スキップしてメイン コンテンツに移動
 

不安の増幅装置



 北海道庁の公式ツイッターアカウントが、【デマ情報に注意!】とし、「現在、新型コロナウイルス感染症に係る多くのデマ情報が流れています。ネット等に掲載されている出所が不明な情報を信用せず、公的機関が出す情報をご確認ください」とツイートしていた。
 北海道は複数の感染者が確認され、2/28に道知事が緊急事態宣言を行い、外出自粛要請が示された。但しこの道の対応も、首相の独断による拙速な臨時休校要請と同様に波及する影響への対応策に乏しく、「「簡単に休めない」「騒ぎすぎ」 緊急事態宣言の北海道 市民に戸惑い - 毎日新聞」とも報じられている。


 北海道庁は「出所が不明な情報を信用せず、公的機関が出す情報をご確認ください」と呼びかけているが、それは公的機関が信用し得る存在である、という前提でなければ成り立たない。公的機関も信用ならない、と感じている人にとっては、「道は何言ってんだよ」ということにもなりかねない。道は不安とデマの解消を試みているようだが、その為に必要なのは信頼であり、不信は更なる不安とデマが付け入る隙を生む、ということは、3/2の投稿でも書いた。
 自分は北海道民ではなく道の現状を知らない。だから道が緊急事態宣言し外出自粛を要請したことが、果たして妥当なのか、それとも余計な不安を生んだだけなのかは判断できない。しかし、3/2の投稿でも書いたように、首相や政府・厚労省の後手後手以下で場当たり的、そして矛盾も多い対応が、不安とデマが付け入る隙を生んでいる、ことは否定することが出来ない、と考えている。


 この投稿は3/2の投稿の続編的な内容である。3/2の投稿では
  • クルーズ船対応の不備は誰の目にも明らかだったのに、認めずに「適切だった」と言い続ける政府や厚労省
  • 大規模なイベント自粛要請はするのに、7万人もの人が集まる東京マラソンが開催されたこと
  • 感染拡大防止の為という名目で臨時休校要請を出したのに、保育所や学童保育はそのままで、という矛盾
  • 「この14日が山場だ」と言うのに、記者の質問を振り切り会見を閉じ、即座に対応に当たるのかと思えば、そのまま帰宅する首相
  • スポーツジムや屋形船等「換気が悪く人が密集する空間」を避けて、と言うのに、電車やバスには一切触れない政府方針
などの矛盾・場当たり的対応を指摘した。それからたった2日しか経っていないが、その間にも同じような、特に厚労省の示す矛盾が複数目に付く。

 厚労省は3/1に、家族に新型コロナウイルスの感染が疑われる場合、家庭内で注意すべき8つのポイントをまとめた資料を公表した(いま家族が発熱したら?新型コロナウイルス感染防止のため、家庭内でできること Buzzfeed Japan)。


 新型コロナウイルスによる感染症は、軽症時は通常の風邪と変わらない。つまり、風邪の症状を確認したらこう対処しましょうという指針である。その中に「部屋を分けましょう」とある。これは全くその通りで、インフルエンザ等でも同様の対処を行う。しかし、その後に続く、
部屋数が少ない場合など、部屋を分けられない場合には、少なくとも2メートル以上の距離を保ったり、仕切りやカーテンなどを設置することをおすすめします。
は、庶民の暮らしぶりを無視しているとしか言えない。そう思うのは「部屋数が少ない場合など、部屋を分けられない場合には、少なくとも2メートル以上の距離を保ったり」という部分だ。 部屋数が少なく、部屋を分けられない家族が、2mの距離を保てるような広い部屋に住んでいるケースがどれだけあるだろうか。4+6畳程度の2K、若しくはそれ以下の物件に家族3-4人、若しくはそれ以上の人数で済んでいるようなケースが「部屋数が少なく、部屋を分けられない家族」の大半ではないだろうか。こういう浮世離れした発表をすれば、「厚労省は現状把握力に乏しい」と受け止められかねない。更に言えば、国が貧困の現状を理解していない、という別の不信も生みかねない。

 厚労省は他でも同じ様な、現状とかけ離れた見解を示している。厚労省と文科省は3/3に、新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、学童保育の運営方針として「子ども同士の不要な接触を避けるため、1メートル以上の間隔を空けて活動するように推奨する」とした(学童保育 “席の間隔1m以上離し配置を” 厚労省 文科省 | NHKニュース / インターネットアーカイブ)。


 これは、厚労省や文科省が「学童保育とはどのような場所なのか」を全く理解していないということを示している、としか言いようがない。学童保育は学校とは異なり、児童を自席に着席させて何かをするようなところではない。学童保育では、児童が自宅や友達の家に集まっているのと同じように、自由にしたいことをする。だから1mの間隔を設けろなんてのは、ハッキリ言って何も理解していないバカの言うことだ。
 それを厚労省や文科省が発表しNHKが無批判に報じるということは、その3つの機関は信用度を自ら下げようとしていると言っても過言ではない。それは「厚労省・文科省「子ども同士を1メートル以上離して」に「学童を知らな過ぎ」など厳しい意見が殺到(1/3) | ねとらぼ調査隊」という記事からも明らかだろう。


 また厚労省は3/1に、新型コロナウイルスについて、1人の感染者が複数の人に感染させる経路の特徴を指摘し、イベントを開催する場合などには風通しの悪い空間を作らないよう呼びかけた。これまでに感染が広がった状況の例として、スポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テントなどが挙げられている。3/2の投稿でも指摘したのと同じことではあるが、「換気が悪く」「人が密に集まって過ごすような空間」「不特定多数の人が接触する恐れのある場所」を避けろ、としているのに、電車やバスには一切触れられていない。
 これまでその点を疑問視した報道は目に付かなかったが、ハフポストの3/2の記事「新型コロナ、集団感染が起こりやすい場所は?スポーツジム、雀荘...3つの共通点が存在した」の最後に

3つの特徴に当てはまると思われるのは、都会の満員電車だ。厚労省に満員電車に対する見解を聞いたが「今は例示していない。今後のことはわからない」と答えるのみだった
とある。これでは厚労省が何を発表しようが半信半疑、人によっては「全く信用ならない」と思われても仕方がないだろう。

 翌3/2にも、ウイルスの特徴により、症状が軽い若年層が、気がつかないままに感染を拡大させている可能性があるとする見解を示し、ライブハウス、カラオケボックス、クラブ、立食パーティー、自宅での大人数での飲み会など、規模の大小に関わらず、風通しの悪い空間で人と人が至近距離で会話する場所やイベントにできるだけ行かないように、としている(「若年層が感染を拡大」? 政府の専門家会議、若者に風通しが悪い所を避けるよう呼びかけ | ハフポスト)が、ここでもやはり電車やバスには全く触れられていない。
 これを読んだ・聞いた若者はどう思うだろうか。自分には「電車やバスで不特定多数に、しかも満員電車では人と人が、カラオケボックスやパーティー以上に、クラブやライブハウスと同じくらい至近距離に集まるのに、満員電車よりも頻度の低い場所だけ控えろってバカなの?」と受け止めるとしか思えない。厚労省がこんな指針を示しても、焼石に水、火に油を注ぐ、結果になるだけだろう。
などと、大阪府や厚労省、NHK、その他の一部のメディアも騒がしいが、そのコンサートに感染者がはどうやって行ったんだ? 自家用車か? 徒歩? 電車バス? ライブハウスだけを槍玉に上げているのは滑稽としか言いようがない。
 公的機関が自ら不信を招いている、としか思えない。


 Buzzfeed Japanは3/3に、「厚生労働省の職員「多忙でメンタルをやられた人もいる」 新型コロナ対策の現場で何が起きているか?」という記事を掲載した。厚労省の慢性的なマンパワー不足を厚労省内部から訴え、それが現状の主な原因である、と主張するのような内容だ。人によって受け止めは違うかもしれないが、自分にはそう見えた。
 その種の構造的な問題は、主にコストカットしてきた政治と、そんな政治を選んできた有権者の問題でもあるが、同時に厚労省自身の問題でもあると思う。中の人の悲鳴も分からなくもないが、今のタイミングでこのような記事を読めば、「やはり厚労省・政府は機能不全に陥っているというのが現状で、示される見解は話半分で聞いておかないと、後で梯子を外されかねない」と感じてしまう人も、決して少なくないのではないだろうか。
 少なくとも自分はこの記事を読んで、厚労省の中の人も大変だね、と思うよりも、そのように感じて余計に不安が募った。


 こんなことから、今、「公的機関が出す情報をご確認ください」と言われても、公的機関が出す情報だから信用できるというのは幻想に過ぎない、と思う自分がいる。勿論、出所不明な情報の方が信用できる、という話では断じてない。あくまでそれとは別に、

 今の日本は、公的機関だから信用できる、という状況にはない

ということだ。


 トップ画像は、Photo by Thomas Litangen on Unsplash を加工して使用した。

このブログの人気の投稿

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

読書と朗読を聞くことの違い

 「 本の内容を音声で聞かせてくれる「オーディオブック」は読書の代わりになり得るのか? 」という記事をGigazineが掲載した。Time(アメリカ版)の記事を翻訳・要約した記事で、ペンシルベニア・ブルームスバーグ大学のベス ロゴウスキさんの研究と、バージニア大学のダニエル ウィリンガムさんの研究に関する話である。記事の冒頭でも説明されているようにアメリカでは車移動が多く、運転中に本を読むことは出来ないので、書籍を朗読した音声・オーディオブックを利用する人が多くいる。これがこの話の前提になっているようだ。  記事ではそれらの研究を前提に、いくつかの側面からオーディオブックと読書の違いについて検証しているが、「 仕事や勉強のためではなく「単なる娯楽」としてオーディオブックを利用するのであれば、単に物語を楽しむだけであれば、 」という条件付きながら、「 オーディオブックと読書の間にはわずかな違いしかない 」としている。

あんたは市長になるよ

 うんざりすることがあまりにも多い時、面白い映画は気分転換のよいきっかけになる。先週はあまりにもがっかりさせられることばかりだったので、昨日は事前に食料を買い込んで家に籠って映画に浸ることにした。マンガを全巻一気読みするように バックトゥザフューチャー3作を続けて鑑賞 した。

敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。