お茶の水女子大が、自身の性自認にもとづき女子大学で学ぶことを希望する人、つまりトランスジェンダーの女性の受け入れを発表したのは2018年7月のことだった。2020年度から受け入れるとしていたが、コロナ危機と重なったからか、実際に受け入れを開始したことは大手メディアでは殆ど記事化されていない。
- お茶の水女子大、トランスジェンダーの学生を受け入れへ。2020年度から | ハフポスト(2018年7/2)
- 「トランスジェンダー学生受入れに関する対応ガイドライン」の公表について | お茶の水女子大学(2019年5/28)
- 日本女子大、トランスジェンダーの学生受け入れへ:朝日新聞デジタル(2020年6/19)
- ネットで広がるトランスジェンダー女性差別、背景に何が:朝日新聞デジタル(2020年9/17)
朝日新聞・2020年9/17の記事に、
お茶の水女子大と奈良女子大は今年度(2020年度)、トランスジェンダーの学生の受け入れを始めた
とあるように、既に実際に受け入れを始めている。また、日本女子大もトランスジェンダーの受け入れを2024年から始める、という記事から分かるように、宮城学院女子大や日本女子大も受け入れを始める準備をしているようだ。
お茶の水女子大が受け入れを表明した際に、自分は「性別による区分・差別の線引きの難しさ」というタイトルで投稿を書いた。その中で、当時既に女装した男性が女子更衣室や女子風呂に侵入したり、盗撮をしたりするという事案が報じられていたことを勘案し、トランスジェンダー女性を装った悪意あるシスジェンダー男性が、制度を悪用することをどう防ぎ、そのようなことが起きかねない不安をどう拭ったらよいのかは、とても難しい問題だと書いた。
自分は、そのような懸念を示すことは決して差別でも蔑視でもないと考えるが、前述の朝日新聞の記事「ネットで広がるトランスジェンダー女性差別、背景に何が:朝日新聞デジタル」には、
お茶大が受け入れを発表した2018年ごろから、トランス女性がトイレなどの女性専用空間を使うことにより「トランス女性を装って性犯罪をする人が出る」と訴えたり、トランス女性を「男体持ち」と蔑称で呼んだりする排除的なメッセージが目立つようになった。
とある。その2つを、あたかも同様に差別的な言説かのように併記していることには違和感がある。実際に女装した男性が盗撮や覗き目的で女子更衣室等に侵入する事案が複数起きているのだから、そのような懸念が示されることに合理性はないとは言えないのに、あたかも差別的な主張かのように書くのはフェアじゃない。
「8歳の時女子チームでプレーさせてもらえなかった」トランスジェンダーの女子スポーツ参加禁止に抗議 | ハフポスト
これは、ハフポストが4/2に掲載した、トランスジェンダーを実質的に規制する法案が、アメリカの複数の州で成立し、検討している数も複数出始めていて、トランスジェンダー女性や人権活動家などが「差別的だ」と抗議している、という内容の記事である。
トランスジェンダーを実質的に規制する法案の例として、アーカンソー州議会が可決した、トランスジェンダーの若者に医師がホルモン治療や性別適合の医療を施すことを禁じる法案、も上げられているが、確かにそれは個人の性自認/性同一性(gender identity)を尊重しない、という意味で人権侵害に当たる差別的な法律と言えそうだ。
だが記事の主題である、ミシシッピ州、アーカンソー州、テネシー州で3月に成立した、トランスジェンダーの女性学生アスリートが女子チームでプレーするのを禁じる法案は、アーカンソー州の例を考えれば、法案成立の背景にトランスジェンダーに対する差別的な認識がある懸念はあり、勿論法案の詳細次第では差別に当たる恐れもあるだろうが、トランスジェンダー女性の女子チーム参加を禁じること自体が直ちに差別的と言えるか疑問である。
これに抗議するトランスジェンダー女性のジャズ ジェニングスは、
トランスジェンダー女性が(女子チームでプレーするのは)有利だと言われますが、それは間違っています。私自身の経験や、多くの統計がそれを証明しています。今、フロリダを含む30以上の州で、トランスジェンダーの人たちをスポーツ競技に参加させないようにする動きがあります。こういった法案は差別的で、多くの人を排除するものです。何の利益もありません
と主張しているものの、生物学上の男性が、生物学上の女性に対して身体能力で勝ること(勝る可能性が高いこと)は、誰の目にも明白である。現在その事実に鑑み、大抵生物学上の男女別で競技が行われていることを考えれば、生物学上の男性が女子競技に参加することは公平性の面で問題があるという懸念が示されること、それに対する何らかの対策が講じられることは、直ちに差別的とは言えないのではないか。
自分は不勉強で、彼女が言う統計がどのようなものかよく知らない。だから自分の考えが絶対的に正しいと言う気もない。しかし、男性として好成績が望めない選手がトランスジェンダー女性を装って女子競技に参加する恐れは全くないと言えるような根拠はあるのか。そのような懸念を充分に排除できる仕組みを設けられているのか、設けることは可能なのか。
勿論単純にトランスジェンダーを排除すればよいということでもない。しかし前述のような懸念が拭えなければ、(特に女子の)競技の公平性が担保されないこともまた事実だろう。
女性が安心して生活できる社会の維持や、競技の公平性を担保することと、トランスジェンダー排除/差別の問題を一緒にしてはいけないと自分は考える。中々難しいことだろうが、それらはそれぞれ別々に考える必要がある。そうしなければ、トランスジェンダーに対する偏見がより強くなってしまう恐れもあるのではないか。
トイレや更衣室等は、個室の密閉度を高めることでその両方の問題を解消できるだろう。なんならそもそも全てを個室化して男女の別すら無くしてもいいのではないだろうか。公衆浴場の問題も、水着を着用しての入浴を認めれば、多くの懸念は解消できるのではないか。それでも不安を感じる女性は、家族風呂などを利用するしかないかもしれない。しかし身体能力に生物学上の性(biological sex)で差があることはいかんともし難いので、スポーツは生物学上の性で参加条件を判断するのはやむを得ない、と自分は考える。それをうまく解消できる方法があるなら、煽りでも何でもなく、純粋に是非知りたい。
トップ画像は、Photo1,Photo2 by Jonathan Chng on Unsplash を使用して加工した。