スキップしてメイン コンテンツに移動
 

今ある不安の最も大きな原因は不信


 トイレットペーパーの買い占めがこの数日話題になっている。マスクの品薄状態が続いたことや、中国における生産現場の立ち往生が報じられ、その影響からか紙製品が品薄になる、というデマが広まった為トイレットペーパーの買い占め騒動が起きている、という見解が大勢を占めている。そして、それを報じるメディアが買い求める長蛇の列や空っぽになった売り場を強調することによって、デマを信じなかった人も買えなくなる不安から必要以上の備蓄に走る、という指摘もある。


 今朝テレビ朝日のグッド!モーニングでは、この騒動を伝えるのに、
総理が呼び掛けてもティッシュ品薄続く
と報じており、画面にもその旨のキャッチが表示されていた。確かに、安倍首相は2/29の会見の中で、事前にシナリオが用意された茶番ではあるが、記者の質問に答える体裁で、
トイレットペーパーなどについて不足も一部で起きておりますが、これについてはですね、様々な、いわば噂が飛び回っている。事実でない噂が飛び回っているわけでありますが、ほぼ全量が、これは国内生産です。トイレットペーパーについてはほぼ全量が国内生産でありまして、中国を始めとしたサプライチェーンの問題は全く起きていません。全く関係ないわけであります。十分な供給量が、そして在庫が確保されていることから、これについても、冷静な購買活動をお願いをしたいと、このように思います。
と述べている(令和2年2月29日 安倍内閣総理大臣記者会見 | 令和2年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ)。

 なぜ首相が呼びかけても、一部の国民がそれを無視するような行動に走るのか。それは、勿論複数の要因があるだろうが、首相が「全く問題ない」と言っても不安が解消されないからだろう。なぜ首相が「全く問題ない」としても不安が解消されないのか、それも勿論複数の要因があるだろうが、彼がこれまで、例えば森友学園・加計学園の問題、自衛隊の日報隠蔽問題など、そして直近で言えば桜を見る会の問題にまつわる、整合性に欠ける発言を連発してきたこと、彼の政権下でこれまで幾多の公文書/データの改竄・捏造・隠蔽・不適切な廃棄事案が起きていることは、間違いなくその大きな要因だ。
 簡単に言えば、

 安倍氏は国民から信用されていない

から、彼が呼びかけても市中の不安は解消せず、騒動が収まらない。


 新型コロナウイルスへの対応だけを見ても、首相や政府の整合性に乏しい対応・見解は既に複数ある。新型ウイルスの感染が広がるというだけでも不安が生じるのに、
  • クルーズ船への対応も、誰の目にも失敗は明らかだったのに、それでも「実際はしっかり行われている」「隔離は有効に行われてきている」という見解が示され続けた(2/24の投稿
  • 2/16に首相が「打つべき手を先手先手で打つ」などと言っていたのに、政府が対応の基本方針なるものを示したのは2/25で、一体「先手」とは何なのか?という批判が相次いだ(2/26の投稿
  • その後安倍氏は大規模イベントの自粛要請を行ったが、その影響で不利益を被る人達への補償や支援策が示されず、批判が相次ぎ、更に2/27に突如全国的な臨時休校要請を発表し、それについても全く波及する影響に対する対応が示されず、最早批判ではなく不満が吹き荒れた(2/28の投稿
  • 種々の不満を受けて、保育所・学童保育所には休止を要請しないなど対応を追加で発表するも、「それでは学校を休校にする意味がない」という批判に晒され、文科大臣が「あくまで要請であり対応は柔軟に」などと言い始めるなど、迷走と言っても過言ではない状況が生じた
ことなどによって、不安は更に煽られることになった。
 そして極め付きは2/29に安倍氏が行った会見である。昨日の投稿でも指摘したが、安倍氏が会見で示したのは、「全力を尽くす」「万全を期す」のような決意表明ばかりで、具体策は殆ど、というか全く示されなかった。いくつか数字に触れた場面もあったが、先手を打つと言っていた者が、「これから1-2週間が、急速な拡大に進むか、終息できるかの瀬戸際」と言いつつ、「緊急対応策を今後10日程度のうちに速やかに取りまとめる」と言っていた。この14日間が山場なのに、これから10日かけて対応策をまとめる?それでは山場に殆ど間に合わない。しかも、記者が質問をしようとしているのにそれを無視して30分程度で会見を打ち切り、即座に急を要する対応策の取りまとめにかかるのかと思えば、そのまま帰宅してしまう
 これでは市中に不安が蔓延し、デマを信じる人が出始め、トイレットペーパーの買い占め騒動が起きるのも無理はないし、首相が呼びかけても騒動が収まらないのも当然だろう。


 昨日は大規模イベントの自粛が求められる中で、東京マラソンが行われた。日本陸上競技連盟は「参加選手が数百人(約200人)で大規模イベントには当たらない」としたが(東京マラソン「大規模イベントに当たらない」 日本陸連、予定通り開催)、沿道には約7万2000人もの人が集まったそうだ(新型肺炎 自粛と言われても 東京マラソン… それでも沿道7.2万人 - 毎日新聞)。


この画像は「東京マラソン、観戦自粛呼びかけも沿道に7万2000人― スポニチ Sponichi Annex スポーツ」のスクリーンショットだ。「大規模イベントだけどやる」なら分かるが、テレビの中継やこの写真を見たら、「大規模イベントに当たらない」という判断は全く理解できないし妥当と言えない。陸連の判断ということになってはいるが、都や国は、関わりのあるイベントにもかかわらず、なぜその整合性の低さを指摘しないのか。自分には、都や国も整合性のある判断ができないから、としか思えない。


 今日も既に、更に市中の不安を深めるような話が報じられている。
 1つ目は、「「換気悪い密集空間を避けて」 感染場所の特徴公表:朝日新聞デジタル」という話だ。


記事には
安倍晋三首相は1日、政府対策本部の会合で、換気が悪く、人が密集するような空間に集まることを避けるよう国民に求めた。専門家による調査で、スポーツジムや屋形船などで小規模な患者の集団(クラスター)が発生し、1人が12人に感染させた例があったという。
とある。しかし、電車やバスには全く触れられていない。先週から一部の企業等でテレワークが推進されており、平時に比べれば乗客は少ないが、それでも電車やバス内の人口密度はスポーツジムや屋形船と同等かそれ以上であることも決して少なくない。換気が全くされていないということはないだろうが、どう考えてもジムや屋形船とは比べものにならないくらいの換気が常に行われているとは考え難い。首相がこんな見解を示せば、多くの人が「電車やバスはどうなんだよ!」とツッコみたくなるはずだ。

 2つ目は全国臨時休校に関する「「緊急事態宣言」の法整備推進 安倍首相、休校「専門家に聞かず」―新型肺炎対策:時事ドットコム」という話だ。


安倍氏は、2/29の会見の中で
これから1、2週間が、急速な拡大に進むか、終息できるかの瀬戸際となる。こうした専門家の皆さんの意見を踏まえれば、今からの2週間程度、国内の感染拡大を防止するため、あらゆる手を尽くすべきである。そのように判断いたしました。(中略)そして、全国すべての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、来週月曜日から春休みに入るまで、臨時休業を行うよう要請いたしました。
と述べている。しかし、今日午前の国会審議の中で、立憲・福山議員に一斉休校が必要と判断した根拠を問われると、
専門家の意見を伺ったものではない
これから1~2週間が急速な拡大に進むか終息できるかの瀬戸際だ。判断に時間をかけるいとまがない中、私の責任で判断した
と発言した。最早安倍氏の話は支離滅裂としか言い表せない。これでは不安と不満が市中に広まるのも当然である。

 このようなツッコミどころ満載な首相や政府の発表こそが、市中の不安を更に醸成する。デタラメな首相/政府の対応が続く限り、デマが付け入る隙は減らない。今後もまたトイレットペーパーの買い占め騒動のようなことが起きる恐れも解消できない。
 こんな状況下で、


こう煽る者がいて、それに1万を超える賛同が集まっているのを目の当たりにすると、背筋がうすら寒くなる。現状を直視できない政府とそれを妄信する者、それが70年前の悲劇の原因になったことを理解できず、同じことを繰り返そうとしている人がいる。
 但し、この馬鹿(失礼)も不安を掻き立てられてこんな発信をしているのだろうし、賛同している者も同様だろう。

 今一番重要なのは不安を出来る限り解消することだ。しかしそれは、今の首相や政府が続く限りどうやっても実現出来ないことに、多くの人が気付かなければ、状況は更に悪化してしまうだろう。


 トップ画像は、Photo by Ethan Haddox on Unsplash を加工して使用した。

このブログの人気の投稿

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになる

 攻殻機動隊、特に押井 守監督の映画2本が好きで、これまでにも何度かこのブログでは台詞などを引用したり紹介したりしている( 攻殻機動隊 - 独見と偏談 )。今日触れるのはトップ画像の通り、「 戦闘単位としてどんなに優秀でも同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになるわ。組織も人も特殊化の果てにあるものは緩やかな死 」という台詞だ。

フランス人権宣言から230年、未だに続く搾取

 これは「 Karikatur Das Verhältnis Arbeiter Unternehmer 」、1896年ドイツの、 資本家が労働者を搾取する様子を描いた風刺画 である。労働者から搾り取った金を貯める容器には、Sammel becken des Kapitalismus / 資本主義の収集用盆 と書かれている。1700年代後半に英国で産業革命が起こり、それ以降労働者は低賃金/長時間労働を強いられることになる。1890年代は8時間労働制を求める動きが欧米で活発だった頃だ。因みに日本で初めて8時間労働制が導入されたのは1919年のことである( 八時間労働制 - Wikipedia )。

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

馬鹿に鋏は持たせるな

 日本語には「馬鹿と鋏は使いよう」という慣用表現がある。 その意味は、  切れない鋏でも、使い方によっては切れるように、愚かな者でも、仕事の与え方によっては役に立つ( コトバンク/大辞林 ) で、言い換えれば、能力のある人は、一見利用価値がないと切り捨てた方が良さそうなものや人でも上手く使いこなす、のようなニュアンスだ。「馬鹿と鋏は使いよう」ほど流通している表現ではないが、似たような慣用表現に「 馬鹿に鋏は持たせるな 」がある。これは「気違いに刃物」( コトバンク/大辞林 :非常に危険なことのたとえ)と同義なのだが、昨今「気違い」は差別表現に当たると指摘されることが多く、それを避ける為に「馬鹿と鋏は使いよう」をもじって使われ始めたのではないか?、と個人的に想像している。あくまで個人的な推測であって、その発祥等の詳細は分からない。