所謂ブラック企業と呼ばれる、サービス残業が常態化していたり、有休をとることもできないのが当然になっている環境の企業で働いた経験がある人なら分かるだろうが、その種の企業で働いていると感覚が麻痺する。「周りも皆この環境で文句を言わずに働いているのだから…」という、正常性バイアスが働き、それが当たり前、普通のことだと思い込もうとするようになる。
勿論中にはその環境に居続けることが出来る人もいるだろう。だが、そのような環境に置かれていると、意識の上では「大丈夫」と思っているのに、無意識的にはストレス・精神的な負荷がかかり、それが溜まり続けて鬱になってしまう人も少なくない。最悪な場合、そのような劣悪な環境に適応できない自分を責め、自殺に至るようなこともあるだろう。
そのような環境で働いた影響は、その企業で働くことを辞めても残る場合がある。たて続けにそのような企業に当たってしまうと、世の中の全ての企業がそんな風に見え、働くこと自体が難しくなってしまう、ということもある。更に酷いと、他人が一切信用できなくなる極度の人間不信に陥る場合もある。
ブラック企業では、違法な労働環境が全く当たり前のように存在し、周りもそれを甘んじて受けいているという状況、それを受け入れられない方が異常、社会人失格のように、おかしなことが畳み掛けてくるので感覚がおかしくなる。だからその異常性に気付くのが遅れるし、特に初めて就職した会社がそんな会社だった場合、それが当たり前だと思いこまされてしまい、周りが「おかしい」と忠告しても認められなかったりする。精神的な異常をきたして初めてそのおかしさに気付く、なんてことも少なくないだろう。
まさにこれと同じ状況が今の日本の社会にはある。ブラック企業ならぬブラック国家だ。新型コロナウイルス感染拡大への対応として、国や自治体などが自粛を「要請」し、要請に応じず営業を続ける企業を晒し上げにする一方で、国は感染防止の効果は薄いと言われている布マスク2枚を、何人世帯だろうが世帯に2枚だけ配る、という愚策を打ち出し批判に晒され、しかも配り始めるとすぐに不衛生なマスクが多数混入していることが発覚し、策を打ち出してから1ヶ月半が過ぎても満足に配れてすらいない。紆余曲折後手後手で国民1人に10万ずつ支援金を支給すると言い出した件でも、結局支給を受けるには申請が必要という余計なハードルを設け、しかも申請受付に大きな混乱が生じている。
国民には「自粛を要請」という名目で実際には自粛しないと圧力をかけるという強制を行うのに、カビたマスクも、支援金も満足に配ることが出来ない国は、残業を断り難い状況を作り上げ、だが残業代は払わない、払っても法に則した額を払わない企業と一体何が違うだろうか。
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昨日の投稿でも書いたように、5/18、これまで強行採決すると見られていた検察庁法改正案について、SNS上を中心とした多くの反対や抗議、支持率30%台への低下を受けて、政府と与党は今国会での採決見送りを決めた。しかし、あくまでも「見送り」であって、廃案ではない。つまり、単に採決を先送りしただけである。それはこの法務大臣の姿勢からもよく分かる。
検察庁法改正、現行案のまま成立めざす姿勢 森法相 [検察庁法改正案]:朝日新聞デジタル
多くの反対や抗議の声を受けても、法案を「見直す」のではなく「今は分が悪いから先送り」しただけ、というのが実状だ。これのどこが「国民の声に耳を傾ける」なのだろうか。この記事にはこうも書かれている。
政府の判断で幹部の定年を延長できる特例規定について、森氏は「内閣が恣意(しい)的に運用するのではないかという疑念を解消したい」と説明。その上で、人事院と連携しながら具体的な基準を作るとし、時期については「なるべく早く示したい」と述べた。ということは、現状では「制度が内閣によって恣意的に運用されない為の具体的な基準の用意がない」ということだ。そんな法案を、国民から強く批判されたにも関わらず、現行案のまま成立を目指す、のだとしたら現政権や法務省には馬鹿しかいない、ということになりそうだ。
また、この件に関しては官房長官が昨日の会見で、
検察官の人事制度に関わることであり、(国民や国会への)周知の必要はなかったと考えると述べた。
検察庁法解釈変更 菅官房長官「周知必要なかった」 - 毎日新聞
検察庁法改正案の土台となった検察官の定年延長を容認する、内閣の一方的な法解釈変更を、国民に知らせる必要はない、と官房長官が平然と言う、なんて、もう法治も民主主義も全く無視している、としか言いようがない。
こうやって、政府はトンデモなことばかりをどんどんやる。有権者は程度の差はあれど誰もが「またか」と感じる。中には「政治なんて誰がやってもこんなもん」なんて言いだす人までいる。これは間違いなく、ブラック企業の中にいると、その環境の異常性に鈍感になるのと同じだ。
そんな風に考えると、現政権は積極的にトンデモをやっているのではないかという気がしてくる。トンデモを1つだけやればそこへ注目が集中してしまうが、マシンガンのようにどんどん弾を打ち続ければ、1つ1つのトンデモへの注目度は相対的に下がり、中には命中する弾も出てくる、だから寧ろどんどんトンデモを撃ち続けるべきだ、とすら考えているようにさえ思える。
だとすれば、検察庁法改正案が話題になる前に、カビた布マスク配布という世紀の愚策を打ち出したのも、自粛要請に応じずに営業を続けるパチンコ店をスケープゴートにして、そこへの嫌悪感をまくしたてるようなことをしたのも、検察庁法改正案をその陰で成立させる為の目くらましだったのではないか?とも思えてくる。
簡単に言えば、私たち日本の有権者は「こいつら馬鹿だから文句言わねぇだろ?w」と思われているのだ。
検察庁法改正案の今国会での採決は見送ったが、政府と与党は、今度は国民投票法改正案の今国会での成立を目指す方針を打ち出してきた。そして既にSNS上ではこちらへの抗議行動も始まっている。
国民投票法改正案とは?反対の声がネットで拡散、問題点は? | ハフポスト
こうなると、政治にこれまで興味を持たなかった人達は「何でもかんでも反対しているだけじゃないの?」と思ってしまうかもしれない。だが、政府と与党の目論見こそがそれだ。現政権と与党に対して、そのような正常性バイアスを持つことは、ブラック企業の環境を普通だと思い込もうとするのと同じだ。
本当に「何でもかんでも反対」しているのかどうかは、指摘されている問題点の要旨を確認すれば分かる筈だ。もしそれを確認もせず「何でもかんでも反対」というのなら、この国からブラック企業やブラック部活などがなくなることはないだろう。そういう体質の国だ、ということになるだろう。