踏み絵とは、キリスト教徒か否かを判別する為に行われた絵踏に用いられた、キリストやマリアの絵柄が施された木製、又は金属製の板である。絵踏は江戸幕府が禁教令によってキリスト教を禁じた為に行われた。しかし、踏み絵 - Wikipedia には「初期の段階では、キリシタン狩りに効果があったが、次第に内面でキリスト教を信仰さえすればよい、という考えが広まり、役人の前では堂々と絵踏みをするが、密かに主イエス・キリストに祈って許しを請う信者「隠れキリシタン」が現れ始める。そのため、後期には必ずしも『キリシタン狩り』の効果は上がらなかった」という記述もある。
江戸幕府が始めたキリスト教徒弾圧は、明治6年(1873年)まで、つまり明治政府が成立した後も数年続いた。しかし、第20条で信教の自由を定めている現在の日本国憲法同様に、旧日本政府が1889年に定めた大日本帝国憲法にも信教の自由に関する規定はあった。但し、大日本帝国憲法第28条 - Wikipedia の解説を見ると、国家神道を国が推進していたこともあり、戦前の日本では信教の自由が保たれていたとは言い難い側面もある。
とは言え、近代以降の日本ではあからさまにキリスト教徒が弾圧を受けることはなくなったと言ってもよさそうだ。しかし、踏み絵を踏まされる、のようなことは近代の日本でも起きている。例えば、関東大震災の際に「朝鮮人が混乱に乗じ、井戸に毒を入れている」「混乱に乗じた朝鮮人が凶悪犯罪、暴動などを画策している」などの流言が飛び交い、数百人-数千人の朝鮮半島出身者とそれに間違われた中国人や日本人が殺された。
関東大震災朝鮮人虐殺事件 - Wikipedia には、
朝鮮人や、間違われた中国人、内地人であるところの日本人(聾唖者など)が殺傷される被害が発生とある。なぜ聾唖者、つまり発話障害のある人達が朝鮮半島出身者に間違われたのか。それは、日本人/朝鮮半島出身者/中国人は外見では判別が難しいが、朝鮮語には濁音に当たる発音がなく、上手く発音できない人が朝鮮半島出身者に多かった為、「十五円五十銭と言ってみろ」などと問い、言えなければ朝鮮半島出身者として暴行・殺害するということが起きたからだ。昨年の大河ドラマ「いだてん」でも震災の場面で、熊本訛りの金栗 四三が標準語を喋らない為に朝鮮半島出身者に間違われそうになっていた(大河『いだてん』に関東大震災「朝鮮人虐殺」を示唆するシーンが! 右派の虐殺否定デマに抗した勇気|LITERA/リテラ)。つまり、○○と言ってみろと問われ、上手く日本語を喋れないと朝鮮半島出身者とされた為に、聾唖者が朝鮮半島出身者に間違われたのだ。
朝日新聞が1/21に「新型肺炎を理由に「中国人は入店禁止」 箱根の駄菓子店」という記事を掲載した。2017年にも「中国人のみ料金10倍 宮古島・砂山ビーチのレンタル業者 市から注意され看板撤去 | 沖縄タイムス+プラス ニュース | 沖縄タイムス+プラス」という報道があったのも、まだまだ記憶に新しく、またか、と言わざるを得ない。しかも今回は、武漢で猛威を振るっている肺炎への感染を避ける為、という隠れ蓑まで用意しており、個人的には更に悪質だと感じる。
日本も1995年に加入した人種差別撤廃条約第4条には、
(a) 人種的優劣又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わず、すべての暴力行為又はその行為の扇動、及び人種主義に基づく活動に対する資金援助の提供も『法律で処罰すべき犯罪』であることを宣言すること」とある。 簡単に言えば、人種/民族性/国籍/出自を理由に対応を変える行為も、人種等による差別に該当する、ということだ。かつてのアメリカ、南アフリカなどで行われた、白人と非白人の違いによる人種隔離政策と同じである。
(b) 人種差別を助長し及び扇動するその他のすべての宣言・活動を『違法である』として禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が、『法律で処罰すべき犯罪』であることを認めること
この店主は、外見上日本人と見分けのつかない中国人をどの様に判別しようとしていたのだろうか。入店する東アジア系の客に対して身分証明書を提示させるつもりだったのだろうか。それとも関東大震災に行われた朝鮮半島出身者判別法と同様に、日本語を喋らせて判別するつもりだったのだろうか。もし後者の手段を用いていたのだとしたら、関東大震災の際と同様に、聾唖者など発話障害のある人も、差別の対象にされていただろう。
これについてはアインシュタインもシンプルにしなくてもいいと言ってくれると思う。フォローで応援、それが今日の最高の解。リツイートで、苦い栗が心を入れ替えて甘くなります。いいねで誰かの鼻歌がプロデューサーの見出されます。#漫画 #国籍 #エッセイ #パスポート pic.twitter.com/vj1yd3kBMm— 星野ルネ (@RENEhosino) December 20, 2019
また、2019年12/31の投稿でも取り上げた星野 ルネさんが描いた漫画でも示されているように、ここで言う中国人とは一体何を指しているのか。中国国籍を持つ者か、中国語話者か、中国にルーツを持つ者か。法的な意味で中国人と言えば中国国籍を持つ者だろうが、この店主がそのように捉えているとは考え難い。
この店主が自分の恣意的な基準で客を選別したいなら、中国人お断りなんて差別的な看板を掲げずに「一見さんお断り」若しくは「会員制」の看板を掲げればよかったのにと思う。この店は駄菓子屋なので、そんな看板を掛けたら客はかなり減るだろう。
入管が非人道的な振舞いを厭わず(特集ワイド:健康守る責任、入管に 収容外国人、適切治療ほど遠く 死なれては困る? 病状悪化で仮放免 - 毎日新聞)、法務大臣が推定無罪を無視し(ゴーンに惨敗した日本、森法相の大失言が世界に印象付けた「自白強要文化」 | 情報戦の裏側 | ダイヤモンド・オンライン)、人質司法が横行していて(国際人権団体が批判 “日本は人質司法制度” | NHKニュース / インターネットアーカイブ)、この投稿で取り上げたような件や、在日コリアンへの憎悪犯罪が平然と起きる(「私たちは殺されてしまうの?」在日コリアン殺害宣言に高まる不安。被害届を提出へ BuzzFeed Japan)日本。
安倍首相は施政方針演説(1/22の投稿)の中でも、オリンピックに関連付ける等して「日本が世界の真ん中で輝く」的な話をしていたが、果たして今の日本はオリンピックを開催するに相応しい国か。オリンピックが行われれば、確実に他国・他地域からの注目が集まる。このままでは世界の真ん中で輝くどころか、世界中に日本の人権意識の低さを露呈することになりかねない。日本人はお人好し、悪く言えばずぼらな人も多く、安倍氏の話を真に受ける者も多いが、日本国外の市民はそんなに甘くない。