いじめを受けていることを先生や学校に相談したら、先生・学校・教育委員会ぐるみでいじめをなかったことにしようと画策された・隠蔽されたとか、先生がいじめに加担していた、主体的にいじめを先導していたとか、そんな話を聞く度に、いじめがなくならないのは当然だ、と再確認させられる。
学校という閉鎖的な空間で、本来は被害者を守ってくれる存在であるはずの先生や学校や教育委員会に、いじめについて相談したらそれをもみ消そうとする、なんてことがあったり、先生がいじめに加担する・主体的にいじめを先導する、なんて話がしばしば聞こえる状況で、いじめを受けていることを先生や学校や教育委員会に相談しよう、と一体誰が思うだろうか。
勤め先の人事部などに上司のパワハラ/セクハラを相談したら、相談を受けた側が相談者の情報を加害者に漏らし、更にハラスメントが酷くなったとか、家庭内暴力やデートDV、ストーカー被害などを役所に相談したら、役所の職員が相談者の情報を相手に漏らし、それが原因で更に被害が拡大したとか、場合によっては逆上した相手によって被害者が殺された、なんてのも似たような話だ。それで誰が、相談したら状況が改善する、と思うのか?
という話でしかない。
そんなことが頻繁に起きれば、被害者が、いじめやパワハラ/セクハラ、家庭内暴力やストーカーの被害を受けても泣き寝入りするしかない、という思考になってしまうのは当然だ。
電車で痴漢容疑の警視庁の警部補を不起訴 東京地検 | TBS NEWS DIG
4月に電車内で女性の尻を触った疑いで逮捕された警視庁・亀有警察署の30代の男性警部補について、東京地検は警部補を不起訴とした。東京地検は不起訴の理由を明らかにしなかった。小田急線の車内で20代女性の尻を触ったとして、女性の知人男性が成城学園前駅で当該警部補を取り押さえ、駆けつけた警察官によって現行犯逮捕された、という事件で、逮捕当時男性警部補は酒に酔っており、「触っていない」と容疑を否認していた。
不起訴になる場合の理由は大きく分けて2つある。1つ目は、裁判にかけるまでもなく明らかに犯罪でない、嫌疑を完全には否定できないものの証拠に乏しいなど、犯罪行為があったとは言いにくい場合だ。もう1つは、親告罪に関して告訴が取り下げられた、犯罪行為があったのはほぼ確実で証拠もあるが、被害者との間に示談が成立しているなど更生の可能性が高く起訴猶予処分が妥当と判断されたなど、犯罪行為がなかったとは言えないが、何らかの理由で起訴が見送られた場合だ。
簡潔に言えば、不起訴処分には、犯罪行為があったとは言えない/言いにくい場合と、犯罪行為があったのはほぼ確実な場合の、2つのケースがある、ということだ。
この警視庁の警部補による痴漢の事案では、不起訴になった理由が明かされていないので、どちらのケースなのかが分からない。考えられる理由は、
- そもそも痴漢行為の事実がでっち上げだった
- 痴漢行為はあったかもしれないが証拠が揃わなかった
- 痴漢行為があったのは確定的だが、被害者との間に示談が成立した
- 検察が実質的な身内である警察に甘い判断をした
などだろう。1-3のような理由であれば、不起訴の判断は妥当と言えるだろうが、実際は痴漢行為があって罪に問うべきなのに、身内である警察官に対して甘い判断が下された、の4であれば、警察などの捜査機関は公平な対応をしないから、痴漢被害を相談する気になれない、しても意味がない、と被害者が思ってしまう原因になりかねない。
今回の件ではどんな理由で不起訴になったのかが明かされていないので分からないが、不起訴理由が明かされていないということは、4のような理由で不起訴になっている恐れを否定できない、ということでもある。もしかしたら被害者への配慮から不起訴理由を明かさなかったのかもしれないが、被疑者が警察官であることを考えたら、不起訴理由は明確にするべきではないのか。
そう考える大きな理由は、痴漢被害者の9割が泣き寝入りしている、というデータがあるからだ。福岡県警が2021年の2-3月に行ったアンケートの結果では、「痴漢の被害に遭った後どうしたか」について「誰にも相談していない」が42.7%だった。「警察に通報した」は5.1%、「駅員に通報した」は6.1%しかなく、約9割が警察にも駅員にも通報していなかった。
こんな状況なのだから、警察には通報しやすい/相談しやすい状況を作る責任がある。警察官に痴漢の嫌疑がかけられた事件が不起訴処分となり、その理由を伏せるというのは、それに逆行する。起訴/不起訴を判断するのは検察であり警察ではない、というのも事実ではあるが、警察から検察に不起訴の判断を下した理由を明かすように要望したほうがいいのではないか。癒着を疑われたくないなら。捜査機関としての信頼を失いたくないなら。
付け加えると、6/7の投稿で書いたように、性犯罪事件について、裁判所が被害者が「大声で助けを求めなかった」ことを理由に「同意がなかったとは言えない」という判断を示してもいる。こんな状況では、誰にも相談せず泣き寝入りする人が9割にものぼる、のも当然だろう。警察に相談しても握り潰されるかもしれない、裁判になっても判事がおかしなことを言い出すかもしれない、と思ったら、誰かに被害について相談しようと誰が思うだろう。相談したら問題が解決すると思うだろう。