この先自動車は間違いなく電気・EVへシフトしていく。それはもう間違いない。その流れを止めることはできない。所謂EVではなく水素を使う燃料電池車の逆転はあるかもしれないが、ガソリンや軽油などの化石燃料を使用するタイプにもう未来はないことだけは明白だ。人力・馬などから機関車や蒸気船など蒸気機関へ、そして内燃機関へと移動手段の動力源が変遷したのと同様に、今後は電気モーターがその主流になる。
現在複数の国がガソリン/ディーゼル車の販売を将来的に禁止する意向を示している。モータースポーツが好きな自分としては、販売禁止ではなく新規登録凍結とし、内燃機関車の競技利用の道だけは残して欲しいと思っている。モータースポーツは主に自動車メーカーの実験室としての役割を担っており、商品開発に全く結びつかなくなれば、内燃機関車の競技は間違いなく縮小するだろうし、欧米を中心に企業とは関係なくモータースポーツを行うプライベーターも多数存在しており、自動車文化維持の為にも競技用としての販売は必要だと考える。
競技用車両も温室効果ガスを排出するが、移動手段としての自動車が排出する量とは比べものにならないくらいの分量だ。今、世界的に嫌煙へ向かっており、タバコには害があることは誰もが知っているが、だからと言ってタバコを全面的に禁止しようとはならないのと同じような考え方だ。
他国の方針に追随するかのように、12/3、日本政府は「2030年代半ばにガソリン車の販売を事実上禁止する」目標を打ち出した。
政府、2030年代半ばにガソリン車新車販売禁止へ 欧米中の動きに対抗 - 毎日新聞
現在の自民党政権は、2012年の政権交代後すぐに「デフレ解消の為2年で物価上昇率2%達成」という目標を掲げ、その為に大量の予算を割いた。しかし達成できずに期限を延期に次ぐ延期を繰り返し、今はもうその公約を有耶無耶にしてしまっている。また女性活躍というスローガンを声高に示していたが、2003年に小泉自民党政権下で掲げられた、2020年までに指導的地位に占める女性割合を3割程度にするという目標も達成することが出来ず、2030年までの可能な限り早い時期という、あまりにも曖昧な期限に期限を延期した。
これまでに複数の目標達成期限延長を繰り返してきた政権の掲げる「2030年代半ばにガソリン車の販売を事実上禁止する」目標に一体どんな意味があるだろうか。自分には「言うだけはタダ。ダメになりそうなら延期すればいい」程度の美辞麗句にしか思えない。そもそも、桜を見る会の問題、検事長定年延長問題、学術会議任命拒否問題など、従前の政府見解を簡単に歪曲したり覆したりするのは、今の自民党政権の特徴であり、どんな話にも全く信憑性が感じられない。
この政府が示した見解について、NHKがこんな記事を載せている。
2030年代半ば 国内の新車販売からガソリン車をなくすって可能なの? | NHK
記事は、一応他国/他地域と日本の方針の差に言及しており、日本と他地域ではハイブリッド車の扱いが大きく異なるとは言っているものの、政府や大企業へ配慮しているのか表現が生温い。各国の方針についてより詳しくまとめている「各国のガソリン車禁止・ディーゼル車販売禁止の状況 EVsmartブログ」を見れば分かるように、ガソリン/ディーゼル車の規制を打ち出している国や地域の殆どが、充電可能なPHV・プラグインハイブリッド車も含め、内燃機関を搭載したほぼ全ての車種の禁止方針を示しているのに、日本はプラグインハイブリッドどころか、充電できないタイプのハイブリッド車も認めるという方針である。
確かに、2030年頃までにガソリン/ディーゼル車販売を禁止するという目標を達するのは容易ではなく、達成できない目標を掲げたところで何の意味もない。だが前述のように、そもそも日本の現政権のどんな話にも信憑性はないし、また、2030年代半ばという曖昧な期限設定、ハイブリッド車は容認しその後どのように扱うのかも不透明では、目標自体が美辞麗句に過ぎないと言われても仕方ない。
日本政府がハイブリッド車を容認する目標を掲げた背景には、間違いなくトヨタ(とトヨタと提携している日本の自動車メーカー)への配慮がある。トヨタはハイブリッド技術において間違いなく世界で最も優れているが、同時にEVでは大きく出遅れている。トヨタとライバル関係にある日産とその傘下の三菱は、世界初の量産EV(三菱 i-MIEV)と、現在世界一の出荷台数を誇るEV(日産 リーフ)を有している。またホンダも、最近コンパクトEVのHonda eを発売し話題になっているが、日本では燃料電池仕様とPHV版しかラインナップされなかったものの、国外ではそれ以前からクラリティのEV版をラインナップしてきた。一方トヨタは、初のEV・レクサスUX300eの受注を先日開始したが、日本国内での初年度販売はたったなんと135台であり、ここに上げた日本メーカーのみならず海外メーカーも含めて、他社に遅れたイメージを少しでも緩和する為に、EV市販を形式上行ったと言わざるをえない。ハイブリッドと燃料電池車に傾倒してきたトヨタのEV分野での遅れは明らかである(“ハイブリッドのトヨタ”初の量産EV 「レクサスUX300e」が少数限定販売となった理由 - webCG)。
日本政府がトヨタに配慮した、と言えるのは単なる憶測ではなく、日経もこんな記事を掲載している。
車大手「HVは残して」と要請 新車30年代、電動車に 日本経済新聞
ヨーロッパではPSA:プジョー/シトロエングループと提携し、共同開発車ではEV量産車を発表しているので、トヨタは決してEV分野で遅れをとっているわけではなく、商品としての完成度や充電インフラが充実してから独自モデルの販売を本格化させようとしている可能性もある。だが、水素ステーションの数が余りにも少ない時期から燃料電池車のミライの販売を始めたことを勘案すると、そんな仮説に妥当性は感じられない。もしその仮説が妥当なのだとしても、トヨタはハイブリッド技術を出来る限り利益に変えたいという思いから、ガソリン/ディーゼル車禁止からハイブリッド車を除外するように政府に働きかけたのではないだろうか。そしてそのロビー活動の結果、政府はそれを受け入れたのだろう。
この状況を見て、ハイブリッド車が発電における原発や石炭火力のようなものになる恐れを感じる。それ以前からの世界的潮流ではあったが、2011年の東日本大震災で福島原発が事故を起こしたことによって世界的に原発離れが起きた。しかし日本はと言えば、一瞬原発廃止の方向にも向いたが、2012年に自民党政権が成立すると再稼働、新設なんて話も出始めた。事故を起こした当事国であるにも関わらずこんなことになっている背景には、間違いなく原発に絡んだ利権がある。だが、日本を代表する原発関連企業の東芝や日立が、原発事故後も自民党政権と共に海外に売り込みをかけたがことごとく失敗した。また日本は、温暖化に悪影響を及ぼす石炭火力発電にもしがみついており、そちらでも他地域から懸念を示されている状況にある。今後もトヨタがハイブリッド車にしがみつけば、原発にしがみついた東芝や日立や、石炭火力発電にしがみつく日本同様の立場にもなりかねない。
トヨタは、信頼性が高いとされる日本の自動車メーカーの中でも群を抜いて高い信頼性などを武器に、現在は世界のトップを常に争う自動車ブランドだ。しかしこのまま、世界的に見て将来性のない内燃機関を用いるハイブリッド車にしがみつけば、ブランドイメージを下げることにもなりかねない。また、他地域ではハイブリッド車の販売を止めるのに日本でだけは続けるというのであれば、それはある意味で日本市場で不良在庫の処分をするようなものでもある。また、他地域が厳格に内燃機関の廃止方針を掲げる中で、日本だけがハイブリッド車を容認するようならば、「日本は企業の利益優先で温暖化対策に本気でない」と認識されるだろう。
この件について、環境大臣の小泉が「『半ば』という表現は国際社会のコミュニケーションでは通用するものではない」という見解を示したそうだ。
「半ば」国際社会で通用しない ガソリン車規制に小泉氏:朝日新聞デジタル
一見まともなことを言っているようだが果たしてそうか。ではなぜ政府は環境大臣の声に耳を傾けず「2030年半ば」という曖昧な期限を示したのか。つまり閣内で小泉は積極的批判をしなかったということではないのか。
また、そもそも憲法や法律の解釈を国会での承認も得ずに一方的に、しかも強引な論拠で歪曲するような、法治を軽んじる政府自体が国際社会では通用しない。小泉はその政権の一人である。また、小泉が国際的に通用しない人物であることは、昨年国連の関連会合の場での石炭火力に関する発言などによって、中身のない人物であることを露呈してしまったことからも明白で(2019年9/24の投稿)、そのような男が何を偉そうに言っているのか、という感しかない。かなり生易しい目で見れば、その時に自分が国際的に通用しなかった経験からの発言ともとれるが、それでも、閣内で積極性を見せなかったことには違いなく、結局今の政府も小泉も国際的に通用するレベルではないとしか言えない。
トップ画像は、Photo by Patrik Máčik on Unsplash を加工して使用した。