4/24の投稿「朝日「WTO判決「日本産食品は安全」の記載なし 政府と乖離」は本当?」でも書いた、韓国が福島第1原発事故を理由に福島など8県産の水産物輸入を禁止していることについて、日本がその不当性をWTOへ訴えていたが「韓国の禁輸措置は不当とは言えない」という判断が示された件に関する記事を、メディア各社が今朝(4/29の午前)に一斉に報じている(産経の記事のみ約1日前の4/28午前の記事)。
- 米、WTO抗議の日本を全面支持 首脳会談で首相が謝意 改革連携で一致(産経新聞)
- 米国、日本のWTO抗議を支持 日米首脳会談で安倍首相に(日経新聞)
- 安倍首相、WTO敗訴で「加盟国に妥当性問題視の声」 韓国の水産物輸入規制で(毎日新聞)
- WTO判断、米国が日本支持=安倍首相「加盟国も問題視」(時事通信)
複数の政府関係者によると、韓国のほか米国、中国など164の加盟国・地域が参加した26日のWTOの非公式会合で、米国の代表が「日本は科学的根拠に基づき、韓国の措置がWTO協定に非整合的であることを示している」と指摘した。その上で「上級委員会が実質的な理由なく判断を覆したのは遺憾だ」と述べたという。つまり、日本政府の関係者が「米代表が「日本の主張を支持する」と述べた」と言っていた、という伝聞による記事だ。米政府の見解の話なのにもかかわらず、米側に裏取りをしたというような記述はない。要するに「米、WTO抗議の日本を全面支持」という見出しを掲げているものの、ソースは米政府ではなく日本政府関係者だ。
次に日経新聞の記事だが、「米国が日本の抗議を支持していたことが分かった。26日の日米首脳会談の場で米側が「WTOの会合で表明した」と日本に伝えた」と断定して記述しているものの、
西村康稔官房副長官が訪問先のオタワで記者団に明らかにした。
首相は28日昼(日本時間29日未明)、WTOに関して「課題について20カ国・地域(G20)各国と建設的に議論し、改革に真剣に貢献する」と述べ、WTO改革の必要性を訴えた。訪問先のオタワでの記者会見で語った。とある。つまり米政府の見解の話なのにもかかわらず、日経の記事もやはりソースは米政府ではなく日本政府関係者だ。米側に裏取りをしたというような記述はない。
時事通信の記事も同様だ。「WTO判断、米国が日本支持=安倍首相「加盟国も問題視」」と断定的な見出しなのにもかかわらず、記事には
西村康稔官房副長官は記者団に、先にジュネーブで開かれたWTO会合で米国が日本の立場への支持を表明したと明らかにした。とある。つまり米政府の見解の話なのにもかかわらず、産経・日経同様にやはりソースは米政府ではなく日本政府関係者だ。米側に裏取りをしたというような記述がないのも同じだ。
西村氏によると、首相は26日のトランプ米大統領との会談で、謝意を伝えた。
毎日新聞の記事はだけはやや毛色が異なる。何故なら毎日は見出しを「安倍首相、WTO敗訴で「加盟国に妥当性問題視の声」 韓国の水産物輸入規制で」としており、米国が日本を支持というニュアンス自体が盛り込まれていない。あくまで安倍首相や日本側が、「WTO加盟国からも日韓間の係争についてのWTOの判断の妥当性を疑問視する声が上がっている」と訴えている、というニュアンスで書かれている。しかも、毎日新聞の記事には
カナダの首都オタワで、トルドー首相と共同記者会見を開き、とあり、安倍氏や日本政府関係者らがこの件について触れたのは米大統領との会談直後ではなく、その後に訪問したカナダでのことだという事が分かる。産経の記事だけは異なるが、日経と時事通信の記事にも一応「オタワ」とあるのに、日加首脳会談を感じさせる記述は他になく、それに関する記事だということがかなり分かり難い。そして何故か西村氏の米の姿勢に関する話が強調されている。
しかし、毎日新聞の記事にも序盤に
日本政府は今月26日のWTOの会合で、上級委が機能不全だと批判し、米国やカナダが日本の立場を支持。という記述がある。つまり、日本がWTOの判断に不満を示し、米加がそれを支持したということになっているが、一方で記事終盤では
日本政府によると、WTO会合で米国は「日本の立場を支持する」と表明し、カナダは「問題意識を共有する」と述べた。としており、記事序盤の断定的な表現は、やはりソースは日本という事が分かる。しかもカナダに関しては「問題意識を共有する」としているそうで、果たしてそれが「日本の立場を支持」と言えるだろうか。「問題意識を共有」とは「日本が問題意識を持っている事だけは理解する」という意味ではないのか。
冒頭でも紹介した4/24の投稿の中で、「基本、ソースが1つしかない報道を手放しに信じることは出来ない」と書いた。今日取り上げた件に関しては4つの記事を紹介した。4つの記事があるという事は「ソースは4つ」と感じる人もいるかもしれない。しかし、どの記事にも共通しているのは、
「米が日本を支持した」という内容、しかも断定的に書いているにもかかわらず、情報源は首相・日本政府関係者のみということだ。 つまり、記事は4つあるがソースは日本政府関係者の1つしかないと言えるだろう。本来は、
「米が日本を支持した」という日本政府としての見解を首相や関係者が示したというのが正確な表現ではないのか。それを「米が日本を支持した」と断定的に書くのはミスリードなのではないだろうか。断定的な記事を書くのであれば、米政府関係者等に対して裏取りをする必要があるのではないか。そして毎日新聞の記事では、カナダが「問題意識を共有する」とした事を以て「カナダも日本を支持」と書かれているが、実際はそれも日本政府関係者からの伝聞でしかない事を勘案すれば、産経新聞の見出し「米、WTO抗議の日本を全面支持」なんてのは、眉に唾をつけて読まなければ足元をすくわれかねない、としか思えない。
邪推かもしれないが、日米首脳会談後にこんな話が、しかも日本側から出てきた事を勘案すれば、韓国との係争について有利にことを進めたい日本・安倍首相が、国連やWTOにどちらかと言えば懐疑的な態度を示すことの多いトランプ氏に、何かしらの密約のようなものを取引材料に提案して「日本の立場の支持」を要請したのではないか?などと考えてしまう。もしその密約が、更なる武器購入の確約、などならそれこそ最悪だ。
ここで自分が言いたいのは、あくまで、日本政府側の談話だけを根拠に、裏取りもせずに他国の姿勢を断定的に報じるのは如何なものか、ということであり、米やカナダは日本の立場を支持していないのに嘘をつくな、ではない。裏取りもせずに「米やカナダが日本を支持というのは嘘」と断定してしまうのも、同じような危うい行為である。
何はともあれ、こんな報道をしていれば、所謂既存メディアの信頼性が低下するのも無理はない。個人的には、このような報道をするメディアは、その内フェイクニュースを報じかねないと危惧する。