NHKがBSで昨年・2021年末に放送した「BS1スペシャル・河瀬直美が見つめた東京五輪」という番組の中で、五輪反対デモに金をもらって参加したとされる男性が登場したことが話題になっていた。自分の周りでは、どこの誰かも分からない・根拠も示されず信憑性に欠ける、という評価だったが、自民党の国会議員などがそれを根拠に、五輪反対派は汚い、という趣旨の言説を展開したりもしていた。
昨日・1/9、NHKはこの番組について、「字幕の一部に不確かな内容があった」と発表した。実際には、金を貰って反五輪デモに参加したかどうか以前に、男性が五輪反対デモに参加した事実すら確認できていなかったとのことだった。
NHK、事実確認せず不適切字幕「金もらって」「五輪反対デモ参加」:朝日新聞デジタル
NHKは1/9の夜に、BS1で「映画製作などの関係者のみなさま、そして視聴者のみなさまにおわびいたします」などとする2分間の放送を行ったそうだが、その翌日である現在・1/10の時点で、NHK公式サイトのトップに、その旨を伝える訂正・お詫びページへのリンクは全く見当たらない。
同番組は、今年・2022年6月に公開予定の、東京オリンピック公式記録映画の制作を進める河瀬らに密着取材した内容だったが、「(同番組の)取材と制作はすべてNHKの責任で行っている」とし、「河瀬さんらに責任はない」としている。では、捏造に使われた男性は一体誰がどこから連れてきたのか。そして、河瀬や、河瀬の依頼で五輪反対を訴える市民らを取材していて、当該男性にインタビューした映画監督の島田
角栄らは、なぜ自分達の取材とは異なる内容の番組が放送されている、という指摘・抗議を全くしていないのか。とても不自然としか言いようがない。
ちなみに河瀬は1/5にこんなやりとりをしている、と能町みね子が指摘している。これでも河瀬は捏造に関わっていないと考えられるだろうか。
この件で最も不利益を被っているのは、カネで参加者を動員したというデマを広められてしまった五輪開催に反対していた人たちだが、どこを見ても、NHKは五輪反対デモの関係者・参加者らの名誉の回復に言及していない。河瀬や島田には責任はないとし、迷惑をかけたと明確に言っているのに。NHKが一体どこを向いているのか、このようなことからもよく分かる。
によると、
堀岡淳局長代行は「男性は取材時『これまで複数のデモに参加して現金を受け取ったことがあり、五輪反対のデモにも参加して、お金を受け取る意向がある』と話していた。(再調査で)『五輪デモに参加はしていない』と言っているが、実際に出ていなかったかどうかは我々としては確認できていない。男性の記憶もあいまいだった」と話し、取材担当ディレクターのコミュニケーション不足、思い込みがあったとして「事実の捏造、ヤラセといったことではない。担当者の確認が不十分。(男性がデモに)参加したと思い込んで、字幕の一部に入れ込んだ」と説明した
のだそうだが、意図があったかどうかにかかわらず、ありもしないことを、事実であるかのようにつくりあげること、根も葉もない事をこしらえて広めることを捏造と呼ぶ。
つまりNHKは、事実と異なる内容の番組を放送したにもかかわらず、捏造の意図はなかった、捏造でなく字幕の一部に不確かな内容があっただけと矮小化し、だからWebサイトの目立つところにお詫びや訂正を掲載もせず、最も不利益を被った人たちへではなく、番組関係者に謝罪している、ということだろう。
こんなテレビ局が受信料を強制的に徴収して運営されているのだから、そんな国の将来は暗い。
NHKがデモに対する不適切な認識を組織的に持っていることは、この件からだけでなく、2020年6月に「これでわかった 世界のいま」という番組で、BLMデモに関して、デモに参加する黒人は暴力的、と言わんばかりの内容を放送したことからもよく分かる(2020年6/10の投稿)。
つまり、捏造の意図云々なんてのは些細なことで、もし本当に直接的に捏造の意図がなかったのだとしても、NHK内部にデモに対する偏見があること自体が問題だ。別の言い方をすれば、偏見に基づいて番組を作っているのだとしたら、それは捏造の意図がない、と言えるだろうか。
トップ画像には、イラストストック「時短だ」 – 時短に役立つ素材サイト の素材を使用した。