空いている内に早めに昼食を済ませてしまおうと、よくある街の定食屋へ入った。設置されたテレビではワイドショーが流れていた。昨日初報があった、韓国がGSOMINA:軍情報包括保護協定の破棄を決定した件が取り上げられていた。新聞紙面を引用してアナウンサーが一通り説明した後、番組司会者が出演するコメンテーターにそれぞれコメントを求めた。彼らは「韓国政府は冷静さに欠けている」と口を揃えた。誰一人として日本政府が冷静かどうかについては言及しなかった。彼らこそ「冷静さ」に欠けた自国贔屓のコメントを示しているとしか思えなかった。
そんなのを見せられると、どうにもこうにも胸糞が悪い。原因は当該ワイドショーであり、その定食屋には何も落ち度はない。だが、そんな番組を見ながらでは飯が不味くなる。しかし自分にはチャンネルを変える権利はない。まだ注文する前だったのでそっと店を出ることにした。昼食はコンビニ弁当で済ませた。
TBSニュースは昨日の昼頃、つまりまだ韓国側がGSOMIAの破棄を決定する前に行われた、菅官房長官の会見を取り上げて「GSOMIAめぐり韓国に連携呼びかけ」と報じた。
菅氏は「日韓関係が非常に厳しい状況にあるものの、連携すべき課題については韓国とも連携していくことが重要である。このように考えており、この点を踏まえつつ同協定について引き続き適切に対応していきたい」と述べている。つまり「安全保障に支障が出るからGSOMIAは破棄しないで」と言っているわけだ。
これは誰が見ても分かる支離滅裂な言説と言わざるを得ない。しばしばこれが支離滅裂だと分からない人もいるようだが、そのような人は日本語読解力に欠けているか、現状認識能力が欠けているとしか言えない。何故なら、韓国側がこの姿勢を示した大きな要因に、先月日本側が、「安全保障上の問題がある」という理由で韓国に対しての輸出優遇措置を止めると言い出したこと(テレ朝ニュース「安倍総理 対韓国輸出規制強化の正当性を強調」)、
今月2日(8/2)に、輸出管理で優遇措置をする「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正を閣議で決定したこと等がある(ハフポスト「ホワイト国とは? 韓国を除外。世耕弘成・経産相「対抗措置ではない」」)。
安全保障上の問題がある国に対して軍事機密の共有を求めるというのは明らかに支離滅裂である。安全保障上問題がある国と自国の機密を共有する協定を結ぶのは馬鹿のやることだ。つまり日本が韓国に求めているのはそういうことだ。また韓国側に、安全保障上の問題があると名指ししてくる国とは機密を共有したくない、という思いが生じるのも当然のだろう。
因みに、前述のハフポストの記事によると、世耕経産大臣は、韓国をホワイト国から除外することと決めた閣議後の会見で、「日韓関係に影響を与えるなんてことは、我々は全く意図しておりません」と述べたそうだ。しかし、彼の意に反して明らかに関係に影響が出ている。彼は「意図していない」と言っているが、その意はつまり「影響は出ないと見込んでいる」ということだ。率直に言って見通しが甘いとしか言いようがない。
韓国によるGSOMIA破棄については多くのメディアが報じたが、時事通信は「軍事情報協定破棄、日本政府に衝撃=韓国との亀裂決定的」という見出しで報じていた。衝撃を感じたのは時事の記者ではなく、あくまでも「政府関係者の間に衝撃が走っている」というニュアンスだ。同記事には防衛省幹部のコメント「さすがにそこまでしないと思っていた。残念だ」が掲載されている。端的に言って、見通しが外れた時の政治家や役人等の常套句「想定外」というやつだ。「世耕氏同様に見通しが甘いお前らが残念だ」以外の感情が湧いてこない。また、
佐藤正久外務副大臣は22日夜、BSフジの番組で「愚かだ。間違った判断だ。安全保障環境を考えればあり得ない」と韓国を厳しく批判した。という記述もある。彼も、冒頭で書いたワイドショーのコメンテーターらと同様に、徴用工/慰安婦等の問題に端を発する両国政府間の対立に、安全保障上の問題を持込んだのは、明らかに日本側であること、つまり引鉄をひいたのは日本側であることを全く度外視しており、冷静さに欠けたコメントとしか言いようがない。
更に、時事通信は「日米韓連携に亀裂=防衛省「北朝鮮利するだけ」・GSOMIA破棄」という見出しの記事も掲載している。防衛省幹部のコメント「弾道ミサイル開発を着々と進める北朝鮮を利するだけだ」が元になっている見出しだが、記事冒頭では「米の情報で補完でき、北朝鮮のミサイル対処への影響は小さい」というコメントも紹介しており、強がりと懸念が省内、というか政府内で交錯している様子が見て取れる。安倍首相は、昨日韓国のGSOMIA破棄についての質問に応じず、政府関係者が「日本への影響はない」という見解を示していると、テレ朝ニュースが「日本政府高官「影響ない」 韓国 GSOMIA破棄」で報じている。
菅氏が、日本側が安全保障上の問題があるとする韓国にGSOMIA維持を求め、佐藤外務副大臣が「(韓国のGSOMIA破棄)あり得ない」と述べる一方で、政府関係者が「影響はない」と述べる。首相はコメントすらしない、というか出来ない。誰が見ても日本政府の慌てぶりは一目瞭然だ。だからこんなに支離滅裂な話が飛び交っているんだろう。韓国だけでなく、周辺諸国/関係国からどう見られるかすら考慮出来ていない状態だとしか思えない。
一応確認しておくが、自分は決して韓国政府が冷静に対応しているとも思っていない。それについては8/21の投稿でも書いている。 この投稿で自分が言いたいのは、韓国政府が冷静とは言えないのと同様に、というかそれ以上に、日本政府は著しく冷静に欠けている。そして冒頭で書いたように、日本のメディア、一部の有識者と呼ばれるような人も冷静さに欠けるコメント・主張しかできなくなっている、ということだ。
日本では、目上の人間からしばしばこう言われる。
8/21の投稿でも書いたことだが、よそ(他国)の不備を指摘するなら、それ以前に身内(自国)の不備を正さなくてはならない。政府・メディア・有識者がこぞって「私たちは自国のことは棚に上げて他国を非難する国民性です」と表明していることが恥ずかしくてたまらない。今の日本を表現するには、厚顔無恥という表現がぴったりだ。自分のことを棚に上げるな
トップ画像は、OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像、ChickenonlineによるPixabayからの画像 / その2 を組み合わせて加工した。