国連総会に合わせて開催される、温暖化対策サミットに出席する為にニューヨークを訪れている、千葉を始めとした関東各地が台風被害に苦しむ中、災害対応そっちのけで組閣された新内閣の環境大臣・小泉 進次郎氏。イギリスの国際的な通信社・ロイターが、
Make climate fight 'sexy,' says Japan's new environment ministerという見出しで彼に関する記事を掲載し、国際的にもだが、特に日本で波紋が広がっている。この見出しは日本語にすると、「「気候変動対策を”セクシーに”する」、日本の新しい環境大臣」だ。厳密には、彼は
In politics there are so many issues, sometimes boring. On tackling such a big-scale issue like climate change, it’s got to be fun, it’s got to be cool. It’s got to be sexy too,
政治には非常に多くの問題があり、時には退屈です。 気候変動のような大規模な問題に取り組む際は、それは楽しくなければならず、クールでなければなりません。 さらに”セクシー”でなければなりませんと発言した。
Sexyとは、Weblio英和辞書によれば「性的魅力のある、セクシーな、性的な、挑発的」という意味で、一般的には概ねそんなニュアンスを連想させる単語だ。小泉氏の当該発言の趣旨は、気候変動/環境問題に関する注意喚起の為にはイメージアップが欠かせない、のような意味合いだろうから、概ね問題があるとは言えない。しかし、気候変動問題に性的な魅力は必要だろうか。
「Sexyという表現には、めっちゃイケてるみたいな意味もある」と、テレビ番組のコメンテーターなども務める国際学者の三浦 瑠璃さんがツイートしている。
進次郎氏の発言が物議を醸してますが、日本の人々の誤解ですね。英語でsexyというのは、めっちゃイケてるみたいな意味でも使います。たとえばイケてる家具、イケてる車、みたいに。— 三浦瑠麗 Lully MIURA (@lullymiura) September 23, 2019
私の場合は世論調査の結果に意味合いがでまくったときに使います。何このグラフ、まじセクシー、みたいな。 https://t.co/2qeq2KAxqu
確かに、Sexyという表現は三浦さんが説明しているようなニュアンスでもしばしば用いられる。しかし小泉氏が発言したのは、国連の環境関連のイベントでだ。Sexyという表現が場に合うものだったかは大いに疑問だ。彼は国際的な関心が集まる場で発言をしている。日本人を始めとして英語が母国語ではない人達からも注目される可能性が多分にある。英語が母国語でない人達にしてみれば、やはりSexyと聞いて連想するのは「性的な魅力のある」というニュアンスだろうし、英語が母国語の人だって少なからずそのニュアンスも頭にちらつくだろう。
Sexyという表現を用いると概ねどのように受け止められるか、を考える為に、まずはGoogleで画像検索してみた。
確かに性的な魅力に限定しない「めちゃイケてる」的なニュアンスでヒットしたと思われる画像も含まれてはいるものの、それでも「性的にめちゃイケてる」画像が相応に含まれる結果だった。
自分が良く使う画像素材提供サイト・Pixabayでも検索してみた。
こちらはGoogleよりも明らかに性的な魅力に溢れた画像が多く、というか、性的でない格好よさを表現をした画像はほぼ見当たらない。つまり、Sexyと表現する場合、少なからず性的な魅力を感じさせるカッコいいが前提になる。古い日本語的感覚で言えば、二枚目的な格好よさにはSexyを用いるが、三枚目的な格好よさにはあまりSexyを用いない。
更に言えば、小泉氏は直前に「Cool」、Sexy同様に「イケてる」をさす表現だが、性的ニュアンスを殆ど含まない表現を用いているのだから、わざわざSexyと付け加えたということは…という風に、彼が用いたSexyには性的なニュアンスが含まれていると受け止められたとしても、それ程不自然とは言えない。
また、冒頭で紹介したロイターの記事は、日本が9/23開催の気候行動サミットで発言しなかったことや、火力発電を増やしていることも指摘し、日本政府の地球温暖化問題への姿勢に対する懐疑的な見解を示してもいる。三浦さんは前述のツイートに続けてこのようなツイートもしている。彼女は最近政治家らがしばしば用いる「あくまで一般論として」というニュアンスでこうツイートしたのだろうが、もし万が一、小泉氏のセクシーという表現だけが問題視されていると認識しているなら、誤解しているのは、彼女の言う「日本の人々」ではなく寧ろ彼女の方だろう。
小泉氏はセクシー発言の場で海外の記者とこんなやりとりをしている。
外国人『どうやって二酸化炭素や火力発電を減らしますか?』— 鳳凰院凶真 (@QJCPCli6XrM3sw6) September 23, 2019
小泉さん『・・・・』
関西のニュース番組はこのシーン放送されましたが、東京のニュース番組は取り上げない。
セクシーが話題にとか東京はズレてるよ。
こっちが資質に関わり問題でしょ。#小泉進次郎 pic.twitter.com/usS0kov89M
記者:石炭は温暖化の大きな原因。日本の環境省は石炭火力発電を今後どうする?
小泉:火力発電を減らす
記者:どうやって?
小泉:………
小泉:私は先週大臣になったばかりなので、同僚や環境省のスタッフと話あっている
小泉:日本政府としては火力発電を減らす方針
フィゲーレス:付け加えてもいいかしら?
フィゲーレス:分かって欲しいのは、これは日本だけの問題ではない
フィゲーレス:今朝話あったのは、お互いどう助け合えるか
フィゲーレス:彼は大臣になってまだ10日、何をすればいいのか分からないのも仕方ない
小泉氏が「具体策」を問われているのに、質問を全く無視した回答をするという場面は、大臣就任直後にも見られた(9/18の投稿)。日本のメディアでは、彼が質問を無視した応答をしたという指摘は殆どなされなかったが、SNS上では大きな話題になった為、記事を書いたロイターの記者はそのことを十中八九知っていたはずだ。更に国際的な会見の場でも同様の返答がなされているのだから、小泉氏はしばしば質問を無視した回答をしている、ということは当該記事の前提になっていると考えられる。
火力発電をどうやって減らすか問われ、「先週大臣になったばかりでスタッフと話あっている」と彼は答えているが、それは決して「どうやって」、つまり具体策に関する話ではない。誠実に答える気があるのなら、口をパクパクして考えている振りなどせずに、「具体策はまだない」と率直に言えば良かったのではないか。フィゲーレス氏は、国連気候変動枠組条約事務局の前事務局長である。彼女は小泉氏の横に座り、彼を擁護する姿勢を見せているが、彼女の「日本だけの問題ではない」という話は間違いではないが、記者は日本の対応を質問しているのであって、決して日本だけの問題とは言っていないように感じられる為、彼女は論点をずらそうとしているように見える。また、「大臣になって日が浅いから彼が具体策を持たないのも仕方ない」も、そもそも何故そんな畑違いの人物が大臣になったのか?という話だ。
もし小泉氏が記者からの質問に誠実に答えるような人物だったなら、もし小泉氏が環境問題/気候変動問題への対応を、例え門外漢であっても、真摯に勉強して準備してきたと言える対応が出来ていたら、もし小泉氏が、しばしば遠くを見ながら何を言っているのかよく分からないコメントをするようなタイプの人物でなければ、彼が使ったSexyという表現も大きく取り沙汰されることはなかったのではないか?と推測する。
政治家・大臣としての本分は全く不充分であるのに、「Sexy/めちゃイケてる」の様なヘラヘラしているとも思われかねない発言をすれば、槍玉に上がるのも当然だろう。寧ろ三浦さんが示した「批判の多くが誤解に基づいている」かのような見解こそ不自然ではないだろうか。すべきことを最低限していた上で冗談を交えるなら笑えるが、そうではないどころか…ということだろう。
テレビ朝日の夕方のニュース番組・スーパーJチャンネルの、この件の取り上げ方は最早異様である(「sexyに」気候変動問題を…進次郎大臣の真意は?)。
まず「小泉氏の発信力は国際舞台でも通用するのか」という切り口でVTRが始まる。そして通訳を介さずに英語で自ら対話できることの重要性を主張する小泉氏が映し出される。そして物議を醸した「セクシー」発言の真意は?とし、フィゲーレス氏の持論を引用したものであると紹介した。更に「アメリカの政界では用いられる表現」とも紹介し、テレビ番組のコメンテーターなども務める早稲田大学・中林 美恵子教授の、
ちょい悪っぽさを出す感じ。とてもお堅い場所でお堅いことをやっていると、やはり魅力的ではないというのが通常だが、「セクシー」要素を入れることによって「魅力満載にする」というか、そんな感じの言葉でいいと思うという、なんともフワッとしたコメントで締めくくっている。
具体策もなくフワフワしたイメージだけを振りまく。中身がなくイメージだけを先行させる手法はまさに、自民党が参院選を前に始めたキャンペーン・#自民党2019 と同じだ(5/3の投稿 / 6/22の投稿)。政治学の教授が「そんな感じの言葉でいいと思う」と言っていることや、そんなコメントをほぼ肯定的に報じているメディアはどうかしているとしか思えない。
一応補足しておくと、同じテレビ朝日のニュース番組でも、夜のニュース・報道ステーションの取り上げ方は正反対である(【報ステ】小泉大臣「気候変動問題はセクシーに」)。
同番組のVTRでは、右上のキャッチコピーに「国連が求めるのは”言葉より行動”」とあり、スーパーJチャンネルや中林氏の見解と真っ向から対立している。因みにNHKも、小泉氏の温暖化対策サミットに出席について、「小泉環境相 温暖化サミット出席も具体策の発言なし」という見出しで、
各国が再生可能エネルギーの大幅な導入などを打ち出す一方、今回、日本は具体的な新しい取り組みを示すことはありませんでした。
小泉大臣は今回が就任後初めての国際会議への出席でしたが、温暖化対策に積極的な国々と比較すると具体的な新しい内容に踏み込むことはほとんどなく、今後、日本としてどのように取り組んでいくのかが問われています。と報じた。
最後に、気候変動問題への対策強化を訴える活動で注目されているスウェーデンの高校生・グレタ トゥーンベリさんの、十分な対策を講じていない各国首脳らへの言葉を紹介しておきたい(東京新聞:「絶滅の始まりなのに経済の話ばかり」 グレタさん怒りの演説 気候行動サミット:国際(TOKYO Web) より)。
あなたたちは私たち(若い世代)を見捨てようとしているのです。次の動画は「温暖化に16歳少女「絶滅の始まりに」国連で涙の訴え テレ朝news」から。
人々が苦しみ、死んでいる。生態系全体が破壊され、絶滅の始まりに直面している。それなのに、あなたたちはお金や永遠の経済成長という信じられない話ばかり。よくも、そんなことができますね。
このムービーの最後は「小泉大臣は今後、日本の温暖化対策の取り組みをしっかり発信していきたいという考えを示しました」と締め括られているが、必要なのは「発信していきたい」という決意表明ではなく、具体的な取り組みを早急に始めることだ。トゥーンベリさん思いは小泉氏には伝わらなかったのだろう。(追記:BuzzFeed Japanは、スピーチの全文和訳記事を掲載している「「よくもそんなことを」グレタ・トゥーンベリが気候サミットに登壇 スピーチ全訳」)
決意表明だけを繰り返している人物を私は良く知っている。拉致問題解決・北方領土問題の解決について、何度も決意表明ばかりを繰り返し、具体的な成果が得られないどころか、実質的には具体的な行動を何もしないあの人だ。小泉氏を大臣に任命した現首相である。恐らく小泉氏もその上司と同じ穴の狢なのだろう。なにせ小泉氏は、記者から「どういった意味で(セクシーと)言ったのか」と聞かれ、「それをどういう意味かと説明すること自体がセクシーじゃないよね」と答えるような人物だ(小泉環境相「セクシー説明やぼ」 発言の真意問われ | 共同通信)。そもそも中身がなければ説明など出来る筈がない。
中身がなくて説明できないのを「セクシーじゃないから説明しない」なんて言っている彼こそ、最もセクシーからかけ離れている。そんな男が「気候変動問題はセクシーじゃないと!」なんて言う環境大臣であるのだから滑稽でしかない。
トップ画像は、PexelsによるPixabayからの画像 を加工して使用した。