テレビとは Television の略である。20世紀まで映像の伝送は、特に日本では電波で届けるのが主流だった為(ケーブルテレビもなかったわけではないが)、テレビとは狭義では地上波放送と衛星放送などのことを指す。また一般的に、地上波/衛生放送を受信するチューナーを備えた映像モニターをテレビと呼ぶ。
パソコン用のモニターもチューナーを接続すればテレビの代わりになるが、チューナーを搭載していないモニターは、一般的にテレビとは呼ばれてこなかった。PC用モニターとかディスプレイとか、単にモニターと呼ぶのが一般的だった。映像/音声編集などの現場では、映像出力機器だけでなく音声を確認する為の機器・ヘッドホンやスピーカーもモニターと呼ぶので、映像モニター/ブラウン管モニター/液晶モニターなどと呼んで区別したりもする。
Television とは tele-vision で、遠くの映像が原義であり、本来は電波による映像の伝送に限らないんだろうが、これまで、少なくとも日本では、テレビと言えば地上波/衛生放送を受信するチューナーを備えた映像モニターだけを指してきた。1990年代後半のブラウン管モニターがまだ主流だった頃からモニター一体型パソコンは存在し、ネットを介して映像を受信し鑑賞することも可能だったが、誰もそれをテレビとは呼ばなかったし、現在でも、ネット経由のライブ中継などで遠くの映像を見られても、モニター一体型パソコンのことをテレビと呼ぶ人はいない。一時期、TVチューナーを搭載したモニター一体型パソコンが流行したこともあったが、それはTVチューナー搭載パソコンであり、パソコン内蔵テレビと呼ばれてはいなかった。それはなぜかと言えば、多分テレビではなくパソコンの方が都合がよかったんだろう。放送法で、テレビ放送を受信できる設備を所有している人はNHKとの受信契約を必ず結ばなくてはいけない、ということになっている。雑な言い方をすると、テレビを持っている人はNHKに受信料を払わないといけない、ということである。本来はTVチューナー搭載パソコンだろうが、チューナーを搭載していてテレビを録画できるビデオデッキだろうが、それらもテレビ放送を受信できる設備に当たるので、NHKに受信料を払わないといけない。だが、「うちにテレビはない。パソコンしかない」と言い切る為には、パソコン内蔵テレビよりも(TVチューナー搭載)パソコンの方が都合がいい。
少し話がズレたが、ここで言いたいのは、日本では一般的に、地上波/衛生放送を受信するチューナーを備えた映像モニターをテレビと呼ぶ、長い間そう呼んできた、ということだ。言い方を変えると、地上波/衛生放送チューナー非搭載ならテレビではなく映像モニター/液晶モニターである、ということだ。
昨日の投稿で触れたようなNHKへの不信感を募らせる人は自分以外にも少なくないし、またNHKに限らずテレビ放送をもう殆ど見ないという人も少なくない。テレビは見ないが大型映像モニターとしてテレビを所有しているという人も増えていて、つまり、NHK受信料は支払いたくないがモニターとしてテレビは必要、という人がそれなりに増えている。その需要を裏付けるように、数年前から NHKの映らないテレビ なるものがたびたび話題になっているのだが、それはテレビではなく映像モニター/液晶モニター、もしくは簡易型のモニター一体型パソコンである。
自分の記憶が正しければ、NHKの映らないテレビ として最初に大きな話題になったのは、2018年7月にソニーが発売した 業務用4K液晶ディスプレイ・ブラビア BZ35F/BZシリーズ だろう。
「NHK映らないテレビ」と話題 ソニーから無線LAN機能やAndroid搭載した4K液晶ディスプレイ発売: J-CAST トレンド
この件については、2018年7/5の投稿でも書いた。そこでも、NHKの映らないテレビ という表現のおかしさについて指摘し、そんな表現を用いるのはレベルの低い媒体だ、と批判したが、その後も同様の機器が発売される度に、NHKの映らないテレビ という表現は用いられ続けている。
- 「NHKが映らないテレビ」誰でも安く実現する方法 - ITmedia Mobile
- ドンキからチューナー非搭載、約2万円のテレビが登場 いま「テレビ」に求められているものとは?|Real Sound|リアルサウンド テック
- ドンキ「NHK映らないTV」大ヒット 続く他メーカー、受信料徴収の行方は: J-CAST トレンド
良識的なメディアはさすがにそんな煽り文句のような表現を積極的に見出しにはしていないが、日本ではクロスオーナーシップによって大手メディアは皆民放テレビと何らかの関係があるし、NHKが映らないテレビは民放が映らないテレビでもあるから、積極的にそんな話題を盛り上げない、という側面もあるんだろう。
NHKの映らないテレビ、という言い方は妥当ではないと思うが、アップルが映像配信サービスやその端末にApple TVと名付けたり、GoogleがTV搭載向けのAndroid OSをAndroid TVとしていたりすることもあって、テレビ=地上波/衛生放送を受信するチューナーを備えた映像モニターという感覚は薄れ、簡易型のモニター一体型パソコンのことをテレビと呼ぶことへの抵抗もなくなってきているのかもしれない。
これについて考えたのは、毎日新聞 校閲センターが昨日こんなツイートをしていたからだ。
ツイートは、2019年の記事「粉でなくても「歯磨き粉」と呼んでいいか | 毎日ことば」を紹介しているが、今日でも、粉じゃなくても ”歯磨き粉”、しまうのは靴でも ”げた箱”、入れるのはペンばかりでも ”筆入れ” で問題ない、という状況に変化はないだろう。
そうなると、地上波/衛生放送用チューナー非搭載でも ”テレビ” と呼んで問題ない、という状況もいずれやってくるんだろうが、少なくとも今はまだ誤解を生む表現だし、NHKがPCやスマートフォンからも受信料を強制徴収することを画策していることを勘案すれば、テレビとは地上波/衛生放送用チューナーを内蔵していない映像モニターであり、それ以外はテレビではないので受信料の強制的な徴収の対象にならない、という姿勢は堅持しなくてはならないのではないか。
トップ画像には、靴 靴箱 ラック - Pixabayの無料写真 を使用した。