産経新聞は、今朝の社説「【主張】新型肺炎の目安 蔓延阻止に国民の覚悟を - 産経ニュース」を紹介するのに、「【国会空転】いいかげんにしてもらいたい」と題して、「新型肺炎の国民への呼はびかけや検査態勢の拡充は先週のうちに行われるべきだった。衆院予算委も、桜問題に大半が割かれ、首相の答弁に反発した野党は一時退席。厚労省が感染防止を国民に求めていた同じ時刻に、国会は空転していた。」とツイートした。
その種の「今はコロナ。桜をやってる場合でない」という主張がしばしば聞こえてくる。産経新聞がその種の主張をしていたかは調べていないが、その種の主張をしている人達の大半は、森友加計問題等を、野党が予算委員会で追求していた頃なんて言っていたのかというと、予算委員会は国家予算に関わる全てを議論する場であり、大臣や議員、官僚の給与なども国の予算で賄われるのだし、実質的には「何でも委員会」であるという慣例や、野党時代の自民党も、現在の野党と同様に予算委員会で様々な追求をしていたことは無視して、「予算委員会は予算について議論する場であり、スキャンダル追求の場ではない」と言っていた。
「今はコロナ。桜をやってる場合でない」と「予算委員会は予算について議論する場であり、スキャンダル追求の場ではない」という主張は明らかに矛盾する。新型コロナウイルス対策は主に厚労委員会の担当分野であり、予算委員会は予算についてだけ議論する場であると言うのなら、予算委員会で議論する必要はないということになる。一方で桜を見る会の問題は、政府の予算で賄う催しの問題であり、所謂前夜祭の問題も政治資金収支報告書に関わる問題で、つまり予算と直結する問題である。しかも、昨日の投稿でも書いたように、年初には既に中国での流行が報じられていたにも関わらず、政権と与党は厚労委員会開催に消極的だったのだ。
そのようなことを殆ど無視した社説を、産経新聞という、2020年10月に全国紙ではなくなるようだが(「全国紙」の看板下ろす産経:FACTA ONLINE)、一応大手とされるメディアの1つが掲載していることは、とても残念というか、まるで戦時中の大本営発表に従属したメディアのようである。
昨日・2/17の国会は、先週末・2/13に、安倍氏が質問を終えた立民・辻元議員に対して、「意味のない質問だよ」と自席からやじを飛ばしたこと(安倍首相「意味のない質問だよ」発言に至った経緯は... 辻元清美氏の質問詳報 : J-CASTニュース)を謝罪することから始まった。 しかし謝罪と言っても、事前に用意した書面をただただ読み上げただけである。
安倍氏は、昨年の11/6にも自席からヤジを飛ばし(11/7の投稿)謝罪したのに、11/8にも再びヤジを飛ばし審議を紛糾させている(11/9の投稿)。同じことを何度も繰り返している者の形式ばかりの謝罪に一体何の意味があるだろう。多分「意味のない謝罪だよ」と思った人は少なくないはずだ。
今日のトップ画像はイソップ童話の「オオカミ少年」に関する挿絵だ(嘘をつく子供 - Wikipedia)。オオカミ少年とは、嘘を頻繁に吐いていると、本当のことを言っても信じて貰えなくなるという話だが、同じ謝罪と反省の弁を繰り返すことも、結果的には「反省したと嘘を吐いている」ようなものである。
Buzzfeed Japanが久しぶりに国会に関して書いた記事「安倍首相の答弁に食い違い?桜を見る会めぐる「新証拠」に国会が一時紛糾」などが伝えているように、ANAインターコンチネンタルホテルで桜を見る会前日に開催された前夜祭に関する首相の答弁と、ホテル側の説明が食い違うという指摘も行われた。ここでは詳しくは説明しないが、安倍氏は「ホテル側は「個別の案件は営業の秘密に関わる」として、(桜を見る会の前夜祭については)答えていなかった」、「ホテル側が野党の問い合わせに対して答えたのはあくまでも一般論であり、前夜祭については説明しておらず、自分の説明と矛盾しているとは言えない」という趣旨の説明を行った。
しかしこれに対して、
などの記事も報じられ、見出しの通り、両紙の取材に対してホテル側は
『営業の秘密』と申し上げた事実はないと答えたそうだ。
これに関する今朝のTBS・あさチャン!の伝え方はかなり酷かった。野党側の追求に対して、安倍氏が「一般論/矛盾しない」としたことを、まるで真っ当に答えたかのようにも見えるVTRを用意し、更に、野党議員が安倍氏に対して、安倍氏が「一般論/矛盾しない」ことの根拠とするANAインターコンチネンタルホテルとのやり取りを書面で提出するよう求めたところ、安倍氏がこれを拒否したことを理由に、野党側がまともな議論にならないと退席したことについて、政治ジャーナリストという肩書で田崎 史郎氏にコメントさせ、産経新聞の社説同様に「今はコロナ。桜をやってる場合でない」という論調で、審議に応じない野党も野党、というニュアンスを全開にしていた。
田崎氏は、2/15に放送されたTBS・上田晋也のニュースな国民会議の中で、次のムービーような強引な政権擁護をした人物である。
このような人物を「政治ジャーナリスト」なる肩書で紹介するのは妥当だろうか。自分には全くそうは思えない。しかも、TBSは毎日新聞と深い関係にあるのに、同紙が前日夜に報じた「ANAホテル「営業の秘密と言った事実はない」 安倍首相答弁を否定 - 毎日新聞」には全く触れていないのである。
自分は今朝のあさチャン!を見て、
テレビ報道はもうダメだ。今はコロナ、桜じゃない、と言わんばかりの姿勢が酷い。そういう番組を放送する局の報道は一切信用ならない。と強く感じた。しかし同じTBSでも夜のニュース番組・NEWS23はまだマトモで、昨日・2/17の国会審議について、このVTRを放送した。
しかし、以前にも指摘したように、TBS Newsは何故かNEWS23のVTRを掲載する際だけ、文字起こしを付加しないので、この記事は、その内容に関するワードで検索しても、Google検索/TBS News内の検索にほぼ引っかからない。つまり半分「なかったこと」にされているようなものだ。
他にも、テレビ朝日の報道ステーションなど、昨日の国会での首相の答弁について率直に伝えた番組はあるが、
SNSでの指摘等を見ていると、NHKの昨夜7時/9時のニュースなども、あさチャン!と似たような報道をしていたようだし、今日の昼のTBS/テレビ朝日の昼のニュースも、やはりあさチャン!同様フェアな伝え方をしているとは言い難く、恐らくNEWS23や報道ステーションのような伝え方はレアケースで、2/14の投稿で書いた黒川検事長の定年半年延長問題に関するテレビ報道も勘案すれば、
テレビ報道はもうほぼ死んでいる
と言っても決して過言ではない。NNN(日本テレビ)と読売新聞は、この週末に行った世論調査で、
「桜を見る会」をめぐる問題を、国会で優先して議論すべきか
- 優先して議論すべき
- そうは思わない
ホロコースト否認論者が、そう指摘されたことを「事実と異なる中傷」として訴えた、アーヴィング対ペンギンブックス裁判(アーヴィング対ペンギンブックス・リップシュタット事件 - Wikipedia)を描いた映画「否定と肯定」の中で、ホロコースト否定論者のアーヴィングが、自著の中でホロコーストを否定する為に書いたことのいい加減さを指摘されても、「些細な間違いはあったかもしれない」と言い逃れ、意図的にホロコーストを否定していないと主張するのに対して、リップシュタット側の弁護士が、出来の悪いウエイターを例に挙げてその不合理性を説明する場面がある。
出来の悪いウエイターはしばしばおつりを間違う。時には店側が得をすることもあるし、場合によっては客側が得をすることもある。しかし、もし店側が得する間違いばかりが起きるのであれば、ウエイターは意図的におつりを間違えている。言い換えれば、出来が悪くておつりを間違えているのではなく、意図的におつりをちょろまかしているということである。
という話だ。
日本の地上波テレビ各社の報道は、果たしてたまたま政府に都合のいい報道ばかりをし、政府に都合の悪い報道を控えていると言えるだろうか。テレビ局は確かに明らかな嘘を、現時点ではまだ報じているわけではない。しかし、事実に即した報道をしているかと言えば、決してそうとは言えない。
「嘘吐きの話は全て嘘」 と断定するのは少し極端だが、事実に即しているとは言えない報道、しかも大体いつも政府に都合のよい伝え方をしているメディアが、信頼を失うのは当然の成り行きではないだろうか。
ANAインターコンチネンタルホテルが、安倍氏に忖度せずに、一部メディアの取材に対して「安倍氏は事実と異なることを言っている」と答えたのは、安倍政権後のことを考えたからでもあるだろう。もし日本が中国や北朝鮮のような独裁が確立した状態だったら、当局への忖度は必須で、そのような回答はなかったはずだ。日本の地上波放送局は、果たして安倍政権後のことを考えて報道をしているだろうか。自分には全くそのように思えない。
トップ画像は、File:Boycriedwolfbarlow.jpg - Wikimedia Commons を加工して使用した。