「血液クレンジング」というワードが、この数日ツイッターのタイムラインに頻繁に現れる。数年前にも似非医学の類であるという指摘を受けたことがあるらしいが、自分はそれを知らなかったので、「血液クレンジングとは何ぞや」とGoogle検索してみた。
最も上位に表示された「血液クレンジングR | 予防対策 | 健康院クリニック(スクリーンショット)」によれば、血液クレンジングとは「医療用オゾンを血液に混ぜて反応させる点滴」を施すことだそう。「抗酸化力の向上・血液の流れの改善・免疫力のアップなどの効果が期待でき、身体がもつ本来の力を高めます」とその効果を謳っている。1回では明らかな効果は概ね得られず、月1-2回定期的に続ける必要があるらしい。しかも、対応するお悩み・症状・病気として「疲労・冷え性・肩こり・動脈硬化・認知症・リウマチ・アレルギー・花粉症」と、まるで万病に効く万能治療かのような表示がされている。
なぜこのタイミングで再び話題になったのか、の詳細はよく分からない。
Google検索のトップページには、最上位に表示されたクリニック同様、血液クレンジングを受けることが出来る施設のWebサイトが並んでいた。
このブログを書いているタイミングでは、最上段には関連するニュースサイトへのリンクが表示されており、話題になっていることが分かる。検索結果としてトップページに表示されたサイトの中で、唯一施術施設でないのは、BuzzFeed Japanが10/19に掲載した記事「芸能人が拡散する「血液クレンジング」に批判殺到 「ニセ医学」「誇大宣伝」指摘も」だ。
記事は、芸能人らが血液クレンジングを受けたことを報告しているSNS/ブログ投稿などについて触れているが、そのほとんどは1年以上前の投稿のようだ。中には1年以内の投稿もあるし、「数年前の投稿だから、もし血液クレンジングが似非医学だったとしても、それをあたかも有益な治療かのように拡散していても責任はない」とは思わないが、なぜこのタイミングで掘り起こされたのか?という小さな疑問もある。
同記事によれば、各地の消費生活センターへ
- 6回分の血液クレンジングとビタミン剤の代金として約50万円分を支払った。「中途解約を申し込んだところ高額な違約金を請求された。納得できない」
- ダイエット目的で1年間で12回の血液クレンジングを勧められ、20万円を支払った。「契約当日に1回、1週間後に2回の施術を受けたが、効果がまったくなかった。解約したい」
同記事では、「健康な人が「血液クレンジング」を受けても、疲労回復やアンチエイジングといった効果は見込めません」「血液が鮮やかな赤色になりますので、InstagramなどのSNSと相性がいいのかもしれません」という、医師の名取 宏さんに見解も紹介している。
BuzzFeed Japanは翌日の10/20にも「市川海老蔵、血液クレンジング報道に反論「やめれー」「勧めた事はない」」という続報を掲載した。歌舞伎俳優の市川海 老蔵さんが、前述のBuzzFeed Japanの記事で名前を挙げられたことを受け、数回治療を受けたことがあると明かしつつ、「私記事デカデカと、やめれー」「私は勧めた事はないです、やった事は数回ありますが」などと自身のブログへ投稿したそうだ。
同記事で紹介されている市川さんのブログを見る限り、確かに「してきました」という体裁の投稿がされているだけで、市川さんが積極的に血液クレンジングを他の人に勧めているとは言えないのかもしれない。例えば、ある飲食店で食事をしてきたことをSNSやブログへ投稿することは、芸能人でなくともよくあることだ。市川さんは恐らくそのような投稿と同じこと、という様に認識しているのだろう。
しかし一方で、CS/BS放送や近頃は民放でも昼間の時間帯を中心に多く見られる、機能性表示食品、若しくは機能性表示食品ですらない健康食品や、健康危惧、化粧品等のCMで、「個人の感想です」としつつ、あたかも効能や効果が確実に得られるかのような利用者の声を紹介している。それだって建前上はあくまで「個人の感想」であって積極的な推奨でもなければ、効果効能を謳っているわけでもないということなのだろうが、実質的には「勧めている」のと同様だ。
市川さんの投稿の中には「血液クレンジングで元気でござる」「疲労たまってきたので行くべし笑」という表現もあり、それを読んだ彼のファンなどの中には「血液クレンジングは疲労回復の効果がある」と認識する人もいるだろう。勿論、市川さんがそう明確に言っているわけではないので、錯誤した側の問題/責任、と考えることもできるだろうが、果たしてそう切り捨ててしまってよいだろうか。
BuzzFeed Japanは今日・10/21も更に、「「トンデモ医療であると、断言します」 血液クレンジング、医学的に徹底検証してみた」という関連記事を掲載している。この記事では、医師・峰 宗太郎さんの
第一次世界大戦中には負傷に対して(血液クレンジングでも使用するオゾンを)用いる治療も試されましたが、細菌だけでなく人体も傷つけるものであったとして、他の消毒法や抗生剤を用いる方がよいことが結論付けられています
アメリカでは、2016年よりオゾンの医療用の使用はFDAによって禁止されています。という見解を紹介している。この記事を書いた岩永 直子さんは次のようにツイートしており、
血液クレンジングを拡散した著名人の言い訳を見ると、ご自身が人の健康にとんでもない被害を与えたかもしれない可能性に無自覚です。「ニセ医学の宣伝に協力した時点で加害者にもなる」。被害者にも加害者にもならないために、情報吟味の仕方も伺いました。— 岩永直子 Naoko Iwanaga (@nonbeepanda) October 21, 2019
https://t.co/i9D9leIRW1 @nonbeepanda
「拡散や宣伝に協力すれば加害者 トンデモ医療にだまされないためにできること」「「再発したら...」不安につけいる血液クレンジング 「主治医になんでも相談できる関係を」」という更なる別記事も書いている。
医療に関する根拠の定かでない情報や真偽不明の情報、それどころか明らかに間違った認識の拡散が問題になるのは、何も昨今だけに限った話ではないが、近年で言えば、ネットに蔓延る怪しげな情報サイトが検索上位になっていた問題(Google検索から不正確な医療情報が消える 「前代未聞の規模」 BuzzFeed Japan)が記憶に新しい。しかしこの件の検索結果を見ると、状況が改善されているとは言い難い状況のように感じる。
また、9/19の投稿でも書いたように、子宮頸がんワクチンの副反応に関しても、不要に不安を煽る報道がなされたことなどの影響で、日本では未だに積極的なワクチン接種が奨励されていない。そんな状況にもかかわらず、れいわ新選組の代表・山本 太郎氏は、10/18に鹿児島で行った街頭演説の中で、
「子宮頸ワクチンは有効性が非常に低い」「子宮頸がんは定期的な併用検診でほぼ完全に予防できる」という見解を示した。これについては、前述の記事で血液クレンジングに関する見解を示した医師・峰 宗太郎さんも、
山本太郎様 @yamamototaro0— 峰 宗太郎 (@minesoh) October 19, 2019
ワクチン・ウイルス・免疫学を専門にしている医師・研究者です。HPVVに関して、
・有効性が非常に低い
・子宮頸癌は検診でほぼ完全に予防可
と力説されている動画を拝見しました👶いずれも明確に誤っています。医学的に誤った情報は多数の方の健康や生命に関わります。
という見解を示している。BuzzFeed Japan、そして子宮頸がんワクチンについての記事を根気強く定期的に書いている岩永 直子さんには、この件も是非とりあげてもらいたい。
トップ画像は、OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像 を加工して使用した。