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話題にならない消費税増税、その原因は既存メディアの劣化?


 FRB:米連邦準備理事会・パウエル議長は、8/23の講演で「世界景気にはさらに減速の証拠がみられる」と指摘したそうだ(日経新聞「FRB議長「世界景気さらに減速」 追加緩和に含み」)。世界経済に関する最も大きな懸念材料は米中貿易摩擦だろう。報復関税の応酬が続いており、摩擦ではなく経済戦争と言っても過言ではない。
 彼の発言の中には、「米経済活動は良好で、物価上昇率も目標の2%に戻っていくようにみえる」「個人消費がけん引して良好だ」という表現もあったようだが、株式市場の不安定さ、世界的に長期金利が急落したこと等を不安材料として、「成長持続へ適切な行動を取る」と述べ、追加利下げに踏み切る可能性を示唆したそうだ。


 現在日本の報道は、日韓両政府の対立と煽り運転の容疑者の素性に関する話で持ち切りだ。世界経済への懸念材料があり、増税が約1か月後に迫っているにもかかわらず、消費税増税に関する報道は殆ど見られない
 数日前に、水道民営化に関するパブリックコメントがSNSなどで話題になった。この件をBuzzFeed Japan「「インフラを殺すな」”水道民営化”に反対のパブコメ殺到?一時アクセス困難に」などが報じたが、パブリックコメント募集開始に関する報道があったという記憶は殆どない。それどころか、多くのメディアは「締め切り間際に話題になった」ことすら報じていなかったように思う。大手メディアはそれ同様に、消費税増税間近になってから「本当に大丈夫でしょうか?」みたいなニュアンスで、テレビなどならアナウンサーらが深刻そうな顔で語り始めるつもりだろうか。
 消費税増税は確かに既に決まっていることだが、景気の状態がよくない場合に増税に踏み切ることが如何に不適切かは既に多くの人が認識しているだろう。政府は今も景気は緩やかに回復しているというスタンスを崩していないが、その姿勢に妥当性が本当にあるのか。なぜメディアはそれをもっと指摘しないのか。他のニュースが重要でないと言うつもりはないが、少なくとも煽り運転容疑者の素性の報道に割いているリソースは過剰で、その何割かだけでも、消費税増税によって引き起こされる景気後退、軽減税率による混乱等の悪影響を提示するのに使うべきではないのか。8/19の投稿で紹介したように、直近の世論調査で、消費税増税については反対多数、軽減税率への理解が進んでいないは明らかなのだから。


 しかし、メディアだけに問題があるわけではない。前述の8/19の投稿で紹介した世論調査から分かるように、消費税増税には反対が多いのに、何故か消費税増税を進める方針の政権や与党への支持も同時に高いという矛盾した認識が国民に広がっている。テレビなどが煽り運転容疑者の素性についてあんなにもリソースを割くのは、消費税増税に関して報じるよりも視聴率やビュー数が見込めるからでもある。つまり国民・有権者の、消費税増税によってどんなことが起きるかということへの興味の薄さ・危機意識の低さや、確実に自分達の生活に大きな影響があることにもかかわらず、どこか他人事である、ということなどの裏返しでもある。
 消費税増税の悪影響について、これまでメディアが全く報じてこなかったわけではない。昨年12月に厚労省の毎月勤労統計・賃金の調査に関する不正が発覚し、日本経済を左右する最も大きな要素の1つである国内消費の動向に直結する、実質賃金が上がっていないことが指摘され、そんな状況で消費税増税に踏み切れば確実に深刻な景気の後退が起きることは、これまでに何度も指摘されてきた。しかしそれでも、頑なに「景気は緩やかに回復している」と言い続ける現政権と与党・自民党の支持は衰えず、7月に行われた参院選では同党が最多議席を獲得した。参院選は政権選択選挙ではないものの、与党が勝利を納めたということは、実質的には現政権に対する信任が再び行われたと言っても過言ではない。それをメディアが「消費税増税に賛同はしないものの、有権者は概ね了承済み」と受け止め、他の事案へリソースを割いていると考えれば、「消費税増税に関する報道にリソースを割かないのは不適当」とも言い難い。


 しかしどう考えても、現政権が頑なに「景気は緩やかに回復している」というスタンスを変えず、消費税増税を決行しようとしている理由は、消費税増税を再び延期すれば、景気が改善していないことを認めることになり、これまで現政権が最大の拠り所にしてきたアベノミクスの失敗を認めることにも繋がるし、2016年に示した「これまでの約束とは異なる新しい判断」を再びすることになり、つまり前言を反故にする公約破りを再び行うことにもなるからだろう。
 言い換えれば、消費税増税は、現政権の維持・延命に不可欠であるから決行するのだろう。更に言い換えれば、現政権は国民生活よりも自らの保身の為に消費税増税を行おうとしている

 一度決定が下されると、その決定が状況に合わなくなっても方針転換ができず、それによって悪影響が引き起こされることがしばしばある。その理由は、関係者の利益が過剰に優先されることもあるし、政治家や役人が自らの面子を保つためという場合もある。またその両方の場合もある。現政権が消費税増税を実行し、政権を維持・延命したい理由にもそんな側面はあるだろう。しかし安倍氏の場合、彼が悲願とする憲法改正の実現の為に政権を維持・延命したい、というのがその最大の理由ではないだろうか。多くの国民は、憲法改正の為に消費税増税が行われることに果たして納得が出来るだろうか。
 8/19の投稿で紹介した世論調査では、憲法改正についても反対が多数である。なぜ有権者は、消費税増税にも憲法改正にも反対なのに、政権や与党を支持するのだろうか。メディアがその支離滅裂さをハッキリ指摘しないのもその大きな要因のように感じられるが、それ以前に、やはり国民・有権者の危機意識の低さや、確実に自分達の生活に大きな影響があることにもかかわらず、どこか他人事である、つまり当事者意識に著しく欠けているのが最大の問題点ではないだろうか。

 この投稿のタイトルを「話題にならない消費税増税、その原因は既存メディアの劣化?」とした。しかし、メディアが劣化したのは有権者が劣化していることの現れでもあるし、政治が劣化しているのも有権者が劣化したことの裏返しでもある。そして、劣化したメディア・政治が更に有権者を劣化させる。そんな負のスパイラルに陥っているのが現在の状況だ。


 トップ画像は、Kevin SchneiderによるPixabayからの画像 を加工して使用した。

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