焼け石に水とは、「火に焼けて熱い石に水を少しばかりかけても冷めないように、援助や努力の力がわずかで効果があがらない状態であることのたとえ」である(焼石に水(やけいしにみず)とは - コトバンク)。トップ画像のような、煮えたぎる溶岩にペットボトル1本分程度の水をかけても、すぐに蒸発してしまうだけで殆どなんの意味もない、のようなことだ。
ホームレス状態でお腹を空かせている人に現金を渡すことには意味がある。ホームレス状態の人というのは主に街中にいて、お金を手にすればコンビニや弁当屋、牛丼店などで即座にそれを食べ物に換えることができるからだ。もし渡す現金が10円未満だとそれは「焼け石に水」だが、何か食べ物が買える金額であれば、その現金支給には間違いなく意味がある。
しかし現金支給は必ずしも救済措置になるとは言えない。どんなに現金支給しても「焼け石に水」になってしまう場合も確実にある。例えば、山や海で遭難して何日も孤立状態になっている人、自然災害に見舞われて橋や道路などが壊れたことで孤立してしまっている集落に対して、ヘリコプターなどで上空から現金を届けても、周りにそれを食べ物や水に変えられる場所がなければ、それは全く支援にならない「焼け石に水」である。そんな場合は、現金ではなく食べ物や水そのものを届けなければ全く意味がない。
周辺に商店や飲食店などなく、今日明日の食べ物や水に困っていて、何か口にしなければ命が危ない状態で、どんなに現金を貰っても意味がない。どんなに現金を貰おうが、それを使える状態になる前に命を落とせば、無意味である。
今日本政府がやっているのは、それよりも更にレベルの低い対応だ。一体何について言っているのかというと、新型コロナウイルス対策として政府が国民に一律10万円を支給するとした特別定額給付金についてだ。
政府と与党は当初、収入が減少した世帯への30万円の給付を検討していた。4/7に閣議決定した新型コロナウイルス感染症緊急経済対策にはそれが盛り込まれていたが、どうやって収入減した/していないの線引きをするのか、その判断に手間がかかり過ぎる、対象になる人が著しく少ない「焼け石に水」な政策、などという旨の批判を受けて、収入減という条件を取り払って国民1人あたりに一律10万円を支給する方針へ転換した。
だが結局、国民1人あたりに一律10万円支給ではなく、収入減などの条件は設けないものの、申請した者という条件を設けて10万円を支給する、と言い出した。
麻生氏「手あげたら10万円」 給付は自己申告との見方 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル
結局、収入減の申告と認定という手間は省かれたものの、申告と受理という手間は残った。そして直近ではこんな話が伝えられている。
マイナンバー暗証番号間違えロック…10万円申請、混乱 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル
新型コロナウイルス対策として政府が国民に一律10万円を支給する「特別定額給付金」のオンライン申請。5月1日から順次始まり、8割ほどの自治体ですでに始まっている。ただ、申請にはパソコンのカードリーダーやスマートフォンのアプリなどを用意する必要があり、ハードルが高くなっている。
10万円給付、窓口混乱 マイナンバー手続き停止も
東京新聞:現金10万円給付 マイナンバーは余計だ:社説・コラム(TOKYO Web)
新型コロナウイルス対策の現金給付をめぐり混乱が起きている。オンライン申請にマイナンバーカードを利用したのが原因で、対策が「三密」をつくる本末転倒ぶりだ。政府には猛省を促したい。
現金十万円給付のオンライン申請をめぐっては現在、全国の各市区町村の窓口で長蛇の列ができるなど混乱が続いている。一定の距離を取っているとはいえ、人々が密集せざるを得ない状況だ。
現政府は4/7に緊急事態を宣言し、その期限だった5/6の2日前に、更にそれを延長すると発表した。
緊急事態31日まで延長、14日の専門家評価で部分解除も=安倍首相 - ロイター
この緊急事態宣言とは、3月に成立した新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正に基づいて出された。この改正案を政府が閣議決定したことを伝える東京新聞の記事にはこうある。
東京新聞:<新型コロナ>特措法案決定 私権制限 緊急宣言可能に:政治(TOKYO Web)
全国的かつ急速な蔓延で、国民生活や経済に甚大な影響を及ぼすと判断すれば、緊急事態を宣言できるつまり、現在宣言されている緊急事態とは、感染拡大によって「国民生活や経済に甚大な影響がある」と判断されたことによって宣言されている。ならば支援金の支給は最優先且つ最短ルートで行われるべきだ。実際に影響で廃業・倒産・解雇に晒された人は既に少なくないし、収入を断たれている人も含めれば、更にその数は増える。そんな状況で、アベノマスクと呼ばれる布マスク2枚も満足に配れなければ、一律という名目なのに要申請というハードルを設けて、10万円の支給もままならないのが今の日本の政府の実状だ。
これでは「焼け石に水以下」という以外の評価が見当たらない。
因みに今朝は、
英政府、「給与の8割肩代わり制度」を4か月延長|TBS NEWS
英政府は、新型コロナウイルスの影響で一時帰休させている従業員の給与の最大8割を肩代わりする制度を、10月まで継続することを明らかにした、という内容である。現在英国では、従業員の雇用維持を条件に一時帰休させている企業に、従業員の給与の最大8割、2500ポンド(約33万円)を上限に肩代わりする措置を講じている。
もう既に感染拡大から3ヶ月以上が経っているので、このような措置がとられているのは他の国でも同様で、それが世界的なスタンダードなのだが、一方で日本では、と言うと、
持続化給付金、ネット申請のみ 高齢事業者「できん」相談殺到 | 岐阜新聞Web
「パソコンもスマホも持っていない。自力ではどうにもならん」。岐阜県下呂市金山町の和菓子店「餅倖(もちこう)」の経営者大岡佳さん(78)は給付金の申請方法に憤る。こんな記事が報じられている。国民を対象にした10万円の特別定額給付金だけでなく、企業や経営者を対象にした持続化給付金でも、経済的な緊急事態であるにもかかわらず、無駄な手間をかけさせ、対応が後手後手どころか混乱すら生じさせているのが今の政府であうる。
給付金は申請から2週間程度で現金が手元に届くため、当面の資金繰り対策として期待したが、申請はオンラインのみ。家族にパソコンやスマホを持つ人はなく、早期の申請を諦めた。休業要請に伴う県の協力金50万円も支給の対象外で、国や県の支援策からは外れている。
端的に言って、
政府は緊急事態の何たるかを理解せずに緊急事態を宣言している
という大きな矛盾が生じている。そんな政府に適切で充分な対応が期待できるだろうか。昨日の投稿で取り上げたように、日本での政府対応の評価がたった5%しかなく、世界で最も低いという調査結果が出るのも当然のことだ。トップ画像は、Photo by Dimitry B on Unsplash を加工して使用した。