お笑いコンクール、所謂賞レースというのは、上方漫才大賞やNHK新人演芸大賞など、1950-60年代から存在しているが、その多くは関西を中心に行われていた。昨今は全国規模のお笑いコンクールが複数存在し、どれも相応の注目・盛り上がりを見せているが、全国規模のお笑いコンクールがここまで盛り上がりを見せるようになったきっかけは、2001年にM-1グランプリの開催が始まったことだろう。M-1グランプリは漫才に限定したお笑いコンクールで、その後コント縛りのキングオブコント、ピン芸人縛りのR-1グランプリ、2017年からは女性芸人限定のThe Wなども開催されている。
M-1グランプリは2010年に一旦その開催を終了したが、翌2011年からはその後釜コンクール・The MANZAIが始まった。しかし2015年にM-1グランプリが復活したことを受けて、現在のThe MANZAIはお笑いコンクールではなくお笑いネタ番組になっている。
昨日の投稿では、日本の有名人がなぜ政治的な姿勢を表明することに対して消極的なのか、その理由について自分の考えを書いた。詳しくはそちらを読んで貰いたいが、掻い摘んで言えば、日本では中立性を重視し過ぎるあまり、教育の現場で政治的な話を避ける傾向が強く、社会全体にも政治的な話をタブー視する傾向が少なからずあり、その影響からか有名人が政治的な姿勢を表明すると、内容の批判に留まらず誹謗中傷を受けるような事態がしばしば起るので、有名人が政治的な姿勢を表明するのに消極的になりがちなのではないか、と自分は考えている。
しかし、ワイドショーなどに出演して政治分野を含む時事的な問題への所感を表明するタレント・芸能人も実際はそれなりにいる。また、アメリカではコメディアンが話すネタとして、政治批判は大定番なのに、日本ではその手の芸人が少ないという指摘があるが、例えば老舗のお笑い番組・笑点の大喜利のコーナーでは、出演者の落語家らはしばしば政治批判ネタを織り交ぜるし、人気コンビの爆笑問題は時事ネタ漫談で有名だ。また、テレビではあまり取り上げられないが、有名政治家のモノマネタレントは一定数存在し、そんな芸人によるコントグループ・ザ ニュースペーパーは、主に国内外の政治を風刺するネタをコンスタントに作り続けている。
時事ネタで近年話題になったのは、2017年のThe MANZAIでウーマンラッシュアワーが披露した漫才だ(朝日新聞の記事)。ウーマンラッシュアワーは村本 大輔さんと中川 パラダイスさんのコンビで、村本さんがマシンガンのように早口でまくし立てるスタイルが特徴的だ。2013年にThe MANZAIで優勝したことで注目され、中川さんはアブノーマルキャラ、村本さんはクズキャラをウリにして活躍の場を広げた。村本さんのクズキャラの構成要素の1つに、よくも悪くも空気を読まずに過激な発言をするという面があったが、2016年の参院選後「投票に行ったことがない」「オレに投票する意味を教えてくれ」などとAbema TVの番組で述べるなど、政治に関しても良くも悪くも空気を読まない、つまり物議を醸しやすい、というか恐らく物議を醸す事を目的とした主張をしてきた。前述の件の前後から、彼は政治に物言う芸人として注目を浴び始め、芸風にもそれが反映され始めた。その芸風を前面に出したネタを、全国的に注目度の高いネタ番組・The MANZAIで披露したことで更に注目度が高まった、というのがその経緯だ。
今年・2018年のThe MANZAIでも彼らは同様のネタを披露し、そのネタは再び注目を浴びた。彼はクズキャラをウリにしている影響で、というか実際の人柄の影響かもしれないが、好き嫌いが比較的明確に分かれるタイプの、万人受けするタイプとは決して言えない芸人で、だからかもしれないがウーマンラッシュアワーがThe MANZAIで披露したネタや、村本さんの政治姿勢には賛否両論がある。確かに自分も彼の政治的な姿勢には共感出来ない部分はある。しかしそれは彼に限った話ではなく、所謂有識者と言われるような学者・ジャーナリスト・評論家にも同じことが言える。そもそも全ての考えが全く同じという人など、恐らく短い人生の中で出会う事はないだろう。
昨年のウーマンラッシュアワーのネタにも今年のネタにも、「漫才として面白くない」という声があった。確かに自分も彼らのネタはゲラゲラ笑えるタイプのネタではないと思う。しかし、お笑いネタはゲラゲラ笑えるものばかりではない。ニヤッとさせられるよくできたネタもあるし、ブラックな風刺ネタ等、ニヤッとすらできないが強く関心させられるものもある。「お笑い」という字面に引っ張られると「笑えないと意味がない」と思い込みがちだが、彼らのネタは「物議を醸す」ことを目的としているのだろうし、その思惑通り物議を醸す事に成功しているのだから、自分は「笑えないが面白いネタ」だと思う。
NHKは12/22に時事ネタ王2018 ニュースVS芸人という番組を放送した。個人的に、恐らく2017年のThe MANZAIでのウーマンラッシュアワーのネタが注目された際に、芸人ではなくテレビ局に時事ネタを敬遠する傾向がある、というような批判が一部であったことなども勘案して企画された番組なのだろうと推測する。自分は、12/1の投稿でも示したように、昨今のNHKの報道にやや不信感を抱いており、この番組にも報道局が関わっていたようで、時事ネタと言えども国内政治ネタが排除されているんじゃないか?なんて心配しながら見ていた。披露されたネタ・テーマは、
- かまいたち - スポーツ界のパワハラ・不祥事
- カミナリ - 東京医科大 不正入試
- ハナコ - 米中貿易摩擦
- 横沢夏子 - 仮想通貨流出
- アルコ&ピース - 米朝首脳会談
- 三拍子 - 財務省 決裁文書改ざん
番組で審査員を務めた茂木 健一郎さんは、2017年2月に「日本のお笑い芸人たちは、上下関係や空気を読んだ笑いに終止し、権力者に批評の目を向けた笑いは皆無。後者が支配する地上波テレビはオワコン」とツイート、さらに「日本の『お笑い芸人』のメジャーだとか、大物とか言われている人たちは、国際水準のコメディアンとはかけ離れているし、本当に『終わっている』」ともツイートして、事実に反するという批判を受けた人物だが、その人物が番組の中でこの発言は誤りだったと発言しており、それはある意味で番組の「忖度はありません」アピールのようにも思えた。確かに出演者らのネタは他国・各界の権力者に忖度せずにブラックジョーク的な風刺をきかせた内容と思えたが、国内最大の権力・政権への批判ネタが皆無で、つまり政権批判ネタ自体を取り上げなかったという意味では、茂木さんのツイートを地で行くような内容だったようにも思う。また、批判を受けた事の影響で茂木さんも忖度するコメントをしたようにも見えた。つまり、オワコンという表現はよくなかったかもしれないが、実際に茂木さんのツイートが間違ってはいなかったことを、この番組が証明してしまったようにも思う。
ただ、この番組の企画は今回が初じめてだったので、今後2回目、3回目があれば、今回たまたま政権批判がなかっただけという事が分かるかもしれない。茂木さんは番組内外で「毎週やるべきだ」とも述べており、自分もそうなることを期待する。もし、たまたま今回政権批判がなかっただけなら、政治の話をタブー視しがちな日本社会の傾向を変えるような、とても有意義な番組になると自分には思える。毎週でなく月1でもいいし、半期に1度でも構わない。是非とも今後も番組を続けて、今回たまたま政権批判ネタがなかっただけだと証明して欲しいし、気軽に政治の話が出来るような空気を後押しして欲しい。付け加えておくが、勿論政権批判だけでなく政権賛美ネタもあっていいだろう。