日本の報道機関への信頼感は全くない。報じられることが全て嘘だと言ってるわけではない。嘘を平気で混ぜてくるので信用することができない、と言っている。しかも、嘘ではないと言い逃れできるような言い回しで嘘を混ぜてくるので性質が悪い。政治も報道も責任感に全く欠けている。
トップ画像で示したのは本来の報道機関の役割だ。玉石混交な社会全般や、あちらこちらから発せられる真偽が織り交ぜられた発信を、ふるいにかけて、その中から事実を伝えるのが報道機関の役割だ。
嘘が発せられたら「嘘が発せられた」と伝えるべきであり、いかがわしい情報に関しては、そのいかがわしさを指摘しつつ伝えるのが報道である。嘘を嘘と指摘せずに伝えたり、いかがわしい情報をいかがわしいと指摘せずに伝えるのは報道ではない。指摘せずに伝えることは、嘘やいかがわしい情報を事実かのように広める恐れがある。それでは所謂フェイクニュースを流布するまとめサイトやトレンドブログと何も違わない。もし指摘せずに伝えることも報道と呼べるなら、その種のまとめサイトやトレンドブログですら報道機関と呼べることになる。
この数年このブログではしばしばそんな報道の体たらくを指摘・批判し続けてきて、もう本当にウンザリとしているのだが、おかしいものをおかしいと指摘するのを止めることは、そのおかしいことの恩恵を受けている人達の思う壺なので、ウンザリしつつもこうやって投稿を書いている。
昨日、こんなツイートが目に付いた。
報道する側も、この地域の老人が900万人で、1日たった1万人にしか接種しない施設なのに、7月までに接種を終わらせる、ワクチンの使用期限は半年、とかいうメチャクチャな数字の羅列に疑問を感じないのか? どういう計算なのか? #NewsPicks https://t.co/wBxlGjwfHB
— 平野啓一郎 (@hiranok) April 28, 2021
引用されているのは、首相の菅が、防衛大臣の岸に、都内に自衛隊による新型コロナワクチンの大規模接種センターを設置するよう指示した、というTBSの記事である。
政府が東京に設置「大規模接種センター」とは?|TBS NEWS
記事のつくりは、決して政府が設置するとしているワクチンの大規模接種センターを高評価するようなものではなく、1か所に1日1万人もの人を県をまたいで集めることは、感染拡大の懸念が高まる高密度状態を作り出す恐れがある、という懸念を示してはいる。だが、当該ツイ―トは、もっと根本的な矛盾があることを指摘している。
当該ツイ―トは、このセンターが接種を賄うとする東京・神奈川・埼玉・千葉の4都県には、およそ900万人の高齢者がいるのに、1日1万人の接種で3か月(90日)では90万人しか接種できないではないか、と言っているのだ。このセンターで全ての接種を行うということではないだろうが、ワクチン接種は1人に付き2度必要なので、高齢者900万人に対してだけでも1800万回の接種が必要であり、勿論高齢者以外にも接種は必要なのだから、1日1万人の接種をするセンターを1つだけ3か月設置しても、全く焼け石に水の状態にしかならない。
しかも
- 7月末までに高齢者の接種を終えるように取り組む
- 使用するワクチンは4週間あけて2回接種する必要がある
- ワクチンは-20度で最長半年、一般的な冷蔵庫で30日しか保管できない
など、政府は小学生レベルの計算が出来ていないと指摘しなければならないのに、そのような指摘は、この記事に一切ない。
これが果たしてまともな報道と言えるのか。自分にも全くそうは思えない。こんな記事を書いていれば、当該メディアが信用を無くすのも当然だ。
このような記事を書くのはTBSだけではない。NHK報道に関するこんな指摘もある。
何気なく聞いているニュースの異様さに私たちは気づく必要がある。
— 上西充子 (@mu0283) April 28, 2021
4月19日のこのNHKニュースでは「9月までに」の言葉が見出しを除いても5回も繰り返されているが、それは「めどが立った」という菅首相の「見通し」に過ぎない。
ファイザーのCEOの返事は黄色部分のとおりで、9月という話はない。 pic.twitter.com/hsdvNpBg6r
この件については、自分も既に4/19の投稿でその嘘を指摘している。「交渉を進める」という話をワクチン担当大臣が「供給を受ける合意をえた」と言い、首相が「ワクチン供給の目途が立った」と言っているだけなのに、NHKはあたかもそれが事実かのような見出しで記事を書いている。そしてこれは決してNHKに限った話ではなく、他にも複数同じように報じたメディアがあった。つまりメディア全体の傾向と言っても言い過ぎでない。
おそらくNHKなどのそのように報じたメディアは、「ワクチン担当大臣が、首相がそのように発言した」と伝えているので虚偽報道ではない、という説明をするつもりだろうが、そんな姿勢に誠実さの欠片も感じられないのは当然だろう。個人的には齟齬が生じることを分かってわざわざそんな風に報じているとしか思えない。それは、こんなことがもう何度も何度も繰り返されているからだ。
2020年11/11の投稿で、「メディアはー」という雑な批判は止めてもらいたい、というメディア関係者の主張に対する異論を書き、そのような批判を辞めて欲しいのなら、まずは自分達メディア側が不逞メディアを正すことから始めたらどうか、と指摘した。大雑把な批判が必ずしも適切とは言えないが、もう既にメディア全体の信頼が失われるほどひどい状態が広がってしまっている。