1980年代、バブルへ向かう日本の最盛期の幼い自分は、漠然とではあるが、未来は明るいと信じて疑わなかった。1989年にはベルリンの壁が取り払われ、1991年にはソビエト連邦が崩壊、景気の面だけでなく長く続いた世界的な対立構造・冷戦も終わり、小学生ながらにその先には理想的な社会の実現があるような気がしていた。
しかし1991年はバブル崩壊の始まりでもある。また、前年・1990年にイラクがクウェートへ侵攻したことによって、湾岸戦争が起きた年でもある。但し、バブル景気の崩壊が始まったのは1991年とされているが、いきなり急激に景気全体が悪くなったわけではなく、Wikipedia ではバブル崩壊は1991年3月から1993年10月に起きたと定義している。また、湾岸戦争も僅か2カ月で停戦した。つまり、1991年当時自分はまだ明るい未来を見ていた。
だが、1993年になると就職氷河期という言葉があちらこちらで聞こえ、1995年には阪神淡路大震災とオウム真理教によるテロ・地下鉄サリン事件が発生し、同年8月に兵庫銀行が銀行として戦後初めて経営破綻した。アジア通貨危機とも重なった1997年から1998年にかけては、北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行、山一證券、三洋証券などの大手金融機関も、不良債権の増加や株価低迷の影響で倒産した。まだ自分は社会には出てはいなかったが、国の行く末に不安を抱き始めたのはその頃からだ。
しかし現代史の授業では、戦後日本の景気は拡大と後退を繰り返して成長してきた、とされていたので、そんな暗い時代が長く続くことはなく、いずれまた明るい時代がくるのではないか、という根拠のない思いもあった。
確かに2000年代は、素晴らしくもないがどん底という感じでもない10年間だったかもしれない。いや、自分は直接的で深刻な影響を受けなかったものの、2008年にはリーマンショックが起き所謂 派遣切り-Wikipedia が社会問題化する程深刻な状況に陥っていたので、10年間は過大評価かもしれない。しかしそれも、今考えると決してどん底ではなかった。
リーマンショックから日本が少しずつ立ち直りつつあった2011年、東日本大震災とそれに伴う福島原発事故が発生した。大地震に関しては、自分が子どもだった1980年当時から「関東大震災から既に50年以上経っているのだから、いつ大地震が起きてもおかしくない」などと言われていたが、自分はチェルノブイリ原発事故をリアルタイムで目の当たりした世代だが、1986年のチェルノブイリ原発事故当時、誰が日本で原発事故が起きると思っただろうか。そして原発事故を起こしても尚、まだ原発を動かそうすると思っただろうか。
政治に関しても、バブル前後はリクルート事件や佐川急便事件など金権政治に批判が集まり、自民党による55年体制が崩壊、政治不信が高まっていた。その後の政治も、自民党と社会党が連立政権を組むなど、結局権力争いばかりが繰り返されたが、1990年代、低レベルではあるが政治も最早それ以上悪くなることはないだろうと思っていた。
だが、更なる低レベル化は起きた。2012年末に民主党政権から安倍自民党政権政権へと政権交代が起きたのだが、安倍自民党政権はまさに戦後最悪の低レベル政権だった。そして、今もその最悪の政権を踏襲すると公言する菅自民党政権が続いている。安倍や菅、そしてその周辺の酷さについては、詳しくは書かないが、これまでは酷いと言われた政権でもあり得なかった公文書改竄や捏造・隠蔽が平然と行われ、またその責任を誰も取らず、都合の悪いことには答えず、憲法や法の解釈を勝手に変える・捻じ曲げるという行為が常態化してしまっている。
コロナ危機への対応もその典型的例の一つであり、その酷さは11/14の投稿でも指摘した通りである。日本医師会の中川俊男会長は11/18の記者会見で、新型コロナウイルス感染者数の急増を受け、感染拡大地域との往来を自粛するよう国民に要請したそうだ。
コロナ感染拡大、きっかけは「GoToトラベル」 日本医師会会長が言及 - 毎日新聞
患者が急増すれば医療リーソスが不足して医療崩壊が起きる、と3月頃から言われ続けており、現在は8月のピークを超える勢いで再び感染者が増えている状況にある。つまり医療関係者は戦々恐々としている、だから必死に移動の自粛を訴えているのだろう。
その一方で官房長官の加藤は同じく11/18の会見で、
加藤長官「移動自粛、必要ない」 医師会長呼びかけに [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル
現時点の感染状況を踏まえ、県をまたいだ移動について一律に自粛を要請する必要があるとは考えていない
と述べている。医療関係者が医療崩壊を懸念して移動の自粛を呼びかける一方で、官房長官が「その必要はない」と否定する。しかも、その必要はないとする明確な根拠も示さずに。
更に言えば、コロナ危機対策担当の大臣である西村も、
今後の感染者数は「神のみぞ知る…」 西村担当相が発言 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル
感染がどうなるかっていうのは、本当に神のみぞ知る…これはいつも、(政府の分科会会長の)尾身(茂)先生も言われています
と言っているそうで、この西村という男も、そして尾身何某とかいう政府が登用し続けている自称専門家の爺さんも、無責任極まりない。
1990年代頃、日本で原発事故が起きるなんて思っていた者は誰一人としていなかったと言っても過言ではないだろうし、2010年以前、日本の政治の質がこんなにも落ちると思っていた者もそう多くはないだろう。つまり、そこが既にどん底だと思っていても更なる深みはある、ということであり、今の状況もこれ以上悪くなりようがない程に悪く思えるかもしれないが、更に悪くなる恐れは間違いなくあるということだ。
このまま現状を容認していると、明るい未来が来ないどころか、更なる深みにはまる恐れがある。例えば現在の香港は日本の現状よりも悪く、日本がそうならない保証はどこにもない。また戦前の日本やドイツのような状況が再び蘇らないという保証もどこにもない。
トップ画像は、Kohji AsakawaによるPixabayからの画像 を加工して使用した。