかもしれないが、与党が女性活躍推進を掲げる一方で、そのような伝統的家族観の重視なんて矛盾することを言っているようでは、つまりそんな方針の党が与党たりえる日本の社会では、そのような理想の実現はまだまだ先だろうから、一時的な諦めというか皮肉というか、そんなニュアンスを込めた上での「ある程度は仕方ないかもしれない」だ
 自分は生まれてこの方三十数年まだ結婚したこともなければ子どももいない。しかし20代後半まで平日休みの仕事をしていたこともあり、当時まだ幼稚園児だった姪と2人で年に何回か出かけるようなことがあった。「年数回くらいの経験で知った風な口を利くな」と言われてしまいそうだが、そんな話は無視するとして、つまり自分も村橋さんと似たような経験をしたことが、当然回数は年数回レベルなのだが、ある。平日にいかつい風貌の男が幼い女の子を連れていても、殆どの人はお父さんと勘違いするものだが、中にはまるで誘拐犯か何かのような目で見られることもあった。村橋さんも言っているように、平日の昼間に働いていない男性=不審、そして更に自分の場合は、子どもが好きそうな父親像のステレオタイプとはかけ離れたクルマとファッションの男が幼い女の子を連れている=不審、のような印象だったのだろう。
 前述のように、自分は村橋さんのように日常的にそんな状況にあったわけではないし、自分でもどこかで「他人からは不審な子連れ」に見えるんだろうなという予測もあったしで、当時の自分はそれ程不快ではなかったが、もし自分が連れていたのが姪ではなく自分の娘だったら、自分も村橋さんと同じ様な不快感を覚えていたかもしれないと思える。確かに土日休みの仕事が世間の大半を占めているのは事実だが、消防士・床屋・小売業・サービス業等、平日休みの職業というのも決して少なくない。平日休みなだけで不審がられるのは心外だし、また、誰かの考える理想の父親像とかけ離れているだけで不審がられるのも心外だ。育児に適したファッションやクルマというのがあるのは事実だろうが、そのファッションやクルマでなくては育児はできないということもないだろう。育児をしていようがどんなファッションをしてどんなクルマに乗ってもそれは個人の自由だろう。
 勿論、世の中には不届き者がおり、そんな者から未成年者を保護するという名目で不審な者に注意することは何も悪くはないのだが、そんなことを勘案しても、最初から不審者と決めつけられた対応をされるのは残念だ。誰だってありもしない疑いを掛けられたら腹も立つだろう。
 4/11の投稿で「○○らしさ」を押し付けることは確実に適切でないことを書いた。兼業主夫・村橋さんの件も、「外で働くのは男の仕事で家事や育児は女の仕事」のような家族観に基づいた男らしさ、女らしさの決めつけ、そして平日働いていない男=不審という、現実とやや乖離した価値感の押し付け、そして育児・家事をするステレオタイプの男性像を無意識に押し付けることによって生じる不審感も、誰かの考える勝手な父親らしさの押し付けによって生じていると言えるのではないか。


 2018年8月に日本でも認可された乳幼児向けの液体ミルクについては、9/6に北海道で発生した胆振東部地震の際にも行政の担当部署が正しくない認識に基づいた見解を示した事で話題になったが(2018年10/8の投稿)、今もまだ「楽をするな」「母乳が最良」のようなおかしな認識や主張も多いようで、BuzzFeed Japanは4/15に「その「液体ミルク批判」誰のため? 世界に取り残されている日本の母乳指導」という見出しの記事で、液体ミルクに対する批判の大半がどのように的外れかを示している。もっとも理不尽な話は
「そこまで楽する必要があるのか」
「粉ミルクを溶かす手間をかけることで親としての自覚が生まれる」
などだ。液体ミルクが日本で認可される以前も、母乳で育てるべきか粉ミルクで育てるべきかのような論争がしばしばあった。 その際にも「質の悪い母乳や粉ミルクを飲むと、赤ちゃんの髪が逆立つ」「粉ミルクだと必ずアレルギーや発達障害になる」などの根拠のないデマが囁かれていた(シノドス「母乳育児推進の問題点――粉ミルクは本当に悪いのか!?森戸やすみ / 小児科専門医」より)。
 日本には苦労は買ってでもしろという慣用表現もあり、苦労や非合理的な行為を何かと美化して称賛するような風潮がある。「手間をかけることこそ愛情」のような母親像・育児観を、自分が自分に課す為に用いるのは構わないが、そんな個人的な価値観をまるで絶対的な価値観かのように他者に押し付けることは確実に適当ではない。「粉ミルクを溶かす手間をかけることで親としての自覚が生まれる」と他人に強制しようとする人は、親以前に一般的な大人としての自覚に欠けているのではないか。まず他人より自分を見つめ直して貰いたい。

 4/10の投稿「「安倍政治を終わらせる」というスローガンのダメさ加減」でも触れたように、4/21には統一地方選の後半戦の投開票が行われる予定で、現在は選挙戦の只中にある。 ハフポスト/朝日新聞は4/15に「女性市議、一度もいなかった。鹿児島県垂水市で2人の女性が立候補した」という記事を掲載している。鹿児島県垂水市はこれまで一度も女性市議が誕生したことのない自治体で、今回の市議選には女性2人が立候補しており、垂水で女性候補が当選すれば、日本中の全ての市で女性市議が誕生したことになるそうだ。
 女性候補の応援演説では「(垂水で)女性が選挙に出るのは大変なことで、批判もあると思う。しかし女性だからできる行政もたくさんある」という激励もあったそうだ。実際に女性が立候補するなんてけしからんという批判があったのかどうかは定かでないが、もしそれが事実であるならば、そしてこれまで垂水で女性議員が誕生していないという事を勘案すれば、垂水に限らず日本の一部の地域では、そして一部の人達には「政治は女性の仕事ではない」という旧態依然の女性らしさ・政治家らしさについての認識が未だに残っているということなのだろう。

 やはり○○らしさの押し付けは弊害が多すぎる。 ○○らしさというのは、個人が自分の為に掲げる価値観であって、他者にそれを求めるのには適さない価値観だ。極端に言えば、自分が考える自分らしさ以外の○○らしさなど必要ないのではないだろうか。
 

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