90年代のVR/バーチャルリアリティーブームの頃に思い描いていたバーチャルリアリティー像が、2010年代になってやっと現実になり始めた、ということについて2021年6/23の投稿で書いた。現在一般的になったヘッドトラッキング機能を持つヘッドマウントディスプレイは、2013年に開発者向けキットの出荷が始まった、オキュラス Rift DK1がその火付け役だった。
Riftは2016年に一般向け販売を開始し、同年には HTC Vive やPlayStation VR など同種のヘッドマウントディスプレイも発売された。
今ではPCやゲーム機などの母艦を必要としない、単体で動作するヘッドマウントディスプレイや、スマートフォンを使用する簡易型のヘッドマウントディスプレイなど、資金や用途に合わせて、かなり容易にヘッドマウントディスプレイを入手/利用できる環境がある。
また、眼鏡のような透過型の装置や、若しくはカメラとヘッドマウントディスプレイを組み合わせた装置によって、眼前に広がる現実の映像に仮想現実や様々な情報を融合させて表示するAR/拡張現実、更にはその拡張版である MR/複合現実、SR/代替現実、という概念も生まれ、それらはVRも含めて XR/クロスリアリティーと総称されている。
昨夜の DOMMUNE は、メタバースやXRに関する番組を配信していた。
au5G Presents「NEWVIEW DOMMUNE」Vol.9 <CHAPTER1> 「META歌舞伎 Genji Memories」〜古典芸能とメタバース、大衆芸能と受肉 - DOMMUNE
当然のようにAR/拡張現実にも触れており、また、1967年夏にアメリカ合衆国を中心に巻き起こったサマーオブラブ、1980年代にイギリスを中心に起こったセカンドサマーオブラブにも言及し、また1995年頃に始まった初期のWeb、そして00年代のWeb2.0、そして現在のXRなどのWeb3.0を、それぞれのコミュニケーション/コミュニティの転換期のような視点でとらえた話などもしていた。
DOMMUNE主宰の宇川
直弘は、サマーオブラブと開かれたようで閉じたコミュニティ、そしてその一部がカルト化していったことに言及していたのだが、サマーオブラブを初期のWebやWeb2.0と並べて論じていた。
これはそこから自分が連想したことだが、Web2.0に当たるSNSやYoutubeなどの動画投稿サイトなどにもカルトを醸成する要素はあった、というか現在進行形である。オウム真理教は90年代初頭にパソコンを販売していたりもした。そしてその懸念、つまりカルトを醸成する要素は、Web3.0になっても存在し続けるのではないか、と思えた。
たとえばARにはこんな懸念がある。次のムービーは番組の中で紹介されていた、AR/MRとはどんなものかを紹介しているムービーだ。
HYPER-REALITY - YouTube
スクリーンショットの画像のように、様々な場面で目に見える生の映像に様々な情報が書き加えられた映像が終始展開されていく。このような技術は、善意によって用いられたらそれはそれは便利なものだろう。実際には存在しない道案内が自分の眼前に絶対に間違わない程の分量で表示されたり、スーパーで手に取った商品の説明が瞬時に表示されたりする。しかし自分は、ここに悪意が加わったら、ということを想像せずにいられなかった。
このブログで頻繁に持ち出す作品・攻殻機動隊では、体の一部をサイボーグ化するだけでなく、脳を外部ネットワークと接続する為の電脳化という概念も登場する。所謂脳の半サイボーグ化のような設定だ。しかし外部ネットワークと脳が接続できるが故に、悪意を持った誰かに脳に侵入されて記憶を改竄されたり、意識を乗っ取られて行動を操られるなんてことも起きる設定になっていて、作中ではそれをゴーストハックと呼んでいる。攻殻機動隊におけるゴーストとは、その人の深層意識のような意味で、肉体だけでなく脳までサイボーグ化した人間の、人間たる最後の部分、本質のようなニュアンスだ。
押井
守監督による攻殻機動隊2本目の劇場版アニメ・イノセンスでは、イノセンスにおける主人公の1人であるバトーが、ヤクザの事務所に乗り込んだ際に、そこにいたチンピラ全員の視覚を瞬時にハックし、実際にはそこにいない自分の姿を認識させ、チンピラの裏をかくシーンがある。
しかし、そのバトー自身もゴーストハックをされて、ありもしない現実をあたかも現実かのように認識してしまい、行きつけの商店の店主を殺しかけてしまう、なんてことをやらかしている。これらは、現在の概念で言えば、本来実在しない人物や事象が実時間・実空間に存在しているかのように錯覚させる SR/代替現実 に該当する。
電脳化なんてのはまだ現実になっていないが、ARは一般化も目前という状況だ。ARが一般化した際に、使っているARグラスやHMDをハッキングされてしまったら、実際には存在しない現実を認識させられてしまう恐れがないとは言えない。視覚が知覚する映像を完全には書き換えられない透過型のARグラスであっても、たとえば間違った経路案内を表示したり、実際には信号は赤なのにARグラスの表示で青に見えるように書き換えるなどの方法で、事故を装った殺人なんてことも起こりかねない。
そこまで恐ろしいことが起きなかったとしても、ARを牛耳ることで、最も効果的にメディアマニピュレーション、つまり情報操作することが可能になるだろう。ARやMRは現実と仮想を組み合わせる技術なので、全くの仮想現実・VRよりもリアリティーを感じさせやすいだろうし、防犯と称して眼前の映像を、都合の悪い人や組織をあたかも危険度が高いかのように演出することも出来るだろうし、たとえば売りたいクルマなどだけを強調表示するなどの方法で、商品に関する印象操作も出来るのではないか。
そんなのは想像が過ぎる、という人もいるかもしれない。しかし、このブログでは何度も指摘しているように、今の日本の大手メディアによる報道は全くフェアとは言えず、その社会への影響は間違いなくある。オールドメディアでもそんな状態だし、前述したように、SNSや動画サイト等でも誹謗中傷やデマ、詐欺のような話が横行していて、そのような情報に無頓着に触れていたら、それを信じてしまう人も確実にいる。それは少なくとも日本における現実だし、多分程度の差はあれど世界中に似たような状況が存在しているだろう。
そんなことから考えたら、SNSや動画サイトなどで陰謀論をまき散らすカルトのような人たちがいるんだから、悪意を持った誰かがWeb3.0に関する技術をそれに悪用しない、なんて保障は全くどこにもない。
SNSや動画サイトだって、いやインターネット全般が、そこで目にするもの/ことが世界の全てだと錯覚してしまうような人を生む装置であり、それは広義の拡張現実世界とも言えるだろう。ARやMRのように、自分の眼前の映像と組み合わされる技術なら、更に感化される人は増えるのではないか。
そんな懸念を感じずにいられる程、既に現実は牧歌的な状況ではないし、それよりも何よりも、人間社会は遠い昔からずっと悪意に満ちているのだから。