首相や厚労大臣、政府お抱え専門家らが、新型コロナウイルス対策の不備に関する責任を、たらいまわしにしていると、つい2日前に書いたばかりだ。そこで、責任を有耶無耶にする組織はいい加減なことをやりがちだ。責任者が責任をとらず、下にそのツケを回す組織も同様だ、とも書いた。それがあからさまに分かることがすぐに起きた。
昨日・8/6は、1945年に原爆が広島へ投下された日で、原爆の日などと呼ばれている。以前は原爆記念日とも呼ばれていたように記憶しているが、記念
という表現にポジティブなニュアンスを感じる人が多いからか、最近はその呼称はあまり用いられないようである。8/6だけでなく、長崎に原爆が投下された8/9も、8/6同様に原爆の日と呼ばれる。
毎年8/6には広島で原爆被災者の慰霊と世界平和を祈念する式典が行われる。1971年からは時の首相も参加するようになり、式典で挨拶をするのが恒例となっている。2017年に国連で核兵器禁止条約が採択されてからは、首相がそれについてどのような意思表示をするかも、原爆の日の首相挨拶に関する注目点だが、前首相の安倍はそれに触れることを避け続けた。説明不要かもしれないが、日本は世界で唯一の戦争被爆国でありながら、核兵器禁止条約に反対票を投じた。
昨年8月に、前首相の安倍が、仮病としか思えない ”持病の悪化” で首相を投げ出し、当時官房長官だった菅が9月に新首相となった。つまり今年の原爆の日は、菅が初めて望む式典だった。そこで、またしても菅の無責任が露呈することになった。
菅首相が挨拶読み飛ばしを陳謝 広島平和記念式典で|TBS NEWS
菅は、事前に予定されていた挨拶の一部を読み飛ばした。「我が国は、核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり、『核兵器のない世界』の実現に向けた努力を着実に積み重ねていくことが重要」などを読み飛ばし、中継画面に表示されたテロップと菅の言葉が合わず、いきなりテロップが消える場面があった。
これは広島ホームテレビの中継映像だが、NHKの中継でも同様に、菅の発していない言葉がテロップとして表示され、そして突然テロップが消える場面があった。広島ホームテレビは、公式Youtubeで挨拶の全体を公開しているが、そこからはテロップが全て削除されている。Youtube機能の字幕も付加されておらず、当然手話通訳もなく、公共の電波を使用する放送局としての自覚が低い。菅の読み飛ばしを分かり難くする為にテロップを削除したとも考えられる。
被爆76年 広島平和記念式典|菅総理挨拶|2021年8月6日 -【公式】HOME広島ニュース
中継の方を見れば分かるように挨拶冒頭も酷い。噛み倒している為テロップと言葉が合っていない。テロップでは「本日 被爆76周年の広島市原爆死没者慰霊式 並びに平和祈念式が執り行われるにあたり」となっているものの、菅は、
本日、被爆…76年…目のぉ、ヒロマ市…広島市…厳罰(原発?)…げんばつ死没者慰霊式、並びに平和祈念式が執り行われるにあたり
と言っている。
結婚式や卒業式等での挨拶に関して、事前に原稿を用意しておくことはそれ程珍しい事ではなく、原稿を読み上げる挨拶は、格好が悪いとは思うものの、不適切な行為とまでは言えない。なので、挨拶冒頭で原稿を上手く読めずに噛み倒しているのも、かなり格好が悪いとは思うが、格好が悪いだけであり、首相にあるまじき行為とまでは言い難い。だが原稿の読み飛ばしは流石にそうはいかない。
最初に紹介したTBSニュースの記事にあるように、菅はその後挨拶を読み飛ばしたことを認め、
先ほどの式典の挨拶の際に一部読み飛ばしてしまいまして、この場をお借りしましてお詫びを申し上げる次第でございます
と述べた。この読みとばしについて、共同通信が次の記事を掲載している。
首相の原稿、のりでめくれず 広島式典の読み飛ばし | 共同通信
政府関係者は6日、菅義偉首相が広島の原爆死没者慰霊式・平和祈念式でのあいさつの一部を読み飛ばした原因について、原稿を貼り合わせる際に使ったのりが予定外の場所に付着し、めくれない状態になっていたためだと明らかにした。「完全に事務方のミスだ」と釈明した。
原稿は複数枚の紙をつなぎ合わせ、蛇腹状にしていた。つなぎ目にはのりを使用しており、蛇腹にして持ち運ぶ際に一部がくっついたとみられ、めくることができない状態になっていたという。
挨拶文をスピーチライターに書いてもらうなんてことも決して珍しくはないが、スピーチライターが挨拶の文言を考えたとしても、その挨拶は挨拶する者の言葉ということになる。つまり挨拶の内容の責任は、他の誰かが書いたとしても挨拶する者が負う。ライターはあくまで文章を考えて提供する立場だ。つまり、挨拶する者は提供された文章を、挨拶する前に自分のものにしておかなくてはならない。事前に下読みして内容を確認・理解しておく必要がある。下読みをせずただただ提供された文章を読むだけなら、それは単なる音声合成による文章の読み上げと変わりない。音声合成による読み上げは噛んだりしないので、寧ろ音声合成による読み上げ以下にしかならない。
菅が挨拶を読み飛ばした原因は、「原稿を貼り合わせる際に使ったのりが予定外の場所に付着し、めくれない状態になっていたため」であると政府関係者が言っている。もし本当に糊でくっついてページがめくれない状態だったとしても、ページが1枚めくれないことには気づくはずだ。万が一それに気がつかなかったとしても、下読みをして内容を理解していれば、原稿が足りないことには気がつくはずだ。緊張感もなくとてもボンヤリしている者なら、その両方に気づかない恐れもあるが、そんなにボンヤリしている者に首相、いや国会議員、政治家としての資質があると言えるか。絶対に言えない。何故なら、言語表現による議論が政治家の本分だからである。
つまり、共同通信の記事から分かることは、菅は事前に原稿の下読みを一切せずに挨拶に臨み、そして噛み倒し、更には原稿を読み飛ばしたということだ。下読みをしていれば原稿が足りないことに気がつくし、その部分を原稿通りでなくても、自分の言葉で補えるはずだからだ。「糊でくっついていた原稿を読み飛ばした」?そんな稚拙な言い訳が、恥ずかしげもなくよくもできるものだ。記事では菅ではなく政府関係者の話となっているが、この記事に関する否定は一切なされていないので、菅もこの稚拙な言い訳をよしとしている、と思って間違いない。
更に酷いのは、この読み飛ばしは「完全に事務方のミス」であると言っていることである。事前に下読みをして菅が内容を理解していれば起きなかった失敗であり、全く「完全に事務方のミス」ではない。そもそも挨拶は挨拶する者の責任において行われるものであり、また菅は全行政の最高責任者でもあり、つまりこれは菅のミス、菅の責任に他ならない。だから今日のトップ画像を、無脊椎動物であるタコに菅の顔をコラージュして、無責任動物というコピーで風刺した。
そもそも菅は、安倍の政権投げ出しに伴う昨年の自民党総裁選で、目指す社会像として「自助・共助・公助」を打ち出している。まず自助、という菅のモットーに当てはめれば、挨拶の文言を自分で考えるのが自助であり、原稿に不備がないかを自分で確かめるのも、人に考えて貰った文章で挨拶するなら下読みをしておくのも自助である。にもかかわらず、「完全に事務方のミス」なのである。まだ自分でトイレをできない赤ん坊が、オムツを変えてもらえずに肌がかぶれるようなことがあれば、それは親のミスである。菅は自分では何もできない赤ん坊か?そんなのが「まず自助」なんて豪語しているのだから聞いて呆れる。そんなのが首相なんだから、日本は本当にどうしようもなくレベルの低い国だ。
最後に付け加えておくと、TBSの記事にあるように菅は読み飛ばしを認めた会見で、
東京の繁華街の人流はオリンピック開幕前と比べて増えておらずに、これまでのところオリンピックが感染拡大に繋がっているという考え方はしておりません
とも述べている。しかし実際は減っていないし、オリンピック関係者から既に400人を超える感染者がでている。またオリンピック開始後、感染爆発とも言えるスピードで感染が拡大している。競技開催による過密状態発生が複数報じられている。
「人流減っている」はホント? 過去の宣言時と比べると [ニュースデータウォッチ]:朝日新聞デジタル
オリンピック 新型コロナ 大会関係者など新たに22人感染確認 | オリンピック・パラリンピック | NHKニュース
<新型コロナ・6日>東京都で4515人の感染確認 過去2番目の多さ:東京新聞 TOKYO Web
トライアスロン混合リレー 観戦自粛呼びかけも沿道は混雑|NHK 首都圏のニュース
このように、都合の悪いことは無視して、嘘と言っても過言ではない話を、「オリンピックが感染拡大に繋がっていない」ではなく、「オリンピックが感染拡大に繋がっているとは考えていない」という、後で考えてないかっただけと言い逃れできるような言い方で、平然と言ってのける行為は、無責任でなければできないことだ。
トップ画像には、タコ 動物 ビンテージ - Pixabayの無料ベクター素材 を使用した。