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様々な視点による主張を吟味しなくてはならない状況ではあるが…


 紙の上に定規を置いて、それに沿って鉛筆などで引いた線のことを「直線」と呼ぶ。「それはおかしい」という人はまずいない。しかしその線は果たして本当に「直線」だろうか。どんなに尖らせた鉛筆で引いた線でも、どんどん拡大していけば、どこかでトップ画像左側の拡大図のように見えるだろう。また、右の拡大図は、フォトショップ上で直線ツールを用いて引いた細い線を、5000%に拡大したものだ。 これらは果たして直線と言えるだろうか。

 というかそもそも、線は線だろうか。線とは「細長く連続するもの」を指す。人間の視点では間違いなく細長く連続する図形だが、もし人間の大きさが1/50だったとしたら、この線は線に見えないだろう。1000m幅で全長が1000kmの直線があったとする。俯瞰で見なければ、それが線であることを認識できる人は決して多くないだろう。


 今朝、星野 ルネさんがこの漫画をツイートしていた。




このマンガを読んで自分は次のように思った。

 事実は1つ、という認識は正しいが一方で間違ってる、実態/実体は1つでも、その受容のされ方は人それぞれ微妙に異なるから。

例えば、自分は子供の頃、白い車を指差して「赤い」と言っていたらしい。母親が「あれは白いクルマだよ?」と聞くと、自分はテールランプだけを見て赤いと言っていたそうだ。白い車を指差して「赤い」と子どもが言っている、と認識した人は、子どもの言っていることは正確ではない、と感じるだろうし、状況から考えればその認識は決しておかしくない。しかし一方で、白い車を指差して「赤い」と言っていても、そのクルマのどこにも赤い部分がないならそれは間違いと言えるかもしれないが、赤いテールランプが付いている以上、それは決して間違いとも言えない。


 昨日の投稿では、新型コロナウイルスの検査に関してSNS等で論争になっていることを書いた。 自分は 検査を出来る限りやるべき という立場だが、検査をする必要性は必ずしも高くない、とか、寧ろ検査はそれ程しなくていい、という人の主張も、一部の極端な話を除けば理解できないわけではない。主張する人の立場や置かれた状況、何に重点を置いて判断しているか、などによって様々な主張がなされており、どれが絶対的に正しく、どれかが絶対的に間違っている、とは決して言えないだろう。勿論一部の極端過ぎる話を除いて。
 Gigazineが昨日「新型コロナウイルスを防ぐための渡航制限は見直す時期に来ている - GIGAZINE」という記事を掲載していた。


 新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由に、現在幾つかの国は感染症流行地域からの渡航制限措置を講じている。日本も中国や韓国の流行地に滞在歴のある外国人の入国拒否をしているし、感染者が確認されたクルーズ船の入港拒否も行った。しかし同時に日本は幾つかの国から既に感染症流行国と見なされ、入国制限の対象とされてもいる(新型コロナの感染拡大、日本からの入国拒否や行動制限をしている国と地域はここ Buzzfeed Japan)。
 Gigazineの記事では、「渡航制限がなければ、渡航に関連した感染者が増えていたでしょう」という渡航制限を評価する主張がある一方で、「渡航制限はわずかな時間稼ぎにすぎない」という指摘もあること、渡航制限を行っている国を含む多数の地域で新たに感染例が報告され始めていることなどを前提とした、「過去数日のニュースのペースが今後1週間続けば、渡航制限は主要な対策でないと明白になるでしょう」という主張も紹介している。

 これらはどれも所謂専門家の主張として紹介されている。つまり、現時点では何が正しく何が間違った判断かは誰にも分からない、ということではないだろうか。別の視点で考えれば、様々な主張を見聞して吟味しなくてはならない、という状況でもある、ということだ。


 昨日の夕方、安倍首相が突如「3/2から全国的に休校を要請する」とし、大きな混乱が生じている。首相がそれを表明したのが18時半ばだったが、すぐさま
  • 急に休みにされても共働き世帯にはどうすることもできない
  • 非常勤講師の収入源が断たれる
  • 給食等の来月分の発注は既に済んでいて、関連業者も打撃を受ける
  • 保育所や学童は閉所するなというお達しだが、働いている人に子どもがいる場合も あり、仕事を休まざるを得ないケースも生じる
  • 医療姿勢も同様
など、様々な「どんな影響が生じるのか考えているのか?」という批判が吹き荒れた。
 NHKは20時半ばに「休校要請 専門家「評価難しい」|NHK 首都圏のニュース / インターネットアーカイブ」という記事を掲載しており、


同記事によれば、政府の新型コロナウイルス対策の専門家会議の委員である岡部 信彦さんは、
専門家会議で議論した方針ではなく、感染症対策として適切かどうか一切相談なく、政治判断として決められたものだ。判断の理由を国民に説明すべきだ
としており、つまり専門家にその施策の是非を聞くこともなく、政府関係者、というか恐らく首相が独断で方針を決定したということだ。もし首相の独断でなかったとしても、彼にその責任があることは間違いない。彼が責任の意味を理解しているかはかなり怪しいが。
 批判が出始めると、保育所や学童は閉所しないで、と言い始め、今日になって文科大臣が「全国一斉休校 春休み短縮も 期間は各教委の判断 文科相が方針 - 産経ニュース」と言いだすなど、政府や首相が批判をかわすことに躍起になっている雰囲気がひしひしと感じられる。様々な主張を見聞して吟味せずに、思い付きだけでことを起こすとどんなことになるかがとてもよく分かる。


 昨日は、


というツイートも目に付いた。また、今日は


というツイートがタイムラインに流れてきた。
 こういう時に「一致団結」というスローガンを叫ぶ人からは、異論を議論抜きに強引に封じ込めたい、という思いが如実に感じられる。それは単なる同調圧力の美化でしかないとしか思えない。


 政権や与党の中に、このコロナ騒動の始めの段階で「緊急事態条項の必要性」を訴える者がそれなりにいたが、こんな状況になっていることを考えると、もし今、既に緊急事態条項が存在していたら、更なる大惨事に発展していたのではないか?と感じてしまう。
 「(時時刻刻)イベント自粛、混乱・落胆 当日の中止発表/主催者は損失懸念 新型肺炎:朝日新聞デジタル」 には、
場当たり的ともいえる政府対応の背景には、政権批判の高まりがあるようだ。クルーズ船への対応には海外メディアの批判が集中、世論調査では内閣支持率が大幅に下落した。自治体からも不満の声が上がり、官邸幹部は「批判するだけなら誰でもできる」と苛立ちを募らせていた
とあり、それを受けてか、政権支持者の一部が同じ様に「批判だけしてればそれでいい野党やアベガ―は気楽なもんだ」という種の主張をしているが、今の政権が、新型コロナウイルス対策として何か有効な対策をした、という事例が果たしてどれだけあるのか。また、デフレ脱却2年2%の達成も、女性活躍も、保育無償化も、働き方改革も、7年かけても実現出来ないし、唯一効果が上がってた外国人観光客もこのコロナ騒動で見る影もない程激減したのだから、コロナ云々抜きにしたって批判されて当然だろう。


 様々な主張を吟味しなくてはならない状況ではあるが、政権支持・維持ありきの視点に偏った主張のような、著しく合理性の低い話に振り回されることは、明らかにコストの浪費に繋がってしまう。寛容のパラドックスと同様に、様々な主張があることを無視した主張は、吟味の対象にする必要はないのかもしれない(寛容のパラドックス - Wikipedia)。


 トップ画像には、Gordon JohnsonによるPixabayからの画像 を使用した。

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