「テレビはオワコン」という批判について、昨年・2019年の夏までは否定的な認識を持っていた。テレビと一口に言っても様々なスタンスの局・番組があるのに、それを全てひっくるめてテレビとし、批判するのは余りにも雑だ、と思っていたからだ。しかし一方で、NHK報道、特に政治報道に対する不信感はそれよりも前から感じていて、自分のツイッターアカウントのトップに固定しているツイートでも示しているように、NHKにも様々なスタンスの番組があるものの、報道はNHKの根幹をなす要素の1つで、それが危機的な状況であるなら、「最早NHKは信用に値しない」と言ってもよいのではないか?とも思っていた。
テレビ報道に信憑性を全く感じられなくなったのは、昨年・2019年の夏だった。日韓政府の対立が激化し、日本が安全保障上の問題を理由に韓国に対して輸出管理で優遇措置をする「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正を閣議で決定したり、それに対して韓国側も同様の措置を始めたり、GSOMIA破棄を示唆したりした際に、在京テレビ局は軒並み、日本政府の措置の合理性のなさは殆ど指摘せず、韓国政府が過剰に反応を示しているとか、韓国で反日の機運が高まっているかのような伝え方に染まったからだ。
また、それと同時期に韓国の法務大臣・曺 国氏に関する不正疑惑と、日本の上野 宏史厚生労働政務官の不正疑惑が生じたが、テレビ各局は曺 国氏の件ばかりを取り上げ、自国政府関係者の不正疑惑は殆ど無視しており、現政権への忖度、そして韓国への過剰な嫌悪が感じられたことも、「最早テレビ報道は信用に値しない」と言っても過言ではないと感じた理由である。
更に言えば、先週「(真相深層)「ホワイト国」日本外れる 米外資新規制の免除リスト公表 技術投資、企業に自衛迫る(写真=AP) :日本経済新聞」という報道があったが、テレビでこの件が取り上げられた形跡は殆どない。相手が韓国だと日本政府の正当性を強調するのに、相手が米国だと扱いもしないというのは一体どういうことなのだろうか。
但しそれでも、まだまともと言える範疇の番組はいくつか残ってはいる。在京テレビ局で最もマシな局は、あくまでも「マシ」としか言えないレベルではあるが、それはTBSだ。同局の報道が全てまともかと言えば、1/31の投稿でも書いたように、そんなことは決してない。しかし同局の平日夜のニュース・NEWS23と、土曜夕方の報道番組・報道特集は見る価値がまだあると言えそうだ。
例えば、NEWS23は現在、桜を見る会の問題を最も取り上げている番組と言えるだろう。1/31には、安倍氏がこれまで
(桜を見る会前日の)夕食会に関して主催者である安倍晋三後援会としての収支は一切ないことから政治資金収支報告書への記載は必要ないものと認識していると述べていたのに、政治資金収支報告書を管轄する総務省担当者が
(政治資金収支報告書の記載について)当該団体の収支かどうか収支の結果がゼロになるかどうかは関係ないという見解を示すと、安倍氏は一転して
主催者は後援会ではなく、参加者1人ひとりがホテルと直接契約を結んだので、政治資金収支報告書への記載は必要ないと言いだしたことを取り上げた。色々と強引な話であるが「主催者は後援会」という話を安倍氏が一方的に覆しているという一点だけでも整合性がない話である。
「桜を見る会」 前夜祭で“新しい”答弁 TBS NEWS
NEWS23は週明けの2/3にも再び桜を見る会の問題に関する国会での審議をとりあげている。内容は1/31の件を踏襲しているが、2/3の審議で立民・辻本氏が「なぜ、他のパーティーは政治資金収支報告書へ記載しているのに、桜を見る会前日の夕食会だけ記載していなかったのか」と質問したところ、安倍事務所に関する質問にも関わらず、棚橋衆院予算委員長が高市総務相大臣に答弁させようとしたことなども報じた。棚橋氏は安倍氏と同じ自民党所属である。また、安倍氏が
(自分と)同じ形式で(政治資金収支報告書へ記載しないようで)あれば問題ないと考えていると述べ、辻本氏が「首相の言い分がまかり通るなら、政治資金収支報告書への記載義務は形骸化する」という旨の指摘をしたことなども報じた。
“ホテル側との契約は参加者”なら合法? 桜の「前夜祭」 TBS NEWS
どう考えても安倍氏の主張は強引で矛盾に満ちており、首相が政治資金規正法を蔑ろにしているという深刻な事態である。在京テレビ各局のニュースサイトを調べたところ、
- 安倍首相「他議員が同様の処理も問題ない」|日テレNEWS24
- 安倍首相“桜”国会で野党追及 公明党も厳しく批判 - FNN.jpプライムオンライン
- 【ノーカット】「桜」めぐり 立憲・辻元氏VS安倍総理|テレ東NEWS:テレビ東京
1/29の投稿で、安倍氏が国会で
幅広く募っているという認識で、募集しているという認識ではなかったという、なんとも珍妙な答弁をしたことに触れたが、その件は軒並み各局が報じていた。「桜を見る会前日の夕食会の主催者は後援会」という話を一方的に覆したことは、それ以上に深刻なことだと自分には感じられるが、テレビ各局にとっては「募集ではなく募っただけ」の方が重要度が高い案件だったらしい。
首相がこんないい加減な発言をすることは、ある意味では新型肺炎よりも深刻であり、新型肺炎のことなど伝える必要はないとは言わないが、寧ろ報道がこの件一色になってもおかしくないレベルである。しかし殆ど取り上げられていないのが実状だ。このような状況では、NEWS23のような番組があったとしても、「最早テレビ報道は信用に値しない」とすることが過剰とは思えない。「テレビはまともな報道をしていない」と指摘されるのも当然ではないだろうか。
BuzzFeed Japanの記者で、HPVワクチンなど医療問題についての記事を多く書いている岩永 直子さんが、新型肺炎に関するメディア報道について次のようにツイートしていた。
パニックを煽るメディアの報道に腹を立てる気持ちもわかるのですが、その報道をしたメディアに直接伝えるか、具体名をあげて批判してほしい。「メディア」を一緒くたに批判してメディア不信を煽るのも、パニックを助長することになるし、真面目に取材しているメディアの気持ちをくじくことにもなる。— 岩永直子 Naoko Iwanaga (@nonbeepanda) February 1, 2020
確かにメディアと一括りにして論じるのは雑な行為であり、彼女の言うように具体的な記事の見出しや報道機関を示して批判する必要はあるし、それが妥当な批判だろう。「一緒くたに批判してメディア不信を煽るのも、パニックを助長することになる」「真面目に取材しているメディアの気持ちをくじく」という主張もとても共感できる。
しかし一方で、新型肺炎に関して、例えばテレビを見ていると、専門家でないコメンテーターや司会者が、必要以上に不安を煽る発言・表現をしている場面にしばしば出くわす。自分はテレビ報道・情報番組に不信感を持って見ているので、ある程度のバイアスもあるだろうが、不安を煽っていると感じる場面は決して少なくない。主にテレビを見る人にとっては、概ねメディア=テレビだし、主にネットを見る人にとっては、概ねメディア=ネットだ。
岩永さんの話が大前提ではあり、基本的には「メディアは」という雑な括りはよくないと感じる一方で、NEWS23のような番組があっても、「テレビはまともな報道をしていない」という指摘が全く適切ではない、とは言えないのと同様に、各個人が触れているメディアの傾向がそのような状況であれば、「メディアは」という主語で批判したくなってしまうのも全く理解できないわけではない。
岩永さんの示した見解は至極妥当ではあるが、メディア関係者は、それぞれが媒体・局・新聞社などの看板を背負っているのと同時に、「メディア関係者」という看板も背負っていると自覚する必要もあるだろう。BuzzFeed Japanのように、他のサイトがいい加減な情報を流していることを積極的に指摘するのは、「ネットメディア」という看板を背負っているとBuzzFeed Japanが自覚しているからで、だから岩永さんのような憤りが生じるのも分かる。
しかし、現在の日本のメディアは、どちらかと言えば、そのような自覚に欠けている媒体/関係者が多いように見えてしまうし、だから「傾向」という意味でのメディア全体への不信が生じ、「メディアは」という大雑把な括りによる批判がなされる側面も確実にあると思う。
トップ画像は、Photo by Allef Vinicius on Unsplash を使用した。