何かに夢中な人のことを「○○バカ」と言う場合がある。この表現はポジティブにも使われるし、時には皮肉を込めてネガティブな意味でも用いられる。似た表現に「○○ジャンキー」もあるが、ジャンキー / Junkie とは何かに傾倒した人で、単に Junkie とした場合は、主にドラッグの積極的利用者、中毒者を指す。あまりポジティブなイメージのない単語だが、○○ジャンキーとした場合、傾倒の強さをポジティブに表現する場合もある。
トップ画像に用いたサッカーの日本代表選手でもある本田 圭佑選手の写真には、
彼は本当にサッカーに夢中なんだな / He's really into soccer, huh
というフレーズを添えた。この表現も状況次第ではポジティブな意味になるし、場合によってはネガティブな意味にもなる。この投稿の場合は、投稿のタイトル「ヤバい方は本田圭祐やったか」からも分かるように、ネガティブなニュアンスを込めた。つまり、本田 圭祐はサッカーのこと以外はよく分かってないんだな、という意味の揶揄である。自分が「本田 圭佑はサッカーのこと以外はよく分かってないんだな」と思った理由は、彼が昨日こんな風にツイートしたからだ。
— KeisukeHonda(本田圭佑) (@kskgroup2017) June 8, 2020
彼が引用しているのは、時事通信の、
日本の対応「米英も評価」 中国の国家安全法導入方針で―菅官房長官:時事ドットコム
という記事である。そして彼が「共同通信がフェイクニュース」と言っているのは、昨日の投稿でも触れた、
日本、中国批判声明に参加拒否 香港安全法巡り、欧米は失望も | 共同通信
という記事のことだ。
彼が引用した時事通信の記事の内容は、この共同通信の報道に関して、6/8の記者会見で菅官房長官が、
米英をはじめとする関係国はわが国の対応を評価しており、失望の声が伝えられるという事実は全くないと述べた、という内容だ。菅は、中国が5/28に香港への国家安全法導入する方針を採択したことに対して、茂木外相らが「深い憂慮」を表明したとし、
わが国は強い立場を直接、ハイレベルで中国側に直ちに伝達するとともに、国際社会にも明確に発信してきているとも述べているが、この記事には、共同通信が報じた「香港への国家安全法制の導入を巡り、中国を厳しく批判する米国や英国などの共同声明に日本政府も参加を打診されたが、拒否していた」という話を菅が明確に否定した、とする部分は全くない。それだけで共同通信の記事はフェイクだと言えるだろうか。
それは、 記者会見の一部始終を見ても、記者に「米英などから共同声明参加の打診はあったのか」とも聞かれているのに、拒否したかどうかどころか、打診があったかどうかも答えずに、「各国は我が国の対応を評価している」と言っているだけである、ということが分かる。前者はテレビ東京Youtubeチャンネルの動画で、当該質問部分(約11:00から)から再生されるように設定してある。後者は当該動画が削除された時の為のアーカイブで内容は同じだ(時事通信の記事は6/8 12:55の記事であり、記事中の「8日の会見」とは6/8午前の会見)。
つまり端的に言って、時事通信の記事の内容は、
菅官房長官が「各国は、中国の国家安全法への日本の対応を評価している」と言っている
というだけの内容であり、関係国政府が本当に日本の対応を評価しているのか、に関する関係筋への取材もなければ、共同声明への打診があったのか、あったとして日本は参加を拒否したのか、についての、つまり事実関係の検証が一切なされていない。官房長官が言い張っただけのことを根拠に、本田 圭佑さんは共同通信の記事を「フェイクニュースでヤバい」と評しているのである。言い換えれば、かなり乱暴にフェイクニュースだと認定しているのだ。
菅は同じ会見の中で、6/7に行われた沖縄県議選で、自民党が議席を3議席増やしたことを根拠に、
そうしたこと(辺野古移設)についてかなり理解が進んでいるのではないかとも述べている。自民党が議席を増やしはしたものの、選挙の結果辺野古移設反対派の議員が過半数を維持している。つまり沖縄県民は再び辺野古移設反対の民意を示したというのが実状なのだが、自分に都合のよい「自民党が議席を(たった3議席)増やした」ということを根拠に、菅は「理解が進んだ」と言っているのだ。
辺野古移設「理解進んだ」 県議選の結果受け菅官房長官 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース
本田 圭佑さんの考え方で言えば、菅が「理解が進んだ」と言えばそれがリアルであり、理解していないのは沖縄県民ということにもなりかねない。政府の顔役である官房長官の言葉は政府の見解でもあり、つまり政府見解に合理的な根拠が伴っていなくても、示されたことはリアルで、それに反する話は全てフェイクということにもなりかねない。
このような論法は、自分に都合の悪い記事や、批判的な姿勢のCNNなどをフェイクニュースと決めつけて攻撃する、米大統領・トランプの手法そのものだ。日本を代表するサッカー選手がトランプの手法を用いて、合理的な根拠もなく政府に批判的な報道を「フェイクでヤバい」と言っている、というのが本田 圭祐さんの当該ツイートの実状である。
少し前に、検察庁法改正に異論を呈したきゃりーぱみゅぱみゅさんに対して、「歌手やってて、知らないかも知れないけど」とコメントした自称・政治評論家がいた(検察庁法改正 きゃりーが《歌手は知らないは失礼》と抗議 | 女性自身)。妥当な根拠もなく、そんなことをよくも言えたものだなと思うが、合理的な根拠もなく、何かをフェイク呼ばわり、ヤバい呼ばわりする本田 圭佑さんには敢えて言いたい。
サッカー選手だから知らないかもしれないけど。ヤバい方は本田 圭佑やったか。
と。トップ画像は、ファイル:Keisuke Honda 2018 (cropped).jpg - Wikipedia を加工して使用した。