Faithlessの名は、30代以上でダンスミュージックに興味を持っているなら、1度は耳にしたことがあるだろう。フェイスレスは1995年にイギリスで結成されたユニットで、デビューアルバムのReverenceから大ヒットを記録した(フェイスレス (バンド) - Wikipedia)。このフェイスレスのファーストアルバムを知った時、Faithless / 不誠実・信義のない というユニット名なのに、デビューアルバムが Reverence / 尊敬 なのは、非常に対象的で面白いという印象を覚えた。
Reverence は収録曲タイトルでもあり、これはその公式MVだ。フェイスレス自体は、アンビエントやサイケデリックな要素とヒップホップやレゲエの要素を融合した楽曲が多いのだが、ダンスミュージック業界では楽曲のリミックスが盛んで、更に踊りやすさを追求したリミックスバージョンがこの曲にもあり、個人的にはそのリミックスの方が好みである。
この Tamsin's Re-Fix は、アルバム・Reverenceの収録曲のリミックス集、所謂リミックスアルバムにも収録された楽曲なのだが、そのリミックスアルバムの名前が面白い。リミックスアルバムのタイトルは Reverence / Irreverence だ。
冒頭で Reverence を尊敬と訳したが、尊敬は尊敬でも、Respect よりも更に深い尊敬を意味し、場合によっては畏敬、崇敬などとも訳される。一方 Irreverence は、Regular の反対が Irregular であるのと同様に、尊敬の反対、不敬を意味する。自分達の楽曲のリミックス集に、単なるReverenceとの対比なのか、それともリミックスされるのが嫌だったのか、その真意は定かでないが、不敬を意味するIrreverenceと名付けているのも非常に興味深い。因みに、フェイスレスはアルバムを出す毎にリミックスアルバムをリリースしているので、後者の理由でIrreverenceと名付けられた可能性は限りなく低い。
少し前置きが長くなったが、今日の投稿のテーマは「不誠実/尊敬/不敬(尊敬できない)」だ。
オリンピックの延期が決まった途端に東京での感染者数が増え始め、都知事が何故か即日ではなく週末の外出自粛を言い始めたことやそれについての不信感を、3/26の投稿で書いた。同じような不信を感じた人は多かったようで、都知事もオリンピック延期が決まるまでは感染拡大を矮小化する演出に加担していたのでは?のような話に、SNS上では決して少なくない人が言及していた。
昨日は都知事がオリンピック選手村を、新型ウイルスに感染した軽症患者を一時的に滞在させる施設として活用する案を示した。
選手村、コロナ患者の一時滞在施設に 小池知事が提案 [新型肺炎・コロナウイルス]:朝日新聞デジタル
個人的には、オリンピック開催の為の施設と言えど、開催までには時間があったのに、なぜもっと早くこのようなことを言いださなかったのか、という不信感を持った。だが、例えばコラムニストの小田嶋 隆さんのように、
「遅すぎた」とか、批判はあるだろうが、とにかく英断だと思う。これまでの行きがかりは別にして、高く評価したい。雑音に惑わされず、どうか実現にこぎつけてほしい。と、一応評価する、という見解を示した人も決して少なくはなかった。
評価するという人を否定するつもりは一切ない。しかしそれでも自分は評価する気には全くなれない。それは少し前に話題になった、「ずっと一貫して真面目な人より、不良から更生した人の方が賞賛される」ことがしばしばあり納得がいかない、という話によく似ている(これは醜い嫉妬なのか 「ずっと真面目」な人々が納得できないコト : J-CAST会社ウォッチ)。
例えば小池氏が、これまで概ね誠実に都政を動かしてきた人物であれば、小田嶋さんのように評価することが自分にもできたかもしれない。しかし、彼女は都知事出馬時に掲げた公約の内、一体どれだけを実現してきたか(小池都知事「ゼロ公約」に批判も 実現の見込み低く「ゼロゼロ詐欺」「説得力なさすぎ」など - 毎日新聞)。 更に、2017年の衆院選で、結果的に自民党の勝利の大きなきっかけを作った、希望の党を主導したのも彼女だし、その際にも、都知事選で掲げたものの任期末期の現在もほぼ全く実現出来ていないのと同種の公約を掲げていた(希望の党公約「12のゼロ」読むと実現不可能な公約を掲げて政権取った旧民主党を思い出す | ハフポスト)。
そんなことを勘案すれば、小池氏による珍しくまともな発言を評価しようとは思えない。何故なら、彼女の話が実現するという期待が著しく低いからだ。「緊急時だからその辺は大目に見て…」と思う人もいるかもしれないが、緊急時だからこそ、オリンピック延期が決まらないと、感染症対策へ積極的に動き出さないような、信頼感の低い人に舵取りは任せられない。
これは都だけでなく中央も全く同じである。週刊ポストは3/26に、
安倍昭恵氏、花見自粛要請の中で私的「桜を見る会」していた|NEWSポストセブン
という記事を掲載した。この件は昨日・3/27の国会でも取り上げられた。立民・杉尾議員が「花見自粛要請の中、奥様の昭恵夫人が都内でグループで花見をしている写真がネットにアップされて出回っています。総理はご覧になりましたか」と問うと、安倍氏は、
「都が自粛を求める公園ではない」総理、昭恵夫人の花見写真に答弁 TBS NEWS
と述べ、「問題はない」という見解を示した。こんなことを国会で平気で言う男が首相であり、現在政府の感染症対策の責任を負う立場であることは非常に恐ろしい。
何故なら、まず安倍氏自身が2/29の会見の中で、
スポーツジムやビュッフェスタイルの会食で感染の拡大が見られる事例がありました。換気が悪く、密集した場所や不特定多数の人が接触するおそれが高い場所、形態での活動も当面控えていただくとともに、事業者の方々には、感染防止のための十分な措置を求めたいと思います。と述べ(令和2年2月29日 安倍内閣総理大臣記者会見 | 令和2年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ)、厚労省が3/1に発表した文書の中で、
スポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テントなどでは、一人の感染者が複数に感染させた事例が報告されています。このように、集団感染の共通点は、特に、「換気が悪く」、「人が密に集まって過ごすような空間」、「不特定多数の人が接触するおそれが高い場所」です。
換気が悪く、人が密に集まって過ごすような空間に集団で集まることを避けてください。
とし(新型コロナウイルスの集団感染を防ぐために 令和2年3月1日版)、更に政府の専門家会議も、
別の場所でクラスターを発生させる恐れがあるとして行動の自粛を求めている。避けるべき場所としてライブハウスやカラオケボックス、自宅での飲み会などを挙げた。と、「軽症気付かず感染拡大 ライブやカラオケ、若者も注意 (写真=共同) :日本経済新聞」が報じており、つまり政府が、花見か否かやレストランのプライベートなスペースかどうかに限らず、大人数での会食自体を自粛すべき、としてきたからだ。週刊ポストが掲載している写真からは、13人程度が集まっていることが分かるし、レストランに集まっていたら当然会食や談笑をしている筈だ。もし万が一実際は飲食も談笑もしていなかったとしても、そう受け止める人はいないだろう。
明恵氏の振舞いを非難する人もいるようだが、彼女は首相夫人ではあるものの、一応建前上は単なる首相の妻というだけだし、あくまでも自粛「要請」なので、従う義務はないのだから、勿論批判するのは自由だが、個人的には、例えば任意の職質要請を拒否した場合にそれだけで批判されたくないので、明恵氏の行為を強く批判する気にはなれない。
しかし、自粛を要請する立場の安倍氏が、自分の妻のこの振舞いを「問題ない」とするのは全く納得がいかない。安倍氏にとって明恵氏のこの行為が問題ないのであれば、
自粛の要請は「まさに」、「いわば」単なる要請であり、感染拡大の抑止が求められる「なかにおいて」、「まさに」、「いわば」「自粛しなくても問題ない」という見解を、自粛を求める立場の首相自身が示したことになる「わけでございます」。
そんな支離滅裂な話があるだろうか。
まさにFaithlessでIrreverence、信義に欠け全く尊敬できない。
安倍氏は何故こんなことを言ったのか。それは、政府として2/18には既に「不要不急の集まりをなるべく自粛する」ことに触れていたのに、“不要不急の集まり自粛”何に注意すべき?|日テレNEWS24
染を防ぐため、政府が呼びかけたのが、この対策。そして、2/26には自身も、政府の専門家会議が2/24に「これから1~2週間が(感染の)急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際」とする見解を示したことを受けて、
国立感染症研究所・脇田隆字所長「不要不急の集まりをなるべく自粛するようなことも検討していく必要があろうかと」
国内のスポーツ・文化イベントの開催を2週間自粛するよう要請する考えを示したのに(国内のスポーツ・文化イベント、2週間自粛要請へ 首相 [新型肺炎・コロナウイルス]:朝日新聞デジタル)、その政府の長たる自分は、
2/20
東京・六本木の京料理、鉄板焼き店「花郷 六本木店」。評論家の金美齢氏、自民党の城内実、池田佳隆、石川昭政、長尾敬、簗和生、山田賢司各衆院議員、小野田紀美参院議員らと食事(首相動静 20日:朝日新聞デジタル)。
2/21
東京・芝公園のホテル「ザ・プリンスパークタワー東京」。自民党の山口泰明組織運動本部長、稲田朋美幹事長代行、三ツ林裕巳、神山佐市両衆院議員と食事。西村官房副長官同席(首相動静 21日:朝日新聞デジタル)。
2/25
公邸。金丸恭文フューチャー会長兼社長らと食事(首相動静 25日:朝日新聞デジタル)。
2/26
公邸。佐治信忠サントリーホールディングス会長、岡田裕介東映グループ会長、高居隆章日本カルミック社長らと食事(首相動静 26日:朝日新聞デジタル)。
2/28
公邸。作家の百田尚樹氏、ジャーナリストの有本香氏と食事(首相動静 28日:朝日新聞デジタル)。
と、会食を繰り返していたからだろう。明恵氏の会食を安倍氏が咎めれば、自粛を要請していた立場の自身が会食三昧だったことにも、追求が及ぶことは容易に想像がつく。
ここに挙げた会談の中には不要不急とは言えないものも含まれているだろうが、それでも感染症対策を考えるならば、食事を共にするのは危うい。また、2/28の百田・有本らとの食事などは「不要不急」の最たる例である。
もし今後安倍氏が、万が一何かまともなことを言ったとして、「批判はあるだろうが、とにかく英断だと思う。これまでの行きがかりは別にして、高く評価したい」と思えるかと言えば、自分には絶対無理だ。
因みに、この投稿で指摘したようなことに一切触れずに、「野党の追求に対して、安倍首相は…と答えました」とだけしか伝えないメディアもハッキリ言って腐っている。例えば、前述したTBSの記事は、
野党側は新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、安倍昭恵総理夫人が自粛を求められている花見をしていたなどとして追及しています。としているだけだ。将軍様のお言葉を称賛しつつ伝えるだけの朝鮮中央テレビよりは幾分ましだが、おかしな点が幾つもあるのに、それには一切触れず、首相のお言葉を伝えるだけの報道機関は、朝鮮中央テレビに準ずる機関と言っても過言ではないのではないか。
安倍総理は、昭恵夫人が「私的に“花見”を楽しんでいた」などと一部で報道されたことについて、会合を開き桜を背景に写真を撮ったことは認めたうえで、プライベートな空間であり問題はないと強調しました。
「花見自粛要請の中、奥様の昭恵夫人が都内でグループで花見をしている写真がネットにアップされて出回っています。総理はご覧になりましたか」(立憲民主党 杉尾秀哉 参院議員)
「都内のプライベートなスペース、レストランであったということですが、知人と会合を持った際に、みんなで記念写真を撮る際に、桜を背景に記念撮影を行ったということでした。東京都が自粛を求めている公園での花見のような宴会を行っていたという事実はない」(安倍首相)
安倍総理はこのように述べ、昭恵夫人がアイドルグループのメンバーや人気モデルの女性などと会合を開き、桜を背景に写真を撮ったことは認めたうえで、場所はレストラン内であり、飲食を伴う花見の自粛が要請されている都内の公園ではなかったとして、問題はないとの認識を示しました。