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「朕は国家なり」的発想


 「L'État, c'est moi.」は日本語では「朕は国家なり」と訳される。近世フランス・ブルボン朝の最盛期を築いたルイ14世が発したとされる、絶対王政を象徴するセリフだ(朕は国家なり(ちんはこっかなり)とは - コトバンク / ルイ14世 (フランス王) - Wikipedia)。とても大雑把に言えば、国王がその国の全てである、という国家感を表現するのに用いられる。つまりそれは、国王による独裁を意味し、しばしば独裁者の風刺に用いられる表現だ。最近ではトランプ大統領の風刺にもよく用いられている。

 昨日の投稿では、ANAインターコンチネンタルホテルで桜を見る会前日に開催された前夜祭に関する安倍首相の答弁と、ホテル側の説明が食い違うという件に触れた。ホテル側の説明とは、立民・辻元議員が同ホテルに問い合わせた質問とその回答、

(1)2013年以降の7年間に貴ホテルで開かれたパーティー・宴席について伺います。この7年間の間に3回、総理は前夜祭を開いております。貴ホテルが見積書や請求明細書を主催者側に発行しないケースはあったでしょうか?
回答:ございません。主催者に対して見積書や請求明細書を発行いたします。
(2)貴ホテルの担当者が金額などを手書きし、宛名は空欄のまま領収書を発行したケースはあったでしょうか?
回答:ございません。弊ホテルが発行する領収書において、宛名を空欄のまま発行することはございません。
(3)ホテル主催でない数百人規模のパーティー・宴会で代金を主催者でなく参加者個人一人ひとりから会費形式でホテルが受け取ることはありましたか?
回答:ございません。ホテル主催の宴席を除いて、代金は主催者からまとめてお支払いただきます。
(4)主催者が政治家および政治家関連の団体であることから、対応は変えたことはありますか?
回答:ございません。

という話であり、辻元氏は書面でこれを示した。
 安倍氏はこの指摘に対して、「私の事務所が確認したところ、ホテル側は「個別の案件は営業の秘密に関わる」として、(桜を見る会の前夜祭については)答えていなかった」、「ホテル側が野党の問い合わせに対して答えたのはあくまでも一般論であり、前夜祭については説明しておらず、自分の説明と矛盾しているとは言えない」という趣旨の説明を行った。
 昨日の投稿では、安倍氏が、安倍事務所がホテルに問い合わせて示されたとする話は、辻元氏が示したホテルの見解とは食い違うので、野党側が安倍氏に対して「書面でホテルの主張が事実である」ことを示せと要求したところ、安倍氏がそれを拒んだこと、毎日新聞等複数のメディアがホテルに問い合わせたところ、「安倍氏の主張はホテル側の主張と異なる」という見解が示されたことなどにも触れた。ここまでが一昨日・2/17の夜までの出来事である。


 昨日・2/18の午前11時頃、朝日新聞が「「ANAホテルもう使わない」自民恨み節 野党「敬服」」という記事を掲載した。


前日の件についての与野党の反応をまとめた内容で、記事の最後にはこうある。
首相側近は「なんで(ANAホテルは)回答を出したんだろう」と困惑し、自民党幹部の一人は「もうANAホテルを使うのはやめよう」。同党ベテランは「ANAホテルは外資系だからかな。(対応が)スッキリしている」と述べ、忖度のない対応だと感想を漏らした。
この自民党内から示された反応をまとめると、政府や官邸に忖度せず、国に喧嘩を売るようなホテルは今後一切使うのは止めよう、という見解が同党内に蔓延しているように見える。それは言い過ぎではないのか?と思う人もいるだろうが、こんな風に感じるのは、2017年に森友学園の籠池理事長が国会に証人として呼ばれた際に、
総理に対する侮辱だ。(籠池氏に直接)たださなきゃいけない
と当時の竹下国対委員長が述べたり、同党国対幹部が
国家に対して喧嘩を売るっていうのがどれだけ大変かわかってない
と発言したという報道があったからだ(「国家に対して喧嘩を売るっていうのがどれだけ大変かわかってない」籠池理事長証人喚問に自民党国対幹部 | BUZZAP!(バザップ!))。

 政府や官邸に忖度せず、国に喧嘩を売るようなホテルは今後一切使うのは止めよう、という見解が与党内に蔓延しているように見える理由は他にもある。Buzzfeed Japanの記者・貫洞 欣寛さんが、昨日・2/18の21時頃に


とツイートしていた。貫洞さんが引用した通り、NHKの記事「桜を見る会 野党側が審議に復帰 | NHKニュース / インターネットアーカイブ」には、
野党や報道機関が問い合わせたのはホテルの広報で、安倍事務所は、実際に仕事を頼んだ営業に尋ねたのだろう。広報はマニュアル通りの回答をし、営業はいろいろあるので、それに基づいて話をし、ずれが生じたのではないか。ホテルのしかるべき人が大変迷惑をかけているということで、自民党本部に来たと聞いている
と、自民 森山国会対策委員長が述べたことが書かれており、


時事通信の記事「ANAホテル「返答控える」 「桜を見る会」前夜祭めぐる食い違い:時事ドットコム」には、同ホテルが前日までとは一転して、明細書や見積書、宛名が空欄の領収書の発行の有無に関して、
個別の取引の詳細は一切開示することはできない
と言いだしたことが示されている。


 確かに、同ホテルが立民・辻元氏の質問状に対して示した見解の方が、事実に即していなかったという恐れも全くないわけではない。だが、ここまでの一連の流れに鑑みれば、政府と与党がANAインターコンチネンタルホテルに圧力をかけて、自分達に不利な話を「一般論」ということにさせたようにしか見えない。
 もし同ホテルが辻元氏の質問状に対して示した見解の方が事実に即していなかったのだとしたら、辻元氏が正確とは言えない主張をするきかっけを作ってしまったのだから、立民や辻元氏に対しても迷惑をかけたことになる。しかし森山氏の話によれば、ANAインターコンチネンタルホテルは、大変迷惑をかけたと自民党本部詣でをした、ということなので、これは何が起きたかを考える要素として非常に大きい。しかも、自民党中に「なんでANAホテルは回答を出したんだ」「もうANAホテルを使うのはやめよう」なんて声があることを考えれば、圧力があったと想像するのは決して不自然ではない。


 今日のトップ画像に「朕は国家なり」を用いた理由は他にもある。今日・2/19の午前の国会での審議について、テレビ朝日は「“桜を見る会”前夜祭で追及も…議論かみあわず」と報じた。


TBSは「明細書めぐる“矛盾” 野党ただす」と報じていた。


これらのムービーの編集だと、あたかも野党側の主張にも、政府側が示した見解にも一定の合理性があり、話は平行線を辿っている/拮抗しているかのようにも見えるが、審議を通して見れば、政府側の示す見解がかなり強引なことが分かる。勿論人によって感じ方は異なるかもしれない。しかし自分には、ここまで書いてきたことも勘案し、「政府側の話にも一理ある」とは全く思えない。
 また、前述のテレビ朝日とTBSのムービーだけを見ても、菅官房長官が示した見解が説明の体裁を成していないことを指摘できる。テレビ朝日のムービーの中で、菅氏が
総理が述べたことはホテル側に確認をしたうえでの答弁
と述べたことが示されている。しかし、辻元氏が示したのもホテル側に確認したうえでの質問であり、両者ともホテルに確認しているのに両者の話が食い違うのだから、「ホテル側に確認した」というだけでは、菅氏が主張する「総理が答弁したことが正しい」とは言えない、ということになる。
 しかも、辻元氏が書面でホテル側の回答を示したのに対して、安倍氏はホテル側の見解を書面で示すことを拒んだ。どちらに信憑性があるかと言えば前者ではないのか。TBSのムービーでは、菅氏が、
総理が答弁したことは責任を持つということ
とも述べたことが分かる。つまり菅氏が言っているのは、

 書面で示さなくても、総理大臣という立場の者が言っているのだから、間違いないはずだ

のような話だ。発する者の地位や立場を主な根拠として、その主張の信憑性を裏付けようというのは、民主主義的とは到底言えないのではないか。


 菅官房長官の主張や、自民党内に蔓延っているのは、まさしく「朕は国家なり」的な発想ではないだろうか。


 トップ画像は、ファイル:Louis XIV of France.jpg - Wikipedia を加工して使用した。

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