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朝日「WTO判決「日本産食品は安全」の記載なし 政府と乖離」は本当?


 「WTO判決「日本産食品は安全」の記載なし 政府と乖離」という記事を、昨日・4/23に朝日新聞が掲載して話題になっている。
 話の前提に、韓国が福島第1原発事故を理由に福島など8県産の水産物輸入を禁止していることについて、日本がその不当性をWTOへ訴えた、ということがある。WTOの紛争処理小委員会(下級審に相当、以下小委員会とする)は、2018年2月に「禁輸は不当な差別」と認めて是正を勧告したが、韓国はそれを不服として上級委員会(上級審に相当)に上訴していた。その上級委員会の判断が2019年4/11に示されたのだが、韓国の禁輸措置を不当とした小委員会の評価過程に問題があったとして、その判断を取り消した。
 ただ、時事通信の記事「一審の考察不足、問題視=水産物、安全認定は変えず-WTO最終審」には、
 一方、水産物が科学的に安全であるという事実認定は維持した。将来の禁輸解除に向け、よりどころとなる安全性の評価が保たれたのは救いだが、道のりは険しそうだ。
ともある。しかし、
 上級委は東京電力福島第1原発事故があった日本周辺の海洋環境や、韓国が許容できる放射性物質の量などを、パネル(下級審に相当する小委員会)が十分考慮しなかったと批判。自然界に存在する放射性物質の検証も欠けていたと指摘した
ともある。個人的には、両社の立場を配慮した判断が下されているように思える。しかし逆に言えば玉虫色の判断とも言えるだろうし、決して上手くない裁定のようにも思える。因みに、上級委の審理は差し戻す事が出来ない、という仕組みなのだそうだ。


 このWTO・上級委員会の判断を受けてメディア各社は、例えば日経新聞の「韓国の水産物の輸入規制、日本が逆転敗訴 WTO最終審」のように、小委員会での判断が覆されたことを「逆転敗訴」という表現で報じた。産経新聞はこの判断が示される直前に「WTO、韓国の輸入禁止で判断 福島など8県産水産物 是正勧告の公算」という記事を掲載し「輸入再開の判断が示され、日本の勝訴となる公算が大きい」としており、産経新聞が政府や与党に近い姿勢を示す事が多いのを勘案すれば、メディアだけでなく日本政府内にもそのような期待・見通しがあったのだろうと推察できる。
 この玉虫色とも言えるWTO上級委の判断を受けて、上級委の判断を以てWTOの裁定が確定する(厳密には、示された判断が30日以内に、正式に採択される事を以て確定なのだそうで、現時点ではまだ確定ではなく「確定的」)にも関わらず、菅官房長官が「(日本の)敗訴との指摘は当たらない」という見解を示した(ロイターの記事)。韓国に対し、科学的根拠に基づき禁輸措置全体を撤廃するよう二国間協議を通じて求めていく方針なのだそうだ。
 二国間協議を求めること自体には大きな問題を感じないが、「WTOの判断は敗訴に当たらない」という見解は、「負けを認めるまで負けじゃない」のような負け惜しみ染みた話で、大人げない、というより寧ろ幼稚なようにすら見える。

 この菅氏が示した「科学的根拠に基づき」云々という見解・方針は、前述の時事通信の記事で「水産物が科学的に安全であるという事実認定は維持」と表現されている部分に因るのだろうが、一方で「福島第1原発事故があった日本周辺の海洋環境や、韓国が許容できる放射性物質の量などを、パネル(下級審に相当する小委員会)が十分考慮しなかったと批判。自然界に存在する放射性物質の検証も欠けていた」という話もあり、それはつまり「科学的な検証が不十分だった」ということでもあるだろう。そして、その「科学的」云々という話が、実際には小委員会の報告書にもなかったとしたのが、冒頭で紹介した朝日新聞の記事「WTO判決「日本産食品は安全」の記載なし 政府と乖離」だ。


 自分が初めて朝日新聞の当該記事に触れたのは昨日・4/23の19:30頃だった。この記事の内容がもし事実に即しているならば、ウソにまみれた現政権(4/2の投稿4/12の投稿)が、またしても嘘をついたことになる。しかし朝日新聞の記事だけでこの件の評価を下すのは少し危ういと感じ、他メディアではどう報じられているかを検索してみた。朝日新聞が記事を掲載したのは4/23の8:42(ハフポストの転載記事より)なので、自分が検索した時点で既に約半日が過ぎていたが、その時点でこの事案を取り上げたのは朝日新聞(とその転載・抜粋記事)だけだった。
 基本、ソースが1つしかない報道を手放しに信じることは出来ない。この事案の大元であるWTOの報告書を確認するのが最もその信憑性を評価するのに適した方法なので、一応WTOのWebサイトで検索をしてみるとそれらしいページがあるにはあったのだが、朝日新聞が記事で示した見解「WTO判決「日本産食品は安全」の記載なし」を確認するには、報告書の全てを精査する必要がある。PDF資料は割と膨大で、自分は片言でコミュニケーションをとる程度の英語力しかなく、まず全てに目を通すのにはかなり膨大な時間がかかるし、更に当該分野の専門的な用語等にも明るくなく、全てに目を通したところで妥当性の高い判断が出来る自信もないので、自分でWTOの書類を精査することを諦めた。

 なので、この件に関して論評できる立場にないとも言えそうだが、英語力不足でも推察できることはある。単純に「朝日新聞しか報じないようないい加減な内容」と斬り捨てることもできるが、朝日新聞の記事の内容に致命的な不備があったのだとすれば、産経新聞など何かと朝日新聞に批判的な一部の報道機関が、その手の反論・批判記事を掲載している筈なのに、朝日新聞の記事掲載後半日を経てもその手の記事すらないというのは一体どういうことなのだろうか。そんな視点で考えると、朝日新聞以外のメディアが何かに忖度しているとも思えるし、朝日新聞の記事は間違いではないものの「WTOの判断が玉虫色すぎて評価が難しい」と他メディアは捉えているのかもしれないとも推測できる。しかし後者が実情であれば、その手の記事も1本や2本は出てきそうなものだ。

 朝日新聞の記事掲載から一夜明けた今日・4/24、産経新聞がようやく関連する記事「河野外相、WTO判断めぐり朝日新聞に抗議」を掲載した。河野外務大臣が記者会見で
 「朝日新聞だったかが、やや正確性を欠く記事があって、日本産食品の安全性に疑念を抱かせかねないものがあった」と述べ、朝日に抗議した
という内容だ。河野氏はWTO上級委員会が示した判断を受けて、4/12に次のようにツイートしており、
恐らく、朝日新聞の記事は自分を暗に名指しした内容だと感じたのだろう。それで反論をする姿勢を示したように見える。しかし、ここで注目すべきは河野氏の姿勢ではない。河野氏が前述のような反論するのはある程度必然で、報じる必要がないとは言わないが、大した重要性はない。重要なのはWTOが日本側の「日本産食品は科学的に安全」という主張を明確に認めたのか否かという点だ。
 産経新聞の記事は、朝日新聞の記事が掲載されてから半日以上経ってから書かれた記事にも関わらず、河野氏が何と言って朝日新聞の記事に反論したかに終始している。実際にWTOの報告書を精査した結果「日本産食品は科学的に安全」という明確な判断が示されていたか、若しくはいなかったか、については一切書かれていない。もしかしたら自分がWTOの報告書だと思っている当該Webサイトがその全てではないのかもしれないが、少なくとも政府や朝日新聞の記者がそれを入手し、朝日新聞はそれについて報じているのに、産経新聞は入手すら出来ないというのも変だ。朝日新聞んが入手出来ている方が不自然なら、その点に触れそうなものでもある。
 産経新聞がそのような取材・記述をせずに政府側・政府関係者の主張だけを記事化しているということから、一体今どんな状況にあるのか、産経新聞や政府の思惑がどこにあるのか、が少なからず見えてくる。

 このように、英語に明るくなくとも、各メディアがどのような報道をしているかを見るだけでも、推察できることがあることは確かだ。産経新聞には、河野氏の反論を記事化するのであれば、是非とも朝日と河野氏のどちらの見解に妥当性があるのかの検証までして欲しい。産経でなくとも他のメディアにも同じことが望まれる。

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