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大阪湾は大阪市のもの? 原発事故による処理水に関連して


 福島第一原発事故により、今も続く放射性物質による地下水等の汚染。汚染水は放射性物質の多くを取り除く処理を行っている。しかし全ての放射性物質を取り除くことは出来ないので処理水として扱われる。事故原発周辺には処理水を保存する為のタンクが所狭しと並んでいる。「東京新聞:処理水タンク、22年夏限界 東電試算 福島第一増量は困難:社会(TOKYO Web)」によると、保管量は2019年7月末の時点でおよそ110万トン、そして1日毎に約150トン前後増えているらしい。この処理水について今後どのように対応するかは、これまでもしばしば話題になってきた。
 先週、台風15号による災害への対応そっちのけで、現政府の大臣入れ替えが行われたが、前環境大臣・原田氏は退任間際に増え続ける処理水について、「所管は外れるが、思い切って放出して、希釈するほかにあまり選択肢はない。それしか方法がないなというのが私の印象だ」と発言した。それを前提に、新たに環境大臣に就いた小泉氏が「(汚染水・海洋放出の是非については)所管は環境省ではありません。あれは経産省の小委員会で議論されている過程のこと」などと、なんとも無責任な発言したことについては、9/16の投稿で触れた。


 「原発処理水“環境影響なし確認なら大阪湾放出に協力”大阪市長 | NHKニュース」によると、9/17、今度は松井 大阪市長が、放射性物質のトリチウムなどを含む処理水の処分について、環境への影響がないことが科学的に確認できれば、大阪湾への放出に協力する考えを示したそうだ。


記事によると、松井氏は記者会見で次のように述べたらしい。
 未来永劫タンクに水をとどめおくことは無理なのだから、処理をして、自然界レベルの基準を下回っているものであれば、科学的根拠をきちんと示して、海洋放出すべきだと思っている。まずは政府が国民に丁寧に説明をして決断すべきだ
 (処理水を大阪に)持ってきてもらって流すのであれば協力する余地はある。科学的にだめなものは受け入れないが、全く環境被害のないものは国全体で処理すべき問題だ
 政府は、科学者を入れた検証委員会を早急に作って、自然界レベル以下だということを科学的根拠をもって、はっきり示してほしい

 松井氏の言うように、処理水に含まれる放射性物質が自然界に存在するレベル以下であれば、海洋放出には何も問題はないだろう。しかし、 今の日本政府主導の下で検証委員会が設置され科学的根拠を示したとして、果たして一体どれ程の国民が安心できるだろうか。その主張に信憑性を感じるだろうか。
 現在の政府内では、財務省で公文書の改竄が行われたり、防衛省で自衛隊日報の隠蔽が行われたり、厚労省で労働に関する統計データが捏造されたり、法務省が外国人労働者に関するデータの恣意的解釈を行ったりするなど、公文書や政策立案/議論に用いるデータの改竄・隠蔽・捏造が横行している。極めつきは、8/21の投稿「首相の「アンダーコントロール」発言や、種々の改竄隠蔽捏造によって下がった日本の信頼度」など、これまで度々指摘しているように、日本の首相である安倍氏が、オリンピック招致演説の際に「Situation is Under Control(福島の原発事故はコントロール下にある)」と嘘をついたことだ。「安倍氏の発言は嘘ではない」という見解を示す人もいるようだが、処理水が増え続けており、その処分方法が決まっていない状況のどこがアンダーコントロール/コントロール下にあると言えるのか。「安倍氏の発言は嘘ではない」と受け止められる人には深刻なバイアスが生じているとしか言いようがない。
 つまり、他でも頻繁に嘘が発覚しているし、原発事故や汚染水/処理水についても直接的に嘘をついた者が主導する組織がどんな検証結果を公表しようが、多くの国民・有権者が信憑性を感じることはないだろう。ましてや日本国民以外なら尚更だ。何より海に国境はない。厳密には領海や排他的経済水域という国境に準ずる範囲はあるものの、海水はそれに縛られない為、日本近海に放出するのだとしても、それは決して日本だけの問題ではない。


 海に国境はないという点で言えば、大阪湾も大阪市だけのものではない。松井氏が大阪市長としての考えを表明することに問題があるとは思わないが、彼は、前述の考えを公にする以前に、近隣自治体とのすり合わせを行ったのだろうか。大阪府知事は彼と入れ替えで就任した吉村氏だから(大阪府民から、ではなく大阪府知事からという意味で)異論は出ないだろうが、大阪湾だけでも兵庫県/和歌山県、そして複数の市が隣接しているし、淡路島の向こう側まで考えれば、岡山県/徳島県と多数の市町村にも関わる話である。また、もし関係自治体の首長が全て大阪湾への処理水放出に肯定的だったとしても、それら自治体住民の理解が概ね得られるとは限らない。
 そして、松井氏の「科学的にだめなものは受け入れないが、全く環境被害のないものは国全体で処理すべき」という主張もイマイチだ。そもそも福島県や当該自治体が原発事故によって多大な影響を受けたことを考えれば、全く環境被害のないものかどうかにかからわず、汚染物質/処理済み物質は国全体で処理すべきである。松井氏の見解は一見福島県民に寄り添った考えのようにも見えるが、そんな意味では、福島県民の感情を逆撫でする、若しくは落胆させる内容でもあるのではないか。
 松井氏がそのような見解を示すのであれば、大阪湾に放出するかどうかは別として、取り敢えずタンクローリー数十台分の処理水を大阪市へ運んでみたらよいと思う。そうすれば、大阪市民や近隣自治体とその市民がどのように考えるかがすぐに明らかになるだろう。個人的には、松井氏の考えが如何に短絡的であるかが露呈すると推測する。


 テレビ朝日・報道ステーションは、この件に絡めて新環境大臣・小泉氏が福島県を訪問したことを伝えた(【報ステ】問われる汚染水…小泉大臣が福島4町訪問)。


このムービーは当該記事から引用したものだ。報道ステーションでは処理水の問題だけでなく、汚染土の処理についても触れており、その部分は4:00前後から始まる。
 政府は福島県内の除染作業で発生する放射能汚染土を、30年以内に福島県外の最終処分場へ移すと約束し、2014年には法律も制定しているのだが、3/21の投稿「復興五輪という、美辞麗句・羊頭狗肉の看板」でも触れたように、環境省が「原発事故によって発生した汚染土を除染した土の8割が再利用可能」という、その約束を反故にする為の布石とも思える試算を3/19に発表しており、そしてそれ以前の昨年から既に、汚染土の再利用実験を福島県内で行うという話が複数浮上している。
 小泉氏は9/17の記者会見の中で、「(30年以内に福島県外の最終処分場へ移すという)約束は守る為にある。全力を尽くす」と述べ、記者に更にその実現に向けた具体的な考えを聞かれて次のように述べた。
 私の中で30年後ということを考えた時に、30年後の自分は何歳かな?とあの発災直後から考えていました。だからこそ私は健康でいられれば、その30年後の約束を守れるかどうかという、そこの節目を見届けることができる可能性のある政治家だと思います
 しっかりと形にする為に全力を尽くしたいと思います 
と述べている。
 どうやら、現政権の大臣は「具体的な考え」という、日本語による決して複雑でない表現の意味を理解出来ない程度の人間でも務まる、適材適所であるということのようだ。彼の話は全く具体的な話ではない。現在具体的な考えを持ち合わせていないのなら、「今はまだない」と正直に言えばいい。しかしプライドや打算が邪魔をしてそう言う事ができず、こんな全く内容の感じられない、というか、何を言いたいのかさっぱり分からない話ではぐらかすことしか出来ないのだろう。付け加えておけば、小学校高学年の児童でも分かりそうな、全く質問に答えない応答しかしていないのに、それを指摘しない記者たちもどうかしている。それは別としても、このような大臣を起用する限り、現政権への信頼が戻ることはないだろう。
 毎日新聞の世論調査によれば、小泉氏の環境大臣起用について6割超が評価すると回答したそうだが(内閣支持率上昇、50%に 進次郎氏起用「評価」6割超 毎日新聞世論調査 - 毎日新聞)、評価の理由までは記述がない。そこまで調べて初めて有用な世論調査なのではないか。個人的な推測ではあるが、評価すると答えた人の多くはただ何となく、雰囲気だけでそう答えたのではないだろうか。雰囲気で支持率等を上げても、多くの人は雰囲気で処理水のことも考えるだろうから、結局政府の信頼性回復には繋がらないだろう。政府の雰囲気作りに間接的に協力しているメディアにも閉口する。

 現政権が今後も続くのであれば、たとえどんなに適切で科学的な検証結果を自前で発表しても、国内外問わず信憑性を感じては貰えないだろう。安全と安心の差はそんなところにある。所謂オオカミ少年と呼ばれるイソップ童話「嘘をつく子ども」(Wikipedia)で描かれているように、嘘をつきまくって信頼を失い、嘘つきのイメージが付いてしまうと、本当を言っても信用して貰えない。原発事故によって生じた汚染土や処理水の安全性に関する検証は、国外の組織に委託でもしなければ、信頼を得ることはできないだろう。
 そして世界に向けてアンダーコントロールという嘘をつき、原発事故関連の問題に限らず、頻繁に改竄隠蔽捏造等を生じさせた政権は、既に国外からは信用されていない。それは、6月に大阪で行われたG20でも滲み出ていた(6/29の投稿)。つまり、現政権に早急に退場して貰うのが、現状での最良の選択だろう。
 もし今後も日本の有権者が現政権を支持し続けるのだとすれば、日本では政府やメディアだけでなく、有権者もおかしくなっていると認識されかねない。日本人の有権者にとって安倍氏や同政権は味噌っかす扱いなのかもしれないが、他国が同様に、優しい目で味噌っかす扱いしてくれるとは限らない。寧ろ、信用してはいけない対象として味噌っかす扱いされて当然だろう。今の政権を日本の有権者が支持し続ければ、政権同様に、日本の有権者、つまり国民や企業にも、信用してはいけない味噌っかすというイメージが付きかねない。


 トップ画像は、Chamaiporn KitinaによるPixabayからの画像 を使用した。

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