全米No.1! を謳うのは、映画宣伝の常套手段である。最早なんのありがたみもない、と言っても過言ではないだろう。一説によれば、1週でも1位になれば全米1位を謳えるそうだし、初日の興行収入が1位なだけで全米No.1を標榜する場合もあるそうだ。
更に言えば、全米ミステリーNo.1みたいに、その映画のジャンル限定でNo.1を謳うケースもある。つまり極端に言えば、特異なカテゴリ設定・ライバルを排除できる条件設定をするなどの方法で、どんな映画だって全米No.1になれる、ということのようだ。
今日のトップにしたのは、2020年2月に公開されたソニックザ・ムービーの宣伝映像のスクリーンショットである。
映画『ソニック・ザ・ムービー』特別映像<全米No.1大ヒット!!> ※日本公開延期/近日公開 - YouTube
wikipedia によれば、同作品は「アメリカとカナダにおいて、コンピュータゲーム映画の最大の公開週末記録を樹立した。全世界で3億1,970万ドルの興行収入を記録し、2020年に公開された映画の中で第6位、北米でのビデオゲーム映画化作品の中では歴代最高の興行収入を記録した」そうだ。だが、この日本向けの宣伝映像がYoutubeで公開されたのは2/19で、北米での公開日・2/14から1週間も間がない。つまり恐らく、アメリカとカナダにおいて、コンピュータゲーム映画の最大の公開週末記録を樹立、という部分だけで全米No.1大ヒットを謳っている、ということである。
ソニックザ・ムービーの場合は全米No.1を謳ってもそんなに強い違和感はないが、しかしこの宣伝映像の中のいくつかの謳い文句には、違和感があるものもある。たとえば「世界中で大ブームのソニック」については、最初のゲームが発売された直後とか、続編が大ヒットした直後などならうなずけるものの、映画の公開時点では決して世界中で大ブームとは言えない状況だった。それは「子供に大人気のソニック」「日本中に大旋風を巻き起こす」なんかも似たようなものだ。明らかに大袈裟である。
ソニックザ・ムービーに限らず、映画に限らず、このような大袈裟な宣伝文句はよく見かけるので、感覚が慣れてしまっていて、それはツッコみを入れて笑うもの、程度にしか自分は思っていない。だが、実態とかけ離れていても明確な嘘でなければOKみたいな宣伝広告業界の感覚は詐欺まがいで、絶対的に誠実でない、という気もする。
5/17にNHKが、〇〇No.1に関するこんな記事を掲載している。
信じてますか No.1 | NHK | WEB特集
WEB上の広告における〇〇No.1について、怪しい謳い文句が多いということに関する内容で、広告会社や広告主がどうやってそれを正当化しているのか、のカラクリも紹介している。
記事の中には「No.1を信じて買った」という人が出てくる。個人的には、あからさまに怪しい謳い文句を信じる方もどうかと思うのだが、それらしい謳い文句で優良誤認を誘う方に、圧倒的に問題があることは間違いない。映画のところでも触れたように、宣伝する商品やサービスなどがNo.1になるような条件を自ら設定して、それでNo.1を謳うのは明らかに印象操作だ。
しかし、このNHKの記事を見て真っ先に、信じてますか No.1 という特集を組むなら、信じてますか NHK報道 という特集もやったほうがいいのではないか? と強く感じた。このブログでも複数NHKの不誠実な姿勢を指摘してきた。直近では、五輪反対デモ参加者は金を支払って動員されていた、のような放送をやったこと、2019年には実態を伴わない景気回復を「戦後最長」と謳い続けていたことなど。
NHKの不誠実な姿勢・印象操作としか思えない表現が、時には政府に都合の悪い方向性であるなら、単に報道のレベルが低いだけなんだろうが、不誠実な姿勢や印象操作は大抵政府に利する方向・政府にとって都合のよい方向で発揮される。癒着・忖度を強く疑うのは当然だろう。
そのような姿勢はNHKに限らずほぼ全ての大手メディアに見られる。たとえば、自分は在京キー局や全国紙よりも、東京新聞の方がマシだと思っているのだが、東京新聞でも政府に都合のよい方向性の印象操作をやることがある。たとえばこの記事だ。
<コロナ1週間>全国の重症者、第6波ピークの10分の1に 20代の新規感染者は増加:東京新聞 TOKYO Web
この記事は内容にはそんなに大きな問題はなさそうだが、問題なのは見出しである。東京新聞は、以下のグラフが示すような状況で「全国の重症者、第6波ピークの10分の1に」という表現を見出しに選んでいる。
この状態で、「どうにか全国レベルの感染状況は落ち着きを見せている」と言った自民党の茂木(2022年5/16の投稿)よりはマシかもしれないが、明らかに状況は第6波が始まったとされる2022年2月以前よりも悪いのに、なぜ6波のピークと比べているのか、しかもいくつかの指標の中で、もっともマシに見える重症者数に注目したのか。それは多分、記事を読まずに見出しだけしか見ない人が多いことに鑑みて、嘘ではないがもっとも状況がマシに感じられる表現を見出しに選んだ、のだろうと思えてならない。
なぜそんなことをするのか。今政府と自民党は、前述した茂木のように、現在の感染状況は収束傾向にあることを過剰に強調している。マスクを必ずしも着ける必要はない、というアナウンスも頻繁に行われている。数ヶ月後に参院選を控えているので選挙対策として、自民政府の感染対策が功を奏している印象を高めたいからだ。実態は2月以前よりも明らかに状況が悪いのに。
東京新聞の当該見出しはそんな政府や与党の意向に忖度したもの、もしくは癒着した記者や関係者の仕業、と疑いたくなるのはそんなにおかしいことだろうか。
こんなふうに、公正な報道をしないメディアが詐欺まがい広告の不誠実さを指摘・批判したところで、お前が言うな、でしかない。