米政府がテロ対策などを理由に、ビザ申請者に対してSNSアカウントの申告義務付けを先月から始めた。この件はCNNなどが最初に報じたそうで(CNN「米国務省、ビザ申請者にSNS情報の提出義務付ける措置を開始」)、日本でも多くの報道機関が追従する報道を行っている。
時事通信「米ビザ申請、SNS情報必須に=過去5年対象、入国審査強化」によると、年間約1500万人が対象になるそうだ。ただ、日本から米国への渡航に関しては、90日以内/観光目的での滞在ならばビザは免除されるので、日本人についてはそこまで大きな影響があるとは言えないかもしれない。しかし逆に言えば、日本同様のビザの免除措置が他にも38か国(地域)で行われている為、このSNSアカウント申告の義務付けが果たしてテロ対策として有効なのかは疑問だ。また、過去5年間に利用したフェイスブックやツイッターなどのアカウント、電話番号、メールアドレスなどの申告を求められるそうだが、複数使用しているアカウントの一部だけを申告してすり抜けるケースもあるだろう。申告内容が事実に即しているか、つまり申告されたアカウントが実際に主に使用されているアカウントかどうか、申告しなかったアカウントがあるかどうかは一体どのように確認するつもりなのだろうか。そのような部分が曖昧だと、制度が国家権力によって恣意的に用いられる恐れがあると言えるのではないか。
30年前(1989年)の6/4は中国で天安門事件が起きた日だ(BuzzFeed Japan「あの日、若者たちが広場を埋め尽くした。そして… 天安門事件を知る13枚の写真」)。中国国内では天安門事件に関する情報統制が今も続いており、当然学校等で教えることなどあり得ないので、たった30年で事件を知らない、正しく認識していない世代が生じているそうだ。情報が統制されているので、実際に目の当たりにした者、それに準ずる者ぐらいしか当時の実状を知る者がいない、それは言い過ぎでも、戦争を実際に経験した世代が既に70歳を超え、15歳以上、つまり社会人として戦争を体験した者に限定すれば85歳を超えている日本でも、教育が一応行われているにもかかわらず、日中・太平洋戦争に関する正しい知識を持たない者が若年層を中心に、徐々に増え始めていることに比べても、それ以上の速さで天安門事件を適切に把握しない者が中国では増えているのだろう。
しかし、一応中国圏でもある香港や台湾では、今も天安門事件を風化させない為の動きは根強いようだし、今年は30年目という節目の年でもあり、それらの地域で行われた追悼集会には多くの人が集まったようだ(日経新聞「天安門30年、香港・台湾で追悼集会 締め付けに反発も」)。台湾では蔡 英文総統が「中国政府は過去の過ちを悔やむことがないばかりか、真実の隠蔽を続けている」とSNSへ投稿している(ロイター「天安門事件、中国は「真実の隠蔽続けている」=台湾の蔡英文総統」)。
30年目の節目ということもあり、米中が互いに関税を課し合うという経済戦争の真っ只中ということもあり、アメリカ側は中国の人権問題などをこのタイミングで殊更非難し(産経新聞「天安門事件30年 ポンペオ国務長官、中国政府に事件の全容解明とウイグル族などへの弾圧停止を要求」)、中国側はそれを受け、改めて天安門事件当時の当局の対応の正当性を主張するという状況になっている(東京新聞「天安門事件30年 中国「発展の道、正しい」」)。
率直に言って、これについてはアメリカ側の主張に分があるとは思うのだが、前述のように、アメリカも入国審査時にSNSアカウント等の申告を義務付ける、監視のようなことを一般市民を対象に始めており、また今の米大統領は、女性蔑視が強く懸念される発言をしたり、メキシコを始めとして中南米の国を蔑むようなことを平気で言ったり、白人至上主義者がクルマで反対派に突っ込んでも、「どちらも悪い」のようなことを言ったりする人物であることを勘案すれば、アメリカも決して人権を尊重している国とは考え難い。
この両者の対立は、人権問題を双方政争の具として恣意的に用いているだけで、アメリカ側の主張は単なる建前でしかないようにも思える。特に、冒頭で触れたSNSアカウントの申告義務化の第一印象は、「アメリカの中共化」でしかなかった。
毎日新聞が6/2に「首相官邸 打ち合わせ記録一切作らず 「作業責任は官庁側」 指示の検証不能」という記事を掲載して話題になった。記事によると、
首相が官邸で官庁幹部と面談した際に、首相官邸が議事概要などの打ち合わせ記録を一切作成していないらしい。現政権はこの数年度々データの改ざん・隠蔽・捏造・不適切な廃棄を指摘されてきたが、とうとう記録をそもそも作らない方針に転じたようだ。記録を残して検証を可能とすることは近代的な国家が発展する為の大前提なのに、それを国家権力の中枢である官邸が放棄するというのは前代未聞の事態で、日本は既に先進国なんて言える状態ではないと言えそうだ。しかしこの件も、昨日の投稿で触れた「野党による同性婚を認める法案の提出」と同様にテレビ報道ではあまり取り上げられていない印象だ。芸能人の薬物事犯や、重要性がないとは言わないが高齢ドライバーが起こす事故などに、必要以上に時間を割き、官邸が記録を残していないことや、野党側が同性婚を認める法案を提出したことには殆ど触れない。同性婚に関して言えば「台湾でアジア初の同性婚を認める法案が成立した」ことは多くの局が取り上げていたし、これまで現政権内で起きたデータの改ざん・隠蔽・捏造・不適切な廃棄に関しても総じて取り上げてきたのに、何故それと関連性の強いこれら2件がなぜ取り上げられないのかとても不思議である。
あくまで個人的な見解だが、何かしらの忖度が生じているとしか思えない。
アメリカ政府は個人にSNSアカウント等、これまでの記録の提出を義務付けた。日本政府は自ら記録の作成を放棄した。この2件のコントラスの差は強烈だ。
記録を残さないという日本政府の姿勢は国民の政府に対する不信を招くだけでなく、諸外国から「日本は都合の悪い記録を残さない国」と認識されかねない由々しき事態だ。現政府が記録を残さない方針を継続し、そんな諸外国の日本に対する認識が更に強まれば、日本の外交的な信頼性は地に落ちる。都合の悪い情報を改ざんしたり隠蔽したり不適切に廃棄したり、そもそも記録を残さないというような状況は「日本、というか自民党の中共化」とも言えそうだ。