石橋を叩いて渡る、という慣用表現がある。頑丈に見える石橋でも、本当に渡っても壊れないか叩いて確認してから渡ることを意味していて、つまり、用心深い様子、慎重な姿勢を表現するのに用いられる。
トップ画像では、石橋を叩いて渡る、を左側のコマで、右のコマでは、石橋を叩いて渡るのやりすぎを揶揄する場合によく言われる、石橋を叩いて壊す、を表現した。本当に壊れないか確認する為と言っても、必要以上に叩きすぎると、頑丈な石橋でも渡る前に壊れてしまう、のようなニュアンスだ。
用心深過ぎて何かを始めることを躊躇していたら、いつまでも物事は前に進まない。慎重過ぎて他人を警戒し疑いすぎれば、不必要に悪い印象を持たれてしまう。用心深さや慎重さは重要だが、それもほどほどにしないといけない。場合によっては用心深さや慎重さが悪い結果につながることもある。
人工妊娠中絶を外科的な処置をせずに薬で行う経口中絶薬について、イギリスの製薬会社が日本での使用を認めるよう12/22に、厚生労働省に承認申請した。この薬は、海外では80以上の国で承認され、WHO:世界保健機関も安全で効果的として推奨している。女性団体や医療関係者の一部は、外科手術による中絶よりも安価で身体的負担も軽いとし、承認の必要性を訴えている。
「経口中絶薬」の使用 承認申請 国内初 手術伴わない選択肢 | 医療 | NHKニュース
しかし、日本産婦人科医会の会長・木下 勝之は、経口中絶薬の承認に反対している。安価に中絶ができるようになると、性の乱れが生じる、のようなことを言う人達がいて、よりによって産婦人科医会の会長もその類だ。女性が安易に経口中絶薬に頼ることがないように、承認されるとしても、中絶手術と同程度の10万円程度の価格にすべき、などと言っている。海外での平均価格は740円の薬なのに。
NHKの記事は木下・産婦人科医会の姿勢を、慎重な姿勢、だとしている。一体どこが慎重なのか。自分の目には、単に手術件数が減ると自分達の儲けが減ると危惧しているだけの自分勝手な態度にしか見えない。慎重さなどみじんも感じられない。
たとえば、どこかほかの国で、経口中絶薬が安価で利用できるようになった所為で、避妊が疎かにされる深刻な事態が起きているとか、その影響で性病が蔓延しただとか、そんな事例があるなら、性の乱れが生じる懸念とか、安易に経口中絶薬に頼る恐れがある、などの主張は慎重な姿勢と言えるかもしれない。しかし、そのような具体的な事例も示さずに、そんなことを言ったり、740円の薬を10万で販売するべきだなんて言ったりするのは、全く慎重じゃない。率直に言って単なる意地悪だ。
しなくてもいいような心配をすることは全く慎重とは言えない。望まぬ妊娠をさせられる女性が少なからずいるにもかかわらず、中絶へのアクセスのハードルを不必要に上げるのは、慎重な姿勢ではなくて最早悪意の類だ。NHKはそれを慎重な姿勢と呼んでいる。それは公平で公正な報道だろうか。
12/24の投稿でも書いたが、NHKだけでなく日本の大手メディアの大半は、同性婚制度や選択的別姓制度に消極的・否定的な自民党や政府の態度も、慎重な姿勢、と書く。別姓制度を設けた国、同性婚を認めた国で、社会の秩序が著しく乱れたなんて話は一切聞いたことがない。にもかかわらず、別姓や同性婚を認めると家族の絆がーとか、家族の形がーとか、不必要な心配をして、と言うよりも、こじつけのようなそんな理由で、それらの制度創設に消極的・否定的な人達の、一体なにが慎重なのか。
経口中絶薬、同性婚制度や選択的別姓制度などに、性の乱れが生じるとか、家族観が壊れるとか、家族の絆がなくなるとか、そんな例は一切ないのに全く不必要な心配をして否定することの一体どこが慎重な姿勢なのか。そんなのは単なる意地悪で、慎重な姿勢ではなく悪意に満ちた姿勢だ。
自民党や政府、そして日本のメディアは、どこまで日本語を壊すつもりなんだろうか。