原宿は今や世界的にも有名な日本のポップカルチャー、特にカワイイ文化の発信源である。1990年代に人気を博したアメリカのパンクバンド・No doubt のボーカルとしても知られる女性シンガー・グウェン ステファニーさんのソロデビューアルバムには、Harajuku Girls という曲があり、彼女のバックダンサーチームの名称も原宿ガールズだった(Wikipedia)。しかも駅の反対側には明治神宮があり、ポップとトラディショナルの共存もまた、外国人らを惹きつける理由の1つなのかもしれない。
自分が初めて原宿を訪れたのは中学生の時だった。当時はまたカワイイ文化の発信地というよりも、タレントがこぞってショップを出す場所みたいな雰囲気だった(平成初期に大流行した原宿のタレントショップは今、どうなってるのか!? :: デイリーポータルZ)。神奈川県に住んでいたので田園都市線で渋谷に出て、普通なら山手線に乗り換えて1駅なのだが、中学生だった自分たちは少しでもお金を節約する為に、渋谷から所謂ファイヤー通り(Wikipedia)を歩いて原宿へ向かった為、原宿駅を始めて利用するのはそれからもう少し経ってからだ。
原宿駅を初めて利用した、というか山手線で通過したのは、高校生クイズに参加する為に所沢球場へ行った時だと思う。通常の駅の隣にある皇室専用ホーム(Wikipedia)を見て「なんだこれ?」と感じ、当時はまだインターネットは一般的でなく、後日同級生の鉄道マニアに「あれは何?」と尋ねたことを記憶している。
原宿駅 - Wikipedia によると現在の原宿駅の駅舎は、1906年(明治39年)の開業以来2代目となる駅舎だそうだ。1924年(大正13年)に竣工した木造建築で、都内に現存する木造駅舎の中では最も古いらしい。
そんな原宿駅の駅舎を建て替えるという話が昨日報じられていた。 「都内最古の木造駅舎「JR原宿駅」来年の五輪・パラ後に解体へ | NHKニュース / インターネットアーカイブ」によると、
解体後、耐火基準に適した材料を使って、今のデザインをできるかぎり再現した建物を造るとJR東日本が発表したそうだ。現在既に老朽化などの理由から建て替え作業が行われていて、来年3/21、今の駅舎と隣接する場所に新しい駅舎の運用が始まる予定のようだ(JR東日本,山手線原宿駅の新駅舎を2020年3月21日から供用開始|鉄道ニュース|2019年11月20日掲載|鉄道ファン・railf.jp)。
NHKの記事には、
歴史が長く残してほしいという声もあったが、安全面を考慮して解体する事を決めたとJR東日本がコメントしているとも書かれている。「老朽化などの理由」「安全面を考慮」などと表現すると如何にももっともらしく聞こえるが、その話が妥当ならば、奈良の東大寺や京都の清水寺をはじめ、建築から何百年も経っている全ての木造建築は、安全の為に耐火基準に適した材料で今のデザインをできるかぎり再現したほうがよい、ということになりそうだ。だが大抵の場合、補修の際に現代的な補強部材が用いられることはあっても、建築当時の素材を出来る限り再現するのが望ましいとされる場合の方が圧倒的に多い。
このような事案について、女系天皇や同性婚・選択的夫婦別姓制度などについて「伝統を壊すな」と主張する人達は、何故異論を呈さないのだろうか。因みに、異論を呈している人がいないわけではないが、その手の何かにつけて「伝統を守れ」と主張する人達が、新天皇の即位後初めての新嘗祭である大嘗祭の儀式に使う大嘗宮が、これまで茅葺屋根で作られていたのに板葺に変更されたり、建物の一部をプレハブに変更するなどの宮内庁の方針(大嘗宮の茅葺きは断念 復活へ次代に課題 - 産経ニュース)にも殆ど異論が呈されなかった。
何かにつけて「伝統を壊すな」と主張する人の大半が重んじているのは「伝統」ではなく、「公権力の意向」もしくは「自分達の都合」なのではないだろうか。
勿論、何もかもが統一された価値観によって判断されるべき、というわけではない。しかし木造の原宿駅を取壊して耐火基準に沿った材料で立て直すのが適切だとしたら、現在の名古屋城(Wikipedia)は1959年にコンクリートで立て直されたものだが、名古屋市長が木造で立て直す方針を示しているのは道理が通らない。
また、7/3の投稿でも触れたように、安倍首相は各国首脳が出席したG20の夕食会でのスピーチの中で、
大阪のシンボルである大阪城は、最初に16世紀に築城されました。石垣全体や車列が通った大手門は17世紀はじめのものです。150年前の明治維新の混乱で、大阪城の大半は焼失しましたが、天守閣は今から約90年前に、16世紀のものが忠実に復元されました。と述べた。安倍氏は、「大阪城歴史的建造物を忠実に再現しなかったことが悔やまれる」というニュアンスのジョークとして当該表現を用いたようだが、ならば彼は原宿駅の再建策にも苦言を呈する立場なのだろうが、そのような話は一切聞こえてこない。国立競技場の再建計画を鶴の一声で白紙にさせたのだから(新国立競技場「白紙に」、首相表明 今秋に新整備計画:日本経済新聞)、建築当時の歴史的な駅舎を取り壊す原宿駅の再建は「大きなミス」だと指摘するぐらいのことはすべきなのではないだろうか。
しかし、1つだけ、大きなミスを犯してしまいました。エレベーターまでつけてしまいました。
その安部氏の鶴の一声によって計画が白紙に戻されて建設が始まった新国立競技場が完成間近らしい。
NHKは「新国立競技場 全工事終了 工事費1529億円 今月30日に完成へ | NHKニュース / インターネットアーカイブ」という記事で、
競技場本体などの工事費は、物価や人件費の変化のため当初の計画より増えましたが、政府が決めた上限の1550億円の範囲内に収まる1529億円となりました。としているが、 個人的には「1500億円もの予算を使って伝統ある前回の東京五輪で使用した競技場を壊した」「建設業者等に儲けがあったが、五輪後は赤字になる恐れが強い」(新国立はやはり負の遺産? 黒字運営見通せず:日本経済新聞)ことも同時に書くべきなのではないか?と感じる。
また設計や監理などを含めた整備費では、1569億円となり上限の1590億円の範囲内となりました。
何事についても「ものは言い様」な側面はあり、特にもっともらしい文句程注意し、疑ってかかる必要がある。
トップ画像は、Jason GohによるPixabayからの画像 を加工して使用した。