昨夏、厚生労働政務官が不祥事疑惑報道を受けて辞任したが(上野厚労政務官が辞任 在留資格で口利き疑惑報道: 日本経済新聞)、テレビ各局が軒並み、そっちのけで韓国法務大臣候補のスキャンダルに終始したことや、日韓政府の関係悪化について、日本政府に肩入れしているとしか言いようがない報道に明け暮れたことによって、個人的なテレビ報道への信頼は地に落ちた。
それまでもテレビの報道に対する違和感はあったが、それでもまだ良心も残っていると認識していた。だがそれによって不信は決定的なものとなり、自分の脳内の「信頼に欠けるものフォルダ」にテレビ報道全般を入れた。
だがそれ以降も「批判するなら一応目は通すべきだ」という考えに基づいて、チェックだけはしていたのだが、先月、コロナウイルス危機の中で、一部の市民や、国や地方行政がパチンコ店を槍玉に上げるようなことをし始めると、テレビは再びそれを煽るような報道に染まり、それがまさにユダヤ人を敵視するナチと、それに加担した当時のドイツメディアのようにしか見えなくなり、もうテレビ報道に目を通すのさえ嫌になってしまった。
辛うじて、まだ一部には良心と言える部分がテレビ報道界隈にも残っているようで、現在懸案になっている検察庁法改正案について、TBS NEWS23 はこのように伝えている。
本当は審議全体を見て、与党/政府/維新の言っていることがどんなに支離滅裂かを目の当たりにして欲しいところだが、約3時間の審議全てに目を通す余裕などないという人も少なくないだろう。付け加えると、昨日の審議は強行採決が行われるかどうかという点で非常に注目されたが、NHKは国会中継を行わなかった。そんな放送局が公共放送を名乗り、受信料を強制徴収しているなんてどうかしている。
このNEWS23の映像は、国会審議外の動きにも触れ、審議全体を見る時間的余裕のない人向けに、また要点を整理したい人向けに、非常によくまとめられている。
このムービーの最後では、 元検事総長らが、検察庁法改正に反対する意見書を提出したことにも触れている。このムービーでは触れられていないが、朝日新聞は意見書全文を紹介する記事の見出しを
【意見書全文】首相は「朕は国家」のルイ14世を彷彿 [検察庁法改正案]:朝日新聞デジタル
としている。これは意見書の中にある、安倍の「検察官にも国家公務員法の適用があると従来の解釈を変更することにした」という国会答弁に対する、
フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる「朕は国家である」との中世の亡霊のような言葉を彷彿とさせるような姿勢という指摘に注目した見出しだ。
また、フランスのルモンドが、「パンデミックの中、日本国民と縁を切った安倍 晋三」という見出しを付けた記事の冒頭で、
En pleine pandémie, Shinzo Abe, déconnecté de ses concitoyens au Japon
星野 源さんの「うちで踊ろう」に便乗した動画をツイッターへ投稿した安倍に向けて、経済ジャーナリストの荻原 博子さんが「あなたはルイ16世か」とテレビ番組内でコメントしたことに触れたことも一部で話題になっている(厳密には、ルモンドは、萩原さんのコメントを取り上げた日刊スポーツの記事を引用する形式で取り上げた)。
ルイ16世はフランス革命が勃発した当日に「今日は何もなかった」と日記に書いたとされている。その鈍感なところが、「危機対応の責任者なのに、ぼーっと家でくつろぐ動画を投稿している場合か、お前は何もしていないのか」という強い批判を浴びた安倍と似ている、という話だ。
一応確認しておくが、ルイ14世はフランス・ブルボン朝最盛期の絶対君主であり、ルイ16世はブルボン朝、というかフランスで最後の絶対君主である。
元検事総長らの発言はとても重いが、個人的には、検察庁法改正の強行採決が目前に迫る中で、今更そんなことに気が付いたのか?なぜもっと早く警告を発さなかったのか?という思いもある。
安倍が「朕は国家なり」的なのは決して昨日今日始まったことではない。自分の答弁を後から捻じ曲げるのは、少なくとも森友学園問題の
私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるという発言をしたことで、財務省内で公文書の改竄が起き、安倍が後に「関係したというのは、賄賂を渡したり受け取ったりしたという意味」と言い出したこと(森友問題:「贈収賄の文脈」首相答弁矛盾では - 毎日新聞)からも明らかだったし、桜を見る会についてもおかしな話ばかりなのに、安倍やその周辺がそれを強引に言い張る姿からも、それはもう明々白々だった。
だから自分は2/19に
「朕は国家なり」的発想
というタイトルで、桜を見る会の問題について、明確な根拠もなく要求された証拠も示さずに「総理が言っているんだから間違いない」と主張する官房長官らの姿勢を批判した。
自分に言わせると、遅くとも検事長の定年延長問題が明るみになった今年の2月にはもう、彼らの「朕は国家なり」発想は想像に容易い状況だった。
ではなぜ今日のトップ画像を、ルイ○○世や絶対王政を連想させる画像ではなく、ナチと安倍のコラージュにしたのかと言えば、最早絶対君主になぞらえるだけでは生ぬるく、現在にもっと近しくそして世界で最もイメージの悪い男の一人である、ヒトラーを彷彿とさせる状況になっている、という思いがあるからだ。
なぜそう考えるのか。安倍は5/15の参院本会議で、内閣もしくは法相の判断で検察幹部の定年を延長する特例規定を新設する検察庁法改正案について、
特例が認められる要件は事前に明確化する。内閣の恣意的な人事が行われることはないと述べた。
首相「恣意的人事は行われない」と強調 検察庁法改正案:朝日新聞デジタル
そもそもそんな特例が必要な理由を、法案を提出した法務省の責任者である法務大臣が説明出来ないのは、前述のNEWS23の映像にある通りだし、万が一特例が必要である、という話に妥当性があったとしても、その要件はキッチリ条文に明文化しておく必要がある。でなければ、実質的には、検察幹部の定年延長し放題プランを内閣に認めるということになってしまうからだ。
つまり安倍が言っているのは「恣意的人事が出来てしまう制度であるが、我々がすることはない」ということである。
そもそも、一方的に法解釈を変えて、しかも口頭決済という民主主義らしからぬ記録も残さぬ方法で、検事長の定年延長を決めた者による、そんな話は全く信用ならないが、そこは百歩譲って安倍の主張を信じて、安倍政権下では恣意的人事は行われないと仮定する。だが日本の制度では、次にどのような者が為政者になるかは分からない。法の抜け穴をつくような者が為政者になる恐れだって間違いなくある。また例えば、白人政権の人種差別政策に対抗して抵抗運動を率いたが、それで人気を得て大統領になると独裁を始めたジンバブエのムガベのように(ロバート・ムガベ - Wikipedia)、当初はそんな者ではなかったのに、権力を手に入れて変質してしまう恐れだってある。
つまり、法の恣意的な解釈や運用を「する/しない」ではなく、「できない」環境の維持が絶対必要なのだ。だから出来る限り条文は明確に、特例の条件などは特に具体的にしておく必要がある。条文に欠陥があると、ヒトラーのワイマール憲法緊急権悪用と同種のことが起きる。
安倍はこれまでにも、条文を一切変えずに、憲法の解釈を一方的に変えることで、戦後70年もの間一貫して、どの政権も認められないとしてきた集団的自衛権を、勝手に「容認されている」とした前例があり、その一方的な解釈に基づく法律も作っている。今回の検事長の定年延長についても、法改正ではなく勝手に解釈を変えるという手法を使っている。これは法を捻じ曲げるということにほかならない。
これではヒトラーのワイマール憲法緊急権の恣意的解釈を連想しないわけにはいかないし、恣意的人事は行わないなんて話にはまったく信憑性がない。
百歩譲って安倍は恣意的人事をしないとする。だが次の為政者がどんな者かは分からない。だから「する/しない」ではなく「できない」環境の維持が絶対必要。— Tulsa Birbhum (@74120_731241) May 16, 2020
でないと、ヒトラーのワイマール憲法緊急権悪用と同種のことが起きる。#検察庁法改正法案に抗議します #検察庁法改正の強行採決に反対します pic.twitter.com/EHm7sGybz4