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入管難民法に関する、維新・足立議員の合理性に欠けた認識


 秋の臨時国会で最も注目された入管難民法改正案は、立案の前提となった、法務省がまとめた外国人技能実習生に関する統計に複数の不備が明らかになったにも関わらず、法案の根幹をなす部分は今後省令等で定めるという内容に殆ど修正が加えられないまま、自民・公明・維新議員らの賛成多数で可決成立した。11/28の投稿「自公維の議員たちは、特殊詐欺に騙されるタイプ」、12/10の投稿「入管難民法改正案を成立させたのは、安倍政権でなく日本の国民」等でも書いたが、外国人技能実習制度に関して、国内外から指摘されている問題を軽んじた統計をまとめた、厳しく言えばデータを都合よく恣意的に解釈し捏造した、都合の悪い要素を隠そうとした法務省が、今後外国人労働者の権利を重視した省令を定めるとは思えないし、政府が適切な運用を行うとも思えない。そんな疑念よりも法案の可決成立を優先させた与党・自公と名ばかり野党・維新の議員たちは、審議の対象となった法案を吟味し精査するという国会議員としての役割を放棄した言っても過言ではない。


 朝日新聞の記事「技能実習生、8年で174人死亡 「不審死多い」と野党」によると、法務省は12/13に、外国人技能実習生が2010-17年の8年間で174人死亡していたと野党合同ヒアリングで明らかにしたそうだ。労災認定された作業中の事故だけでなく自殺や交通事故死などもこの死亡者数には含まれているそうだが、自殺の理由には過重労働によるストレスの場合も含まれるだろうし、交通事故死の背景に過重労働による体調不良・注意力欠如があった場合もあるだろう。記事によれば野党側は、婦人・子供服製造業で働いていた女性実習生が、海や川などで泳ぐ機会が少ない1月に溺死した例を挙げ「不審死が多い」、病死の場合も「過労死が疑われる」等と指摘したそうだ。

 この件についてはNHKも「外国人技能実習生ら8年間で174人死亡 法務省」という見出しで報じている。


朝日新聞の記事に比べるとやや詳細に関する記述が少ないが、論調には概ね差がない。このNHKの記事を引用したツイートを日本維新の会・足立議員がしている。



 このツイートに関する疑問・懸念は2つある。まず「母集団も併せて、しっかり報道しようよ。」とは一体どういう意味だろうか。彼が言っている母集団とは、8年間でどれだけの外国人技能実習生がいたかという事を指している可能性が高い。というかそれ以外の解釈は難しい。つまり「何人中174人が死んだのかも報道しろ」と彼は言っているのだろう。Wikipediaの技能実習制度・関連統計の項には、
 「法務省出入国管理関連統計」によると、在留資格「技能実習1号」の新規入国者数は2013年68,814人、2014年84,087人、2015年99,157人、2016年106,118人、2017年127,671人と年々増加している。
とある。足立氏は恐らく「数十万人単位の実習生の内の174人が死亡した、というのが適切な報道ではないのか」と言っているのだろう。
 果たして174人が死亡した事に関して、数万人規模の分母に対しての死者数という事は重要な点だろうか。確かに数万人という母数を把握することは、問題の重大性・深刻度を判断する為には必要な情報かもしれない。そして174人/数万人という死者数の割合は、純粋な病死・事故死者数であれば足立氏の示唆するように、過剰に問題視するような数字ではないのかもしれない。しかし外国人技能実習生度に関しては、7割の事業所で労基法違反があると厚労省が認めている(毎日新聞の記事)。そのような点や不審な死亡案件が含まれている事を勘案すれば、母数に対する死者数・割合で問題の重大性が大きく変わるとは思えない。つまり母数が数万だとしても、174人が死亡したのは紛れもない事実で、死者数の割合が低いから重大性も低いとは到底言い難い。足立氏の主張は、
 日本の人口は約1億2000万人いるのだから、年間数百人程度が他殺によって死亡していてもそれは仕方のない事で、問題視する必要性は薄い
のような話だ。恐らく彼にこのような指摘をしたところで、「そんな意図はない」と言うだろう。ならば、どんな意図だったのか合理的な説明をして貰いたいし、というか、彼は国会議員という影響力のある立場且つ主張・言論を生業とする者なのだから、このツイートをする時点で意図を明確にしておくべきだ。

 次は「もちろん、技能実習制度が酷かったのは事実だけど、それは民主党政権でも自公政権でも同じ。」に関して。恐らく彼は「技能実習制度に欠陥があるのは事実だが、民主党政権当時も同じような指摘があったにも関わらず、彼らはそれを正さなかった。正さなかった元民主党の議員たちが、自民党政権の同様の対応を批判するのはおかしい、自分たちを棚にあげるな」のような事を言いたいのだろう。
 確かに彼の言う通り、民主党政権時にも外国人技能実習制度に関する懸念は既に示されていたし、民主党政権がそれに目立った対処をしなかった結果、今も問題が解消されていないというのも事実だろう。しかしそれは言い換えれば、民主党政権と同様の不適当な対処(というか対処をしないという姿勢)を自民党政権も引きついでいるという事でもある。つまり現自民党政権は評価の低かった民主党政権と五十歩百歩のレベルの低さだという事になりそうだ。
 彼は維新の議員だから「自民政権も民主政権同様にレベルが低い」と言いたいのかもしれないが、民主政権当時よりも議席を更に減らしている維新への評価は、自民党や、民主が分離した現野党勢力よりも更に低いということではないのか。元民主党の議員らが現自民党政権を批判するのがおかしいなら、民主党政権当時よりも大きく議席を減らしている維新の議員は自民党批判も元民主勢力の批判も出来なくなるのではないか。
 なにより、程度の低い存在と比べて自分たち(この場合厳密には自分が支持した側)がマシだと誇示する行為は、自分たちよりレベルの低いものと比べて満足しているだけの、自慰にも等しい行為としか言いようがない。レベルの低さを争っても仕方がない。


 とても残念なのは、入管難民法改正案に賛成した議員が、こんなに合理性の低い認識に基づいて判断を下しているということだ。足立氏はこれまでに何度も国会内外で暴言を吐いて批判されている。にもかからわらず国会議員を続けられているということは、彼の支持者は彼の振舞い・認識を概ね容認、というか称讃すらしているのだろう。つまり彼と同じような考えの人達が、彼を議員にさせられるくらいは日本に存在していることになる。このような議員やその支持者らに対しては、批判・懸念を示し続ける必要がある。それをしない・止めるようであれば、国外から見れば「日本人はそのような人物が議員でも何も思わない人達」のように見えてしまうだろう。

 おかしい事をおかしいと言わないのは、いじめを傍観する行為と似ている。 「いじめを傍観するのはいじめに加担するのに等しい」と多くの日本人は教えられて育っているはずだ。

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