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日本メディアは死んでいる

 戦時中は情報統制が行われ、真実が国民に伝えられなかった、報道機関もそれに加担した、と知ったのは中学の歴史の授業だっただろうか。トップ画像に用いたのは、その発端と思われる、大敗を喫し日本軍が劣勢になっていく転機となったミッドウェー海戦に関する朝日新聞の記事だ。記事は日本軍が勝利したかのような内容になっているが、実際には日本軍は大損害を被り、米軍の被害は軽微だった


 この後も情報統制とそれに加担して大本営発表を垂れ流すだけの翼賛報道は続いたようで、ガナルカナル島の戦いでも敗北を喫したにも関わらず、撤退、敗退などとは伝えずに、転進と言い換えた、という話はあまりにも有名である(ガダルカナル島の戦い - Wikipedia)。

 このような日本の戦中報道や、天安門事件など当局に都合の悪いことがタブーとされ、自由な報道がない中国の状況を見て、どこか馬鹿にする気分が間違いなくあった。しかし現在の日本も、決してそれらをバカに出来るような状況ではない。自分が生きている間に、それらと似た状況に陥るなんて全く思っていなかった。少なくとも東日本大震災以前は。

 昨今、自民党政権下で報道の自由が低下している、という指摘も多いが、個人的には、東日本大震災の時点、というか福島原発事故が発生した時点で既に恣意的な報道がなされ始めたと思っている。当時、メルトダウンが起きていたのに、NHKが盛んに炉心溶融、炉心溶融と伝えていたことを覚えている。その背景には、政府や東電がメルトダウンが起きたことを認めていなかったこともあるだろうが、それだって結局は大本営発表をたれ流しただけだ。
 また、米軍が事故原発から半径60kmの区域に制限を出した一方で、日本政府は半径30kmだった。真実か否かは定かでないが、半径60kmの区域に制限を加えると、東北自動車道が通行できなくなる為、半径60km区域の制限が出来なかった、とも言われている。因みに、地震直後は動いてはいなかったが、新幹線や東北本線も寸断されてしまう。当時は混乱していたこともあったが、この日米の制限の違い、その理由等を積極的に取り上げる報道を見た記憶がない。この30kmの制限に関して、当時官房長官だった枝野 幸男が「(放射線量は20km/30km圏内でも)直ちに人体に影響を与える数値ではない」と言い、盛んにそれが報道されていたことは、とても強く記憶に残っている。
 但し、この頃の報道は、今思えば全然マシだった。何故なら当時は震災・原発事故直後で、伝えるべき、取材すべきことが山ほどあり、且つ全ての検証に手が回らない状況でもあったし、勿論政府もメディアもかなり混乱した状態だった。


 忖度報道という言葉が使われ始めたのはどれくらい前だっただろうか。そもそも忖度という言葉が注目を浴びたのは、森友学園問題を追求する為に、福山 哲郎が2017年に国会審議の中で用いたからであり、つまり忖度報道という言葉が使われ始めたのはそれ以降だ。ただ2014年頃には既に、日本の報道の自由度ランキングが、安倍政権以降大きく下落したことへの懸念は示されていて、正常な報道がなされていないのでは、なされなくなるのでは、という危惧は、安倍政権成立直後から既にあった。
 安倍政権の成立から約8年、日本の報道は、最早戦中報道並みの状態になり下がってしまった。

 昨日の投稿で書いたように、週末に行われたG7に関連して「各国首脳がオリンピック開催を支持した」という歪曲報道がなされていたのだが、閉幕後更に、決定的な歪曲記事を各社が掲載している。ハッキリ言って大本営発表をたれ流した戦中報道と何も変わらない。


 これらの報道のからくりはこんな感じだ。「全首脳が支持」の根拠にしているのは、閉幕に際して出されたG7首脳共同声明である。しかし、実際に共同声明になんと書かれたのかと言えば、25ページ分ある共同声明(Carbis Bay G7 Summit Communique (PDF, 430KB, 25 pages))のうち、オリンピックについて書かれたのは

reiterate our support for the holding of the Olympic and Paralympic Games Tokyo 2020 in a safe and secure manner as a symbol of global unity in overcoming COVID-19.

という、たった2行だけで、しかも一番最後に申し訳なさそうに添えられている。首相の菅は、これだけを以て「G7全首脳から力強い支持を得た」と言い、そしてそれをそのままメディアが記事にしている、というのが現状である。

 昨日の投稿でも取り上げたTBSの記事には、

G7サミット首脳声明「五輪支持」明記へ調整|TBS NEWS

政府関係者によりますと、このサミットの首脳声明に、東京オリンピック・パラリンピックの開催を支持する文言を盛り込む方向で調整が行われているということです。

とある。つまり、菅が「G7全首脳から力強い支持を得た」と言っている根拠にしているこの2行の文は、ほぼ間違いなく日本側が共同声明に盛り込ませたものだ。当該文章は日本語に直すと「COVID-19を克服するための世界的な結束の象徴として、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が安心安全に開催されることへの支持を改めて表明します」となる。これは前首相の安倍、そして現首相の菅、そして日本の開催強行派の面々が言っていることと同じで、つまりこの文面からも、この文は日本側が盛り込ませたものであることがよく分かる。
 更に、これも昨日の投稿でも書いたことだが、英語のメディアの記事に、G7でオリンピック開催の是非が議論された、なんてのは一切見当たらない。G7に参加した他国首相らの公式SNSや、他国のジャーナリストのSNSを見ても、オリンピックのオの字もない。自分が調べた限り、英語メディアでG7とOlympicでヒットしたのは、ロイターの「G7 nations say they support Japan 2020 Olympics | Reuters」という記事だけである。しかしこれも、ライターの署名もなく、単に共同声明に前述の一文が盛り込まれた、というだけの内容に過ぎず、G7の参加者や各国政府へ取材をして書かれた記事ではない。
 つまり、菅が、日本側が共同声明に盛り込ませた一文を根拠に「全首脳から力強い支持を得た」と言い、それをそのまま、裏取りもせずに日本のメディアだけが垂れ流している、という状況だ。しかも殆ど全ての大手メディアがそれをやっているのだから、これを戦中の翼賛報道と同じと言っても決して間違いではない。

 日本が付け加えさせた一文にもカラクリがある。「in a safe  and secure manner」は、安心かつ安全に(開催される)と訳せる。しかし、確実に安全な状態で(開催される)とも訳せる。前者は日本向けの頻繁に用いられる「安心安全」、後者はこの一文を盛り込むことを認めさせるための訳だ。後者の意味で捉えれば、各国首脳が容認するのは、確実に安全な状態で開催されるオリンピックであり、安全が確実に確保できないのであれば、開催は認められない、という含みがある。菅や日本政府、日本のメディアは、それをあたかも、手放しで開催を認めてもらった、かのように印象操作している。


 また、菅はこんなツイートをしているが、

 ろくに英会話も出来ず、他国首脳と雑談すら出来ないのに、一体どうやって議論をリードしているのか。それをそのまま真に受けて記事にするメディアまである。


 ハッキリ言って、日本の報道は最早中国のそれと同じだ。いや、一応民主制が辛うじて成り立ってる状況で、メディアが自ら忖度報道、大本営発表の垂れ流しをやっているのだから、中国のそれ以下と言ってもいいかもしれない。兎に角日本の報道、特に政治報道は、最早見るに堪えない状態、存在自体が害悪な状況に成り下がってしまっている。

このような記事を、一体どういうつもりで掲載しているのだろう。全く教訓として生かされていないではないか。


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