YMOと言えば日本、いや世界的にも有名なテクノポップバンドで、エレクトリック系ミュージックを語る上で避けては通れない存在だ(イエロー・マジック・オーケストラ - Wikipedia)。自分はテクノやハウスなどのエレクトリック系ミュージックを好む人間だが、YMOリアルタイム世代ではない。小学校の運動会のBGMなどでライディーンが流れていた記憶はあるが、それがYMOの曲であることを知るのは10年くらい後のことだ。
今日のトップ画像に用いたのは、YMOとして3枚目、初のライブアルバムである「パブリック・プレッシャー/公的抑圧」のジャケットだ。自分がYMOに興味を持ったのは、18歳頃に当時一部で注目され始めたデトロイト系テクノを聞き始めたことに拠る。そのルーツとしてYMOやクラフトワークに興味を持ち、また、レンタルCD店にあった数少ないエレクトリック系ミュージックだったので一通りアルバムを聴いた。
「パブリック・プレッシャー/公的抑圧」というタイトルからは、昨日の投稿で触れたような、戦前戦中の検閲・情報統制が厳しく行われた社会、政府・軍など公的機関による弾圧や、当時から既に一部で異論が呈されていた、日本社会における同調圧力の強さへの牽制や抵抗など、ある種の政治的・社会的な主張がこのアルバムには込められているのでは?という連想を、最初に手にした時にしたが、聞いてみたら何のことはない単なるライブアルバムで、そのような要素は微塵も感じられなかった。
同アルバムのWikipediaにもあるが、 「パブリック・プレッシャー/公的抑圧」というタイトルは、当時既に人気を博していたYMOへの、世間からの期待がプレッシャーにも感じられた、というような意味で名付けられたらしい。
YMOのアルバムの「公的抑圧」とは意味が全然異なるものの、やはり自分は今も「公的抑圧」に公的機関による弾圧や社会における同調圧力を連想してしまう。 それがこの投稿の冒頭で「パブリック・プレッシャー/公的抑圧」に触れた理由だ。
4/7の新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言を受けて、外出自粛をしてもらう為の「声かけ」を警察が繁華街などで始めた、と複数のメディアが報道している。
東京 新宿 歌舞伎町で外出自粛呼びかけ 外国語でも 警視庁 | NHKニュース / インターネットアーカイブ
このNHKの記事では、警察官の右手の手元が見えない画像が使用されているが、恐らくこの警察官は3人とも右手に警棒を伸ばした状態で持っている。
警官声かけ「外出自粛に協力を」 職務質問との線引きも [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル
いま「ニュース23」の冒頭で、歌舞伎町で外出自粛を要請する警察官の映像が放送されていた。あくまでも「犯罪予防の観点」で行っているという説明が入っていたが、特殊警棒をこれ見よがしに持ちながら複数名で圧力をかける様子は、外出に対する警察による脅しにしか見えない。 pic.twitter.com/GtLemBo6SA— Galbraithian (@galbraithian999) April 10, 2020
2020年4月10日新宿歌舞伎町。普通の通行人に対し、不要不急の外出「自粛要請」目的のために、警棒(伸ばした状態)を手に持ち、自粛要請の呼びかけ時に警棒をプラプラさせる行為は、比例原則(警察比例の原則、警察官職務執行法1条2項)に違反する違法行為である— 平 裕介 (@YusukeTaira) April 11, 2020
いよいよ法治主義違反が放置される国へ pic.twitter.com/LK6cOJuThc
歌舞伎町、警察官が街を練り歩き、通行人に対して“外出自粛要請“のプレッシャーをかけ始めました! pic.twitter.com/J65aJi5G42— 仙頭正教 (@sento1025) April 10, 2020
例えば、何かしらの理由で著しく治安が悪化していることが誰の目にも明らかであれば、警棒を手に持って警戒に当たるということも理解は出来るが、果たして、外出自粛を呼びかけるのに警棒を伸ばした状態で手にする必要があるだろうか。警察官はその制服だけでも充分威圧的に見えるし、マスクで表情が見えないなら尚更だ。挙句の果て警棒を伸ばした状態で常に手にしていた、「威圧しようというつもりはない」と言われたとしても全くそうは思えない。
このような行為は「声かけ」なんて生易しい表現をするべきものではなく、外出自粛要請が出てるんだから帰れ、という「脅し」にも等しい、と自分には感じられる。このような警察の行為にも、昨日の投稿で触れた戦前戦中への回帰を感じずにはいられない。
しかし警視庁がこんなことをしている一方で、神戸の警察署で、署長と副署長を含む10人の感染が確認され、内5人が3/27に着任した署長らの歓迎会として行われた宴会に参加していた、とも報じられている。
神戸西署長と副署長がコロナ感染 幹部らの歓迎会に参加:朝日新聞デジタル
3/27は緊急事態宣言以前ではあるが、既に外出自粛に関する要請を都や国などが示していた時期だ。
兵庫県警と警視庁は組織として別だ、という見解を示す人もいるだろう。だがどちらも同じ「警察」という看板を掲げた組織であることに違いはない。 自分には「一方で警察官が飲み会を開いて集団感染しているのに、外出自粛要請が出てるんだぞ?と警棒を振り回して脅されても…」という風にしか思えない。
「外出自粛要請が出ているので…」と警察官が声かけをすること自体には何ら異論はない。しかし警棒をちらつかせて脅すような態度を示すことは全く理解できない。昨年の参院選などで首相や大臣に対して否定的な声を上げた者を、警察か排除するという事案が複数起きたが、そういうことやこういうことへは、おかしいと声を上げ続ける必要が確実にある。
偉そうなことを言う割に緊張感に欠けているのは警察だけではない。自民党の高木毅衆院議院運営委員長が、新型コロナウイルス感染防止策として、衆院議員会館内にあるスポーツジムを当面閉鎖すると4/10に発表した。
衆院議員会館内スポーツジム閉鎖 緊急事態宣言後も1日30人利用 | 共同通信
なぜこれが「緊張感に欠けている」ということになるのか。それは、2/27の安倍首相による演説を見れば分かる。「令和2年2月29日 安倍内閣総理大臣記者会見 | 令和2年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ」を見れば分かるように、会見で安倍が、
スポーツジムやビュッフェスタイルの会食で感染の拡大が見られる事例がありました。換気が悪く、密集した場所や不特定多数の人が接触するおそれが高い場所、形態での活動も当面控えていただくとともに、事業者の方々には、感染防止のための十分な措置を求めたいと思います。と言っている。安倍は総理大臣であるだけでなく自民党の総裁でもある。にもかかわらず、その後も衆院議員会館のスポーツジムは利用可能な状態で、しかも緊急事態宣言後も1日30人程が利用し、閉鎖を発表した自民の高木氏自身も、緊急事態宣言の後もそのジムを利用していたというのだから聞いて呆れる。
「緊張感に欠けている」のは与党だけでもない。立憲民主党の高井 崇志議員が、緊急事態宣言後に東京都内の性風俗店を訪れていた、と週刊誌が報じ、高井氏もそれを認めた。
コロナ緊急事態下で立憲・高井議員が「風俗店」通い 本人認める | デイリー新潮
政治家だろうが性風俗店を利用しようが、例えば従業員から搾取したり、強引に働かせているような違法な店であることを知った上で利用している場合でもない限り、問題があるとは全く思わない。しかし、外出自粛要請・休業要請の必要性が論じられている最中、間違いなく濃厚接触が行われる種のサービスをわざわざ政治家が利用することは、非難されて当然だろう。
しかも記事によれば、高井氏は、
クルーズ船で感染が増えていた2月12日以降、平日夜の11日間のうち、首相が知人や企業経営者、与党議員らと9日間会食していたことを指摘して、「民間企業は飲み会を自粛している。首相の危機感のなさが国民を不安にしている」と批判した人物であるそうだから目も当てられない。
宣言後に性風俗店、立憲・高井議員が離党届 TBS NEWS
によると、この件で高井氏は離党届を提出したようだ。しかし離党したらそれでチャラになるなんてことはなく、立憲民主党へのダメージは避けられないだろう。「この大事な時に一体何をしているんだ?」というより他に言葉が見当たらない。
昨日の投稿やこの投稿で示したように、政府与党、そして警察のような国家権力が抑圧的な傾向を強め、そしてメディアもそれに対する積極的な抵抗を示さず、更には野党も抵抗勢力として力不足というのは、あまりにも絶望的だ。戦前のドイツで強権的なナチが台頭し、メディアが適切に批判をせず、共産党や社会党なども抵抗勢力としての力を失っていった、という状況との類似点も多い。しかも、この期に及んで未だに現政権の支持率は40%程度もあるそうだ(東京新聞:「国が休業補償を」82% 内閣支持減40%、共同通信調査:政治(TOKYO Web))。
この嫌な予感が現実にならなければよい、というのが今の切実な思いだが、日に日にその嫌な予感が現実になりつつある気がしてならない。