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テレビばかり見ていると馬鹿になる


 昭和生まれの人なら、「テレビを見ると馬鹿になる」という台詞を1度は聞いたことがあるだろう。○○という番組(大抵アニメかバラエティー番組)は教育上よろしくない、ということを言う時にしばしば用いられた文句である。正確には「テレビばかり見ていると馬鹿になる」だったかもしれない。自分はそう祖父母に言われた記憶がある。そしてテレビは1日〇時間までなんて言われて育った。

 当時は「漫画を読むと馬鹿になる」「ゲームをすると馬鹿になる」など、他にも似たような話があった。全ての大人ではないにせよ、どれも大人にとって都合の悪いもの、彼らにとっていけ好かないものを否定する際に用いられた台詞だ。そんな話がまことしやかに語られていた当時小学生だった自分は、「この大人は何言ってるんだろう…」と思いながら聞いていた。
 それから数十年の時が経ち、当時子どもだった自分達に「テレビばかり見ていると馬鹿になる」と言っていた世代の人達の多くが、一日中テレビの前で過ごしている。以前に、子ども頃に母親から「油のついた皿を重ねるな!」と叱られ、それ以来その教えを守ってきたが、久しぶりに実家に帰ると母親が平然と油のついた皿を重ねていて、「以前重ねるなと叱られた」と言ったら、母親は覚えていなかった、という話を書いたが(2019年3/12の投稿)、自分の周りで現在最もテレビの前で時間を過ごしているのは父親である。父親は当時からプロ野球の中継を毎日見ていたので、そんなに「テレビばかり見ていると馬鹿になる」のようなことを言うタイプではなかったが、自分達兄弟がバラエティー番組を見ることをあまり快くは思っていなかっただろう。


 「テレビを見ると馬鹿になる」という話を、当時は全くいい加減で乱暴な話だと思っていたが、それが昨今説得力を持ち始めている。バラエティー番組やアニメは、以前に比べて乱暴だったりエロだったりが抑えられていて、勿論その自主規制の負の側面もあるのだが、1980-90年代の何でもアリだった頃に比べれば全然まともになっているように思う。だが、報道はこの10年で大きく質が下がっており、昨夏テレビ局が嫌韓一色になったこと、そしてこの4月にコロナ危機下でパチンコ店や夜職をスケープゴートにする一翼を担った事、そしてまともな政権批判をしなくなったことなどを考えると、

 テレビ報道だけを情報ソースにしていたら馬鹿になる

は決して過言ではないのではないか?と感じる。
 因みに父親は一日の大半をテレビの前で過ごしておりネットも使わず、情報ソースはほぼテレビと新聞だけが、 3/27の投稿で書いたように、プロ野球チケット目当てで一時購読した読売新聞を「嘘ばっかりの現政権を批判しない新聞なんて信用できない」と評しており、必ずしも「テレビを見ると馬鹿になる」が誰にでも当て嵌まるとは言えなそうだ。


 6/6のテレビ朝日「池上彰のニュースそうだったのか!!」は、中国が香港の一国二制度を事実上否定する香港国家安全法を成立させたことを受けて、香港情勢、そして米国の黒人差別の問題を取り上げていた。その中にこんな部分があった。


 この動画は当該放送回の一部で、およそ1:40あたりまでは、司会の池上 彰さんが英国やカナダなどの対応を解説している。そしてそこから雛壇に座っていた北村 晴男弁護士とこんなやり取りをする。

北村:
アメリカやイギリス、カナダなどは、自由を求める香港の人達を助けようとしているように見える。日本は何もしないように見える。日本の国会も何の決議もしないし、一体日本人は、これだけ自由を享受していながら、自由を求める香港の人達を何故助けようとしないのか。理解が出来ない。

池上:
もうそれは明らかに中国に対する忖度というのがある。習近平国家主席を国賓として招こうとしていたが、今頓挫はしているが、やはり中国に対する遠慮というのが露骨に見える。

北村:
せめて野党の国会議員は何かしたらいいんじゃないですかと思うんですけどね

池上:
そう思いますけどね

北村:
何をしているんですかね

 このやり取りを聞いて、自分の中の「テレビ報道だけを情報ソースにしていたら馬鹿になる」という思いは更に高まった。何故なら、5/28に日本共産党の志位 和夫委員長が定例記者会見でこう言っていた、のを知っていたからだ。



「せめて野党はなんかやれ」と言った北村弁護士も、「そう思う」と言う池上氏も、時事問題を扱う番組をリードする資質に欠けていると言ってもよいのではないか。何故なら、それらの発言によって、あたかも「野党も(若しくは野党は)(文句を言うばかりで)何もしない」かのような印象を演出しているからだ。これはレッテル貼りと言っても過言ではないだろう。当該映像の左上を見れば分かるように、6/6の放送は生放送だったようで、5/28以前に収録されたものではない。
 生放送ということは、事前に用意された台本上の発言でない可能性もあり、テレビ朝日がこの放送内容をどう考えているのかは、収録し編集した上で流した場合と違って断定することは難しいが、個人的には、「テレビ朝日はフェイクニュースを平然と流した」「政府与党プロパガンダ番組の放送を行った」と言っても過言ではないと考えている。


 この放送の翌日・6/7には、共同通信がこのように報じた。

日本、中国批判声明に参加拒否 香港安全法巡り、欧米は失望も | 共同通信


共同通信は、
香港への国家安全法制の導入を巡り、中国を厳しく批判する米国や英国などの共同声明に日本政府も参加を打診されたが、拒否していた
と報じている。「この報道は誤報」という言説もSNS上に見られるが、自民党の片山 さつき氏が記事を引用して次のようにツイートしている。


「突然言われても、というだけの話」ということは、共同声明への参加を拒否したということには違いない。
 また、独仏が参加していないというのが事実だとしても、それが日本が参加を拒んだことが妥当だと言える理由にはならない。独仏が、妥当な内容の声明への参加を打診されたが拒否したのだとしたら、日本も独仏も同様に残念な対応をしたことに違いない。参加拒否が妥当だと言うのなら、提案された声明のどんな内容に不備があったのか、 どんな懸念があったのかを説明するべきだ。それをせずに、というか出来ずにこんなツイートをされても全く説得力に欠ける。


 このような一連の流れを考えれば、まともな対応が出来ていないのは間違いなく与党・自民・公明党と政府であって、「野党も」という雑な括りでそれを相対的に和らげようとする発言は全く看過できない。少なくとも日本共産党は、中国が国家安全法を成立させたことに対して否定的な意思表示をしている。何もしていないかのような言い草はレッテル貼りでしかない。北村弁護士と池上氏はそれを公共の電波を使ってやったし、テレビ朝日はそれを放送した責任がある。
 当該番組のサイトを、この投稿を書いている時点で確認しても、その点へ訂正はおろか、一切言及は何もない。これでは池上氏、そして当該番組、更にはテレビ朝日の信頼性も地に堕ちる。というかかなり前からそれらの信頼性は既に地に堕ちているし、それはテレビ朝日に限らず、NHKを含めて全てのテレビ局にも言える。多様性の時代だと言うが、なぜこうもテレビ報道には多様性が欠けているのか。なぜこうも、どの局も右へ倣えで同じことばかり放送するのか。


トップ画像は、Photo by Moritz Mentges on Unsplash を加工して使用した。

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