スキップしてメイン コンテンツに移動
 

50年で変る社会と変わらない社会

 人は基本的に前例を踏襲する。昨日の行動に大きな失敗がなければ、今日も同じように行動すれば、昨日同様に今日も大きな失敗はしないからだ。しかし全て過去を踏襲するだけでは進歩はないし改善もない。たとえば、何か作業をする際にさらなる効率のよさを求めるなら、何かを変えないとそれには至らない。勿論何かを変えれば昨日しなかった失敗をする恐れもあるが、何も変えなければずっと同じところで足踏みすることになる

US Women's Soccer Reach Equal Pay to Men's in Historic Agreement - Bloomberg

 2016年に、サッカー米女子代表選手5人が、女子代表は好成績を収めているにもかかわらず男子よりも報酬が低いのは性差別にあたるとして、米サッカー協会に対して訴訟を起こした。2017年には、団体交渉によって米サッカー協会は待遇改善を約束するも、男子チームと同等の報酬・待遇は約束しなかった。2019年には、今度は米女子代表28人全員が米サッカー協会に対して性差別のついての訴訟を起こし、ロサンゼルス地裁は制度的差別を認めた。今年・2022年の2月にようやく和解が成立し、そして昨日・5/18に、ワールドカップを含む各大会で男子代表と同額の報酬、練習環境など同等の待遇を保証する労使協定が成立した。ワールドカップでの報酬が男女同額になるのは世界で初めてなのだそうだ。


 昨日の投稿でも触れたように、テニスには女子テニス協会というのがある。女子テニス協会が設立された背景には、1970年に当時の女子プロ選手が、全米テニス協会に対して男子との賞金格差の是正、プロモーション格差の是正を求めたのに対して、全米テニス協会が応じなかったから、ということがある。つまり、米サッカー女子代表の件は、1970年のテニス界における出来事と似ている

 1970年に起きたことが約45年後の2016年にもまた起きたということは、過去を踏襲する人間の性質、進歩の遅さを感じさせる。しかし、50年前の全米テニス協会は男女格差是正の要求に応じなかったが、現在の米サッカー協会は、時間はかかったが要求に応じたということでもあり、要求がなされてから6年もの時間がかかったものの、それでも50年前と比べたら進歩が見られる、とも言えるだろう。


 その歩みは遅くとも、それでも50年で進歩を見せる国・社会がある一方で、いつまでも男女格差が是正されない国もある。それは言うまでもなく日本のことだ。日本はいまだに、世界で唯一夫婦が別姓を名乗る自由を認めていない。全ての夫婦に別姓を強制するのではなく、別姓を名乗りたい夫婦は別姓、同姓を名乗りたい夫婦は同姓でよい、という制度が世界的には一般的で、そのような制度で深刻な問題が生じているという例はないにも関わらず、日本はいまだに世界で唯一夫婦に同姓を強制する国なのだ。実質的に女性が結婚と共に男性側の姓に変えなくてはならない状況だ。また、日本は WEF:世界経済フォーラムが毎年発表する国別に男女格差を数値化したジェンダーギャップ指数の2021年度版でも、調査対象となった156カ国の120位という順位だ。

ジェンダーギャップ指数2021、日本は120位 G7最下位は変わらず低迷 | ハフポスト NEWS


 ゆっくりとでも進歩する国や社会がある一方で、いつまでも進歩せず、21世紀になって既に20年以上が経つというのに、いまだに前世紀から進歩が殆ど見られない国もある。明治政府を成立させた人たちは、日本が欧米に大きく遅れているのに強い危機感を覚えた、と習ったが、戦前の日本を賛美する人たちは、現在の日本が他国に対して大きく遅れていても全く意に介さなどころか、遅れた価値観を称賛し踏襲しようとする。それなのに、その中には ”維新” なんて冠している羊頭狗肉の集団もある。
 1980年代の末に、日本は経済面では世界一の大国となったが、それから30年後の今日、経済大国としての日本は既に跡形もない。そして文化や精神の面では、日本は今も1990年代のままで、他国に大きな差をつけられてしまっている。



 トップ画像には、Free Football Image on Unsplash を使用した。

このブログの人気の投稿

同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになる

 攻殻機動隊、特に押井 守監督の映画2本が好きで、これまでにも何度かこのブログでは台詞などを引用したり紹介したりしている( 攻殻機動隊 - 独見と偏談 )。今日触れるのはトップ画像の通り、「 戦闘単位としてどんなに優秀でも同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになるわ。組織も人も特殊化の果てにあるものは緩やかな死 」という台詞だ。

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

優生保護法と動物愛護感

 先月末、宮城県在住の60代女性が、 旧優生保護法の元で強制不妊を受けさせられたことに関する訴訟 ( 時事通信の記事 )を起こして以来、この件に関連する報道が多く行われている。特に毎日新聞は連日1面に関連記事を掲載し、国がこれまで示してきた「 当時は適法だった 」という姿勢に強い疑問を投げかけている。優生保護法は1948年に制定された日本の法律だ。戦前の1940年に指定された国民優生法と同様、優生学的思想に基づいた部分も多く、1996年に、優生学的思想に基づいた条文を削除して、母体保護法に改定されるまでの間存在した。優生学とは「優秀な人間の創造」や「人間の苦しみや健康問題の軽減」などを目的とした思想の一種で、このような目的達成の手段として、障害者の結婚・出産の規制(所謂断種の一種)・遺伝子操作などまで検討するような側面があった。また、優生思想はナチスが人種政策の柱として利用し、障害者やユダヤ人などを劣等として扱い、絶滅政策・虐殺を犯したという経緯があり、人種問題や人権問題への影響が否定できないことから、第二次大戦後は衰退した。ただ、遺伝子研究の発展によって優生学的な発想での研究は一部で行われているようだし、出生前の診断技術の発展によって、先天的異常を理由とした中絶が行われる場合もあり、優生学的な思考が完全にタブー化したとは言い難い。

日本の代表的ヤクザ組織

  ヤクザ - Wikipedia では、ヤクザとは、組織を形成して暴力を背景に職業として犯罪活動に従事し、収入を得ているもの、と定義している。報道や行政機関では、ヤクザのことを概ね暴力団とか( 暴力団 - Wikipedia )、反社会勢力と呼ぶが( 反社会的勢力 - Wikipedia )、この場合の暴力とは決して物理的暴力とは限らない。

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。