当たり前のことを言うだけの曲にのせて体操風に体を動かす、という、お笑いコンビ・COWCOWのネタ「あたりまえ体操」が流行ったのは、もう10年くらい前のことだ。当たり前体操はインドネシアでも流行ったそうで、COWCOW - Wikipedia によると、昨年・2020年に、新型ウイルス感染予防策をインドネシア語の歌詞にしたコロナバージョンを発表し、再び人気を博したらしい。
このネタは、当たり前すぎることをあらためて強調することが面白さだ。当たり前のことをあらためて強調することには滑稽さがある。ナイツのヤホー漫才も、言い間違いボケがネタの主体となっているものの、当たり前のことをあらためて強調する類のネタでもある。例えば、ジブリの宮崎 駿を題材にしたネタでは、「インターネットのヤホーってサイトで検索してまして、日本のアニメ界の巨匠を一人見つけてしまったんですよ。宮崎 駿って知ってます?」と、誰もが当たり前に知っていることを、あたかも大発見かのように言う、というボケを塙がやる。
コメディアンがそのようなことをするのは、当然笑いを誘うために面白さを狙ってわざとするのだが、世の中には本気で当たり前すぎることあらためて強調する人もいる。最初に言っておくが、初心を忘れないようにと、あらためて基本的なことを確認する場合などもあるが、そのようなケースに関しての話ではない。
以前勤めていた会社の後輩がある時「すっごい美味くて安い店見つけちゃったんですよ、びっくりドンキーって言うんですけどね」と言ってきた。びっくりドンキーと言えば、誰でも知っているようなハンバーグの店で、そこら中にある。しかもメニューのボリューム感に対して価格が安いことでも有名だ。それを今更「見つけちゃった」と言われても…という感しかなかった。
公式サイトによれば、島根や鳥取などには進出していないようで、彼がそれらの地域から上京してきたばかりなどの背景があったなら、「見つけちゃった」と言うのも理解できただろう。しかしそんなことはなかったし、高校を出たばかりで社会一般に関する見識がまだ未熟な状況でもなかった。彼がその種のことを言うのはその件に限った話でなく、しばしば同じ様なことがあった。しかも、彼の口調には「知らないだろうから教えてあげますよ」的な印象があって、そのような話を聞かされることに、徐々にウンザリしていった。
しかし、わざとではなく本気で当たり前のことをあらためて強調しても、嫌な感じ、うざったい感じがしない人もいる。所謂天然キャラの人や、違う地域から移住してきたばかりでその地域のことに不案内な人などがそうで、「知らないだろうから教えてあげますよ」という上から目線な感じがなければ、かわいげを感じて貰える場合もある。ただそれでも、誰もが知っていることを知らない、のは同じなので、それが当たり前である人にとっては「反応が面白い」という印象になるだろう。広義で言えばそれも滑稽さである。
当たり前のことを、何かスゴイことを言っているかのように喋る者の最右翼と言えば、小泉 進次郎をおいて他にいない。2019年9/18の投稿で触れた、
私の中で30年後ということを考えた時に、30年後の自分は何歳かな?とあの発災直後から考えていました。
という発言はその典型的な例だ。30年後の自分は今の年齢に30を足した歳になる。それは絶対に変わらない。死なない限り。だから考える必要などないのに、小泉はそんなことをドヤ顔で言う男だ。
進次郎環境相“どや顔”「プラスチックの原料って石油なんですよ」― スポニチ Sponichi Annex 社会
プラスチックの原料って石油なんですよ。意外に知られていないですけど
小泉は、3/18に出演したラジオ番組でこう述べた。これに対して「いやいや皆 知ってる/知っている と思いますよ」とは言わずに、「たしかに。完成品しか見てないから」と受けた同番組のMC 堀 潤もどうかしている。番組の当該部分を書き起こししている「小泉進次郎大臣「プラスチックの原料って石油なんです」発言が炎上→とあるアンケートでは16%が知らない(篠原修司) - 個人 - Yahoo!ニュース」は 16%が知らない ということを強調しているが、逆を返せば84%は知っているわけで、大半の人が知っていることを「意外に知られていない」と政治家、しかも大臣が言うのは、国民を馬鹿にしているようにすら思える。
小泉は、中身の薄い(もしくは無い)ことをあたかもスゴイことかのように頻繁に言うので、当たり前のことをスゴイことかのように言う手法も含め、何か言ってそうで何も言ってないことを、巷では小泉話法/進次郎話法と呼んでいる。
小泉話法を使う政治家は決して小泉 進次郎だけに限らない。大阪維新・吉村 洋文も、小泉 進次郎には劣る?が、その使い手だ。自分で緊急事態宣言の早期解除を政府に求めつつ、感染がが再び急増している原因について
大阪は(首都圏より)一足早く緊急事態宣言を解除したので、そのリバウンドもあると思う
と平気で言ったりする(緊急事態宣言解除前倒しが一因と大阪府知事|全国のニュース|京都新聞)。じゃあ何で緊急事態宣言解除を要請したりなどしたのか、という話だし、リバウンドも有り得るなんてのも、吉村が早期解除を求めていた頃から誰もが強く感じていたことである。そんなことを、誰も気づいていなかったが、今初めて明らかになったかのように言っているのは、まさに小泉話法の類だ。
【吉村洋文】吉村府知事「まん防」でマスク義務化 飲食店から怒りの声 |日刊ゲンダイDIGITAL
東京都知事の小池も似たようなことを今更言っている。
小池都知事、コロナ「第4波」を警戒 先行解除の影響懸念:時事ドットコム
気を緩めると感染が再拡大する可能性があり、第4波になってしまう。もう一段感染を抑制することが重要だ
小池は吉村とは違い、緊急事態宣言解除には一応懸念を示していたものの、「気を緩めると感染が再拡大する恐れがある」と考えているなら、なぜ強く政府の宣言解除に強く反対しなかったのか。なぜ宣言解除後になって、そんな誰もが当然のように懸念していたことを今更言いだすのか。小池のこの言動だって、当然のことをさも初めて分かったことかのように、自分が何かをやっているかのような印象を醸す為に言っているのだから、小泉話法の類である。
当たり前すぎることをあらためて強調するのは、冒頭でも示したように、お笑いネタの定番のボケである。お笑いネタ定番のボケを本気でやるような人達が政治家になれるのが今の日本だ。
このような者らが、家柄で選ばれたり、非民主的な方法で選ばれたりしているのなら、国民の意に反してそんな者が為政者になっている、と言えるのだが、日本では一応民主的な方法で政治家が選ばれている。ボケたことを平然と言う政治家を選んでいるのは、日本の有権者であり、つまりレベルが低いのは政治家に限らず有権者も同様なのだ。