1933年2/27の夜に発生したドイツ国会議事堂放火事件(Wikipedia)。オランダ人でオランダ共産党員のマリヌス ファン デア ルッベが犯人とされ、ヒトラー率いるナチ党が「共産主義者による反乱計画の一端」であると主張し、緊急大統領令を制定した。その大統領令によって3000人以上の共産党員・ドイツ社会民主党員が逮捕拘束され、ナチ党以外の政治勢力は力を奪われ、悪名高い全権委任法が成立することになる。
ヴァイマル憲法に規定された国家緊急権を、国会議事堂放火は共産主義者の陰謀であると煽って濫用し、その状況下で全権委任法を成立させることで、最終的にヴァイマル憲法に縛られない無制限の立法権をヒトラー政権は手に入れている。つまりドイツ国会議事堂放火事件は、ヒトラー率いるナチ党の独裁確立の大きな足掛かりになった。
マリヌス ファン デア ルッベが国会議事堂放火事件の真犯人なのかは怪しい部分も多い。もし彼が真犯人だったとしても、単独犯だったのか、若しくは共産主義者の組織的な犯行だったのかは分からない。この事件の結果として、ナチ党が独裁を確立していることから、ナチ党による陰謀という見解もある。 果たして真実はどれか、どれに近いのかは定かではないが、ドイツ国会議事堂放火事件によって多くの共産党員と、共産党ではない社会民主党員までが逮捕拘束されており、事件によるレッテル貼りが少なからず行われ、政治的に悪用されたことには違いない。
昨日の投稿でも首里城の火災に触れた。火災は10/31の2時前後に発生し、およそ9時間後の11時頃に鎮火したそうだ。「母は「戦争みたい」とつぶやいた。首里城で正殿などが全焼、地元住民の思いは BuzzFeed Japan」は10/31の昼頃に掲載された記事だが、火災の原因に関して、
現場では、今月27日から開催されている「首里城祭」の準備が、未明まで続いていたという。警察や消防が出火原因を調べている。と書かれている。通常火災に関する報道では、鎮火後すぐに警察や消防等による見立て、捜査の方向性が示され「放火(若しくは火の不始末)と見て調べている」とか、「放火と不始末の両面から捜査を進めている」などの表現が概ね用いられる。しかし、今回の首里城の火災に関しては、前述のような表現に留められており、それは鎮火から約1日経た今も変わっていない。焼けてしまったのが首里城という非常にシンボリックな建造物であること、沖縄と中央政府の間に、沖縄県民と一部の本土市民の間に溝が生じていることなどもあり、非常にセンシティブな事案であることを勘案して、そんな表現に留められているのだろうと想像する。
しかしWeb上、特にSNS上では既に、ドイツ国会議事堂放火事件の際に起きたようなレッテル貼りが始まってしまっている。沖縄タイムスは、今朝「「中国・韓国人による放火」「プロ市民の仕業」 首里城火災でネットにデマ相次ぐ」という記事を掲載した。
見出しの通りの内容で、
韓国出張中の玉城デニー知事に関し「韓国に避難している。(知事が)指示したかも」という中傷も。とも指摘している。この玉城知事に関するデマの発生源の一つに、度々フェイクニュースの発生源と指摘されるサイト・Share News Japan があると、BuzzFeed Japanが指摘している(首里城が燃えているのに「玉城デニー知事が韓国へ」はミスリード。まとめサイトが拡散)。
記事によると、「首里城の火災を受け、玉城知事は訪韓日程を切り上げて31日正午過ぎに緊急帰国し、那覇空港から直接火災現場に向かった」というのが事実のようだが、同サイトは「首里城が燃えている最中に韓国に出国した」かのように読める見出し・内容の記事を掲載している。
沖縄タイムスが指摘しているように、ツイッター上でも「首里城火災は韓国人による放火」と断定的に書いたり、断定せずとも強く匂わせる投稿が少なくない。全てをいちいち指摘することはしないが、この投稿を書いている時点で、ツイッター検索で「首里城」と入力すると、関連性の高いワードとして「放火」が提案され、「首里城 放火」と入力すると、次に「韓国人」というワードが提案されるような状況だ。
ドイツ国会議事堂放火事件ではナチ党がレッテル貼りを先導したのに対して、今のところ首里城火災に関しては、政治家らによるレッテル貼りは確認できていないという違いはあるものの、レッテル貼りが起きているという点では差がない。およそ90年も前の過ちを、そっくりそのままではないものの、一部の人間が再び繰り返している。
こんな危険なことが起きているのに、なぜ首相や政府は「不確定な情報によるレッテル貼りは好ましくない」という明確な意思表示をしないのだろうか。これは、韓国に対するレッテル貼りがこの夏横行した際にも感じたことだが、首相や政府がそのような意思表示をしないということは、黙認しているも同然ではないのか。
日本では、誰もが「いじめを黙認するのは消極的な加担とも言える」と教えられているはずなのに、こともあろうか政府や首相がそれをやっている。現状では確かに今の政権はナチ党ほど深刻な状況ではないが、少なからず偏見・差別・レッテル貼りを黙認している側面があり、先導しているか否かという程度の問題であるとも言えそうだ。決して少なくない有権者がこの政権を支持し、支持の理由を「他よりマシだから」としているようだが、このような政権を「他よりマシ」なんて言っていたら、他国政府や他地域の市民からどのように認識されるかを、もう一度よく考えてみた方がよいのではないか。