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香港「逃亡犯条例」抗議デモから考える民主主義の脆さ


 現在香港議会で検討されている容疑者の身柄を中国本土へ移送できるようにする「逃亡犯条例」に抗議するデモが、6/9に香港で行われた
これはAFPのサイトに掲載されている画像の1枚だ。他のリンク先にもいくつかの画像が掲載されているが、デモの規模が最もよく分かるのはこの1枚だし、AFPは他にも、デモの規模の大きさを理解するのに適した画像を複数掲載している。
 このデモの参加者について現地の警察は24万人とし、主催団体は103万人と発表しているそうだ。トランプ大統領の就任式の画像(BBC「トランプ氏、就任式の人数めぐり報道を「嘘」と攻撃 比較写真を否定」)と比べると、どちらが実情に近いのかが推測できるだろう。また、2014年の香港民主化デモ・所謂雨傘運動の時の画像(ゲッティイメージズ「2014年 香港民主化デモ」)と比較しても、同程度が今回の方が規模が大きいのでは?と思える。


 朝日新聞の記事「香港の反政府デモ、警察と激しく衝突 100万人参加か」によれば、当該条例に反対するデモは3月と4月に続いて今回が3度目だそう。1回目の参加者は主催者側の発表でおよそ1万2000人、2回目は約13万人だったそうだ。
 余談だが、このデモに関する朝日新聞の記事とテレ朝ニュース(ANNニュース)の報じた内容のコントラストが興味深い。言うまでもなくこの2つは同じ朝日新聞系のメディアなのだが、前述の通り、朝日新聞が「香港の反政府デモ、警察と激しく衝突 100万人参加か」という見出しで報じたのに対して、テレ朝ニュースは、



 9日の反対デモには主催者の予想を大きく上回る103万人が参加し、警官隊との衝突で4人がけがをして、7人が逮捕されました
と伝えている。確かに朝日新聞の記事に掲載されている画像や、テレ朝ニュースで使用されている映像を見れば、デモ参加者が警官と激しく衝突しているようにも見えるが、参加者が103万人で怪我人も逮捕者も10人以下であれば、警官と衝突したのはデモ参加者のほんの一部に過ぎないと言えそうだ。それは警察側の発表したデモ参加者数25万人という見立てが妥当であっても変わらない。
 朝日新聞の記事見出しでは、あたかもデモ参加者の多くが暴徒化し、暴動、若しくはそれに準ずるような状況になったかのように感じられる。だが実際には、散発的に小競り合いが起きた程度というのが実情だろう。自分には、朝日新聞の用いた「香港の反政府デモ、警察と激しく衝突 100万人参加か」という見出しは、ミスリードのように思える。


 共同通信「LAでも抗議デモ「香港頑張れ」200人、黄色い傘も」によれば、米・ロサンゼルスやサンフランシスコ、ニューヨーク、カナダ・バンクーバーでも、香港のデモを支持する抗議集会が小規模ながら行われたそうだ。また、中国・中華圏ウォッチャーとも言えるツイッターアカウント・黒色中国さんによれば、台湾の蔡英文総統も香港のデモに関して以下のようなコメントをしたらしい。
更に、台湾史.jpというツイッターアカウントでは、6/4が天安門事件から30年目の節目であったことに因んで蔡英文氏がインスタグラムに投稿した画像を引用し、和訳を付けて紹介している。


 蔡英文氏のこの2つの主張は、自分達が現在有している民主主義は何の努力もなしに維持されるものでもない、ということを強く意識させる内容だ。2つは共に中国共産党への牽制でもあり、警戒感の表れでもある。
 日本でも、中国との間には尖閣諸島を巡る問題、日本の海保に当たる中国海警局の船が日本の排他的経済水域への侵入を常態化させ、しばしば領海にまで侵入を繰り返しているという問題がある。無害通航権というものがある為、沿岸国の平和・秩序・安全を害さない通航であれば排他的経済水域・領海への侵入自体に厳密には問題はないのだが、 中国海警局の船がなぜ日本の排他的経済水域・領海への侵入を繰り返しているのかを考えると、必ずしも無害通航権の範疇に収まるとも言えないだろう。
 このような状況を考えれば、中国共産党が香港への抑圧を強める事に対して、日本からも支援の声が上がっても良さそうなものだが、自分の知る限り、昨日・6/9に香港デモを支援する声が日本で上がったという報道はない。なぜ日本ではそのような動きが盛り上がらないのか、常日頃尖閣諸島を巡る中国側の動きを積極的に批判する人達は、香港支援の声を上げても良さそうなものだが、なぜかそうはならない。とても不思議な状況だ。


 小説家/文筆家で、ワイドショーなどでコメンテーターなども務める室井 佑月さんが、同じく昨日・6/9に、金融庁が6/3に、95歳まで生きるには夫婦で年金以外に約2000万円の資産が必要になるとの試算を示し(日経新聞「人生100年時代、2000万円が不足 金融庁が報告書」)、政府の年金制度に対する無責任さへの批判が高まっていること(詳しくは6/7の投稿参照)に関して、
とツイートしていた。このツイートを見て、蔡英文氏の「自由とは空気のようなものである。欠乏し息苦しさを感じた時、はじめて自由を感じ取れるのである」と似たようなことを言っていると感じた。
 どうも日本では昨今、騒いでもどうしようもないところまできてからメディアが報道を始める傾向にあるように思う。その傾向は現政権の成立以降顕著に思える。その結果、国民は目と耳を塞がれた状態に陥りやすく、結局「今更騒いでも仕方がない」と判断しがちになっているのではないか。例えば、現在政権と与党は一体化して野党らの予算委員会開催の要求を、既に100日近く拒否し続けているのだが、最近やっとそれがメディアで取り上げられ始めた。会期が終わる間近になってからこの件を取り上げるメディアを見ていると、その認識を再確認せざるを得ない。
 このブログでは何度か書いているように、現在はネットという大手メディアに頼らなくとも情報を収集できる仕組みがあるのだから、全ての有権者が政治に対して積極的に興味を持ち、自ら必要な情報を収集し適切に取捨選択を行えば、メディアが騒いでもどうしようもないところまできてから報道を始めようが、それは大した問題ではないかもしれない。しかし、決して少なくない人々が日々の生活に終われ、政治に関する情報収集に多くの時間を割けないという側面も少なからずある。そう考えればやはり、メディアは役割をきちんと果たすべきで、特に現在のNHKのように、視聴者から料金を強制的に徴収しているにもかかわらず、何かと視聴者よりも権力に忖度した報道をしがちな組織など言語道断だ。

 これも何度も書いていることだが、自分には、公的な文書・データの改ざん・捏造・隠蔽・不適切な廃棄・そもそも記録を残さない等、あからさまな嘘をいくつもついたり、沖縄県民の意思表示に対して「寄り添う」などと言いつつ無視をしたり、官房長官が一部の記者を不当に扱ったり、憲法に最も縛られるべき首相が憲法改定を主導したり、副首相が「セクハラ被害者に嵌められたという声もある」などの放言を繰り返したり、既にこの国の民主主義も、香港に負けず劣らず危機的な状況にあると感じる。また、一部の国民が、政権批判を内容にかかわらず許さない風潮になっているのも、明らかに民主主義にとって好ましくない状況だ。
 それに対して「そういう事を書けるのだから危機的な状況ではない」と反論するものが
常に出てくる。しかし、蔡英文氏や室井さんの言うように、危機的な状況に陥ってから声を上げようとしても、それはもう手遅れでしかない。それはナチス政権下のドイツ、戦前戦中の日本を見ても明らかだ。
 にもかかわらず、日本・日本人は相変わらず騒いでもどうしようもないところまできてから、あたふたすることが多い。少子化問題然り、年金問題然り。勿論、集団的自衛権を認める安保法制も、所謂共謀罪法案も同じだ。このままでは、最悪再び日本が戦前戦中の社会のような状況になりかねないと危惧する。

 香港市民や、蔡英文氏と彼女を支持する台湾市民が持つ危機感を、日本人も持つべきではないだろうか。現自民党政権の中国共産党化、つまり強権化をこれ以上許してはならない

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