トップ画像に用いたのは、1945年9月、つまり終戦直後にマーシャル諸島で撮影された日本軍の兵士たちの写真だ([Photo] Emaciated Japanese naval personnel at Marshall Islands after Japan's surrender, probably Wotje or Maloelap, 15 Sep 1945 | World War II Database)。骨と皮という言葉がすぐに思いつくほどにガリガリにやせ細っている。
投入された日本軍兵士9万のほとんどが死亡したとされるインパール作戦は、天下の愚策として有名である。兵站を軽んじた無謀な作戦が行われた為に、日本兵の間に感染症と飢餓が蔓延した(インパール作戦 - Wikipedia)。インパール作戦当時、第5飛行師団の報道班員としてビルマに滞在し、戦後映画監督/作家となった高木 俊朗さんは「インパール」など5作品でその悲惨さを描いている。
しかし旧日本政府/日本軍の無謀な作戦は慢性的で、インパール作戦だけが特異だったわけではない。それはトップ画像の終戦直後の日本兵の写真も物語っている。日中戦争から太平洋戦争の間に戦死した日本兵らのおよそ6割が餓死、もしくは栄養失調を背景にした感染症での病死だったとする説もある。つまり、太平洋戦争を始めたこと自体が、というか太平洋戦争を始める前提となった大陸進出と日中戦争も含め、旧日本政府/日本軍が戦争を始めたこと自体が無謀だったということだろう。
数値の信憑性に関しては諸説あるが、流石に全く荒唐無稽なデタラメとは言えないだろう。当時の日本政府や日本軍が都合の悪い記録を隠し、終戦直前には焼き捨てたという話はとても有名なのだから。
つい先日まで首相だった安倍が、辞任した途端に靖国神社を参拝し、「本日、靖国神社を参拝し、今月16日に内閣総理大臣を退任したことをご英霊にご報告いたしました」とツイッターへ投稿した。
安倍前首相が靖国参拝、「退任を報告」とツイッターに投稿 | ロイター
安倍が靖国神社を参拝するのは2013年12月以来だ。当時は中国や韓国からの反発を招いただけでなく、米国も「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」との声明を発表した。つまり、中韓や米国に配慮して参拝を見合わせていた、ということなのだろうが、辞任後すぐに参拝するとは無配慮としか言いようがない。近隣諸国に配慮して参拝するべきでないと指摘されているのではなく、靖国神社のその性質上参拝すべきでないと指摘されていることを、そもそも理解出来ていないとしか言えない。
「英霊に辞任を報告する前に、現国民に報告しないといけないことが山積みだろ?」という旨のツイートを見て、本当にその通りだと思った。また、英霊と戦死者を美化するのも如何にも安倍らしい。前述のように、靖国神社に祀られている戦死者の大半は、旧日本政府/日本軍の無謀な作戦や戦争の結果、餓死・病死した者であり、言い換えれば、戦死者とはいうものの、実際に彼らを死に追いやったのは旧日本政府/日本軍である。それを「国の為に戦い犠牲になった」という意味の英霊と表現するのは如何なものか。「そもそも英霊じゃなくて、旧日本政府・軍に殺された被害者だ!」「死人に口なし なのをいいことに政治的なイメージづくりに勝手に利用すんな!」と、戦死者たちは思っているのではないだろうか。そもそも戦争における”尊い”犠牲などあり得ない。そうやって犠牲を美化した結果が70年前の無謀な作戦と戦争である。
自民総裁選にも立候補していた岸田氏が、安倍の靖国参拝についてこんなことを言っている。
安倍氏の靖国参拝に岸田氏 「外交問題化すべきでない」:朝日新聞デジタル
国のために尊い命を捧げられた方々に尊崇の念を示すのは、政治家にとって誠に大事なことだ。尊崇の念をどういった形で示すかというのは、まさに心の問題だから、それぞれが自分の立場、考え方に基づいて様々な形で示している。これは心の問題だから、少なくとも外交問題化するべき話ではないと思っている。政府においても外務省においても、国際社会に対して心の問題であるということ、国際問題化させるものではないということを丁寧にしっかりと説明をする努力は大事なのではないか。
そもそも「国のために尊い命を捧げられた方々」ではなく、国が無理矢理戦争に駆り出して餓死/病死に至らしめた人達とする方が妥当である。そして「尊崇の念を示すのは、政治家にとって誠に大事なこと」と言っているが、犠牲にした側の政府関係者(岸田氏は現自民政権の元閣僚)が、犠牲にしたことを謝罪するならまだ分かるが、尊び崇めるとは、犠牲になることは素晴らしいとでも言いたいのだろうか。
また「これは心の問題だから、少なくとも外交問題化するべき話ではない」と言っているが、近隣諸国は、一般戦死者だけでなく、無謀な戦争を始めた当時の政府関係者や軍首脳などの戦争犯罪人も神として祀られている神社へ、日本政府の関係者が参拝することに疑問を呈し嫌悪している。つまり、心の問題だからこそ外交問題化しているのであり、外交問題にしているのは近隣諸国側ではなく日本側である。
こんな珍説を開陳してしまう男が、総裁選で次点につけたのだ。この岸田氏の見解は、概ね前政権と現政権、そして与党自民党の考えそのものと言っても過言ではないだろう。このような政府/与党が何年も続く日本という国が、諸外国からどのように認識されるのか、は最早説明する必要すらないだろう。
日本人は人の評価や他人の目を特に気にする気質である、ということについては9/17の投稿でも書いた。しかし一方で、日本人はひどくズボラで「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という、恥知らずな気質も持ち合わせているので性質が悪い。