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奥歯に物が挟まっているような

 オブラートに包むという、遠回しな言い方をすることを指す慣用表現に、2/28の投稿で触れた。今日のトップ画像で表現したのは、同種の慣用表現「奥歯に物が挟まる」だ。奥歯に物が挟まるも、相手に遠慮したり裏に何か事情があって、思うことをはっきり言えない様子を指す、「オブラートに包む」と似たニュアンスの表現である(奥歯に物が挟まるとは - コトバンク)。


 日本語には、同じく歯にまつわる「歯に衣着せぬ」という表現もある。これは「奥歯に物が挟まる」とは正反対に、思ったままを率直に言う。ずけずけ言う様を示す(歯に衣着せぬとは - コトバンク)。共に前近代から用いられている言い回しのようで、リンクをはった辞書サイトでは、「歯に衣着せぬ」は室町時代・1420年に書かれた論語の注釈書・応永本 論語抄での使用例、「奥歯に物が挟まる」は江戸時代・1710年に書かれた浮世草子・傾城伝受紙子での用例が紹介されている。

 「オブラートに包む」と「奥歯に物が挟まる」は共に似たようなニュアンスを示す慣用表現だが、前者は、相手を傷つけないようになどポジティブに表現をボカす場合にも用いられるのに対して、後者は大抵、保身や責任逃れ、消極的な姿勢などネガティブな理由で表現をボカす場合に用いられる。


 何が「奥歯に物が挟まっているような」状態だと感じ、 この投稿の冒頭でそれを取り上げたのかと言えば、それはメディアの政府への指摘・批判の姿勢・様子である。最近、利害関係者による所謂 総務省接待問題 が話題になっているが、果たして「総務省接待問題」という表現は妥当だろうか
 ことの発端は、東北新社に努める首相の息子が、総務省幹部を接待しており、同社に便宜が図られたという記事を、週刊誌が掲載したことだった。しかし、総務省幹部らを接待していたのは東北新社だけではない。昨日、NTTも接待をしていたという記事を文春が掲載した。

一人10万円超も NTTが山田前広報官と谷脇総務審議官に高額接待 | 文春オンライン

 ぼうご なつこさんが4コママンガで描いているように、山田は記事が出る直前に急に入院し辞表を提出、実質的に追求から逃亡したが、谷脇は接待を受けていたことを認めた。谷脇は直前に「東北新社以外から違法な接待は受けていない」と国会で答弁しており、総務省幹部によれば、3/2まで省内での聞き取りに対しても同様の説明をしていたそうだ。

「東北新社以外の違法な接待はない」と答弁していたけど…谷脇総務審議官、NTT社長らとの会食認める:東京新聞 TOKYO Web

因みに、NTTは加計学園問題で暗躍し、国会での追求に対してもいい加減な答弁をした安倍政権の首相秘書官だった元経産官僚・柳瀬 唯夫を、執行役員として受け入れている(NTTの執行役員に天下り 柳瀬秘書官が従う「首相案件」 | 文春オンライン)。これでもまだ「総務省の」「接待問題」だろうか。
 以前なら確実に「政権の」「癒着問題」「汚職問題」と書かれただろう。「総務省の」とするのは、あくまでも政権でなく総務省の・官僚の問題と矮小化したい官邸の思惑に、接待問題とするのは、「接待は受けたが違法な接待ではない」という官邸の主張に忖度しているからではないのか。

 「総務省の」ではなく「政権の」癒着・贈収賄問題と言える理由は他にもある。農水省でも、利害関係から接待を受けたり賄賂を受け取ったりして便宜を図ることが行われていたからだ。

しかも、こちらの件には、現在公選法違反で起訴され裁判中の元法務大臣 河井も絡んでいるようである。

農水省 枝元事務次官 “河井元法相との会食だと誘い受けた” | 河井元法相夫妻 公選法違反事件 | NHKニュース

総務省と農水省、そして大臣が少なくとも2人絡み、さらに内閣広報官までもが接待を受けていたのに、それを「総務省接待問題」と矮小化するのは、最早「奥歯に物が挟まったようなものの言い方」どころか、政権の不祥事隠蔽への加担とすら言えるのではないか。


 東京新聞は3/3に、

山田真貴子内閣広報官の後任に小野日子外務副報道官を異例の抜てき 接待問題からの立て直し図る:東京新聞 TOKYO Web

という記事を掲載している。この「接待問題からの立て直し図る」という見出しには強烈な違和感がある。ぼうごさんがマンガにしたように、どう考えても官邸は、山田への追求を避ける為に入院させ辞表を書かせた。そう断定することはできないが、あまりにも急にそんなことになればそう強く推測出来る。推測できない方がどうかしている感すらある。
 つまり、政権・内閣・官邸は「接待問題からの立て直し図っている」のではなく、

 接待問題の誤魔化しを図っている

としか思えない。 それを「立て直し」と表現する記者は全くどうかしている。感覚があまりにもおかしい。この記者も、首相や官房長官などと会食をしていた一人か、そのような上司からなんらかの恩恵を受けている記者なのではないか。そうとしか思えない。
 一応注釈しておくと、この記事は共同通信から配信された転載記事である。しかしこの記事を掲載することを、東京新聞がよしとしていることも事実である。


 こんなことが頻発する現在の自民政権がもう8年も続いているのは、票という養分を与える人たちと、棄権という容認をしている人たちが、日本の有権者の多数派だからだ。しかしこの投稿で指摘・批判したようなメディアの姿勢が、そのような人達から問題意識を遠ざけている側面も確実にある。民主主義社会では、メディアには有権者の目と耳になってもらわなければ困る。特に日本では特定のメディアが記者クラブを形成し、優先的に取材を行えるような仕組みになっているのだから猶更だ。
 メディアが「歯に衣着せぬ」批判と指摘をしないからこんなことになっている。マスゴミという表現は嫌いだが、メディア不信が深刻化するのも無理はない。


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