昨日の投稿でも取り上げた、首相の「悪夢のような民主党政権」という発言。ハフポストの記事によると、昨日の衆院予算委員会で民主党代表を務めたこともある岡田 克也議員が、当該発言の撤回を求めたのに対して、安倍氏は
言論の自由がある。少なくともバラ色の民主党政権でなかったことは、まあ事実なんだろうな、とこういう言わざるを得ないわけでありますと述べ、撤回を拒否した。 しかし一方で、今日の予算委の中で安倍氏は、従軍慰安婦問題に関して韓国国会議長が「首相、もしくは近く退位する天皇が元慰安婦のおばあさんらの手を握り、謝罪の言葉を伝えれば(問題は)すっきりと解決する」という旨の発言をしたことに関して(産経新聞の記事)、
この発言を読みまして、本当にこれは驚いた。強く抗議をするとともに謝罪と撤回を求めたところですと発言したそうだ(TBSニュースの記事) 。自分の「悪夢のような民主党政権」発言を言論の自由を理由に抗議は不当だとし、撤回を拒むようであれば、韓国国会議長の発言についても彼の言論の自由を尊重する必要があり、撤回も求められなければ、抗議も出来ないのではないだろうか。
そもそも、株価が上がろうが失業率が改善しようが、長い間実質賃金が上がっていない状態では景気回復なんて到底実感できず、「少なくともバラ色の安倍政権ではないのは事実なんだろうな、とこう言わざるを得ない訳であります」でしかなく、彼の主張はいろいろ的外れだ。
また、安倍氏が言論の自由を主張すること自体も滑稽である。
昨日の予算委員会では、首相官邸が東京新聞の女性記者の質問行為を制限する申し入れを行った件(ハフポストの記事)に関しての指摘が、菅 義偉官房長官に対して向けられた(東京新聞の記事)。首相官邸は官房長官記者会見での東京新聞の記者による普天間飛行場の辺野古への移設工事に関する質問を「事実誤認」だとして問題視しているそうで、菅氏は昨日の予算委でも同様の見解を繰り返した。しかしこれまで会見の中で、官房長官は何がどう事実誤認なのかを具体的に指摘していないようだし、個人的には当該の会見を見ても、明らかな見当外れ・事実誤認に基づく質問が東京新聞の記者によってされていたとは思えない。つまり、もし質問の内容に事実と異なる部分があるようならば、回答でそれを指摘すればいいだけで、質問を制限する申し入れを行うなんてのは、記者の取材や表現の自由、国民の知る権利を害する恐れがあるのではないのか。
予算委の中で安倍氏はこれに関して発言を求められ、
知る権利は大切なもので尊重しなければならない。内閣の要の人物が一日二回(記者会見を)やっているのは他の国に例がないだろう。こちらも最大限の努力をしていると理解してほしいと、見当違い、というか意図的に論点をずらしているであろう答弁をした。会見をいくら頻繁に行おうが、都合の悪い質問に応えないどころか、質問をさせないようでは何の意味もない。
こんな事を言う人が「言論の自由」を主張するのには矛盾がある。そもそも言論の自由や表現の自由とは、市民が権力者の行き過ぎを抑制・牽制する為に生まれた概念であって、国一番の権力者が「自分にも言論の自由がある」なんて主張するようでは、それを理解出来ていないと言わざるを得ない。恐らく安倍氏に言論の自由に関する適切な知識はなく、「言論の自由とは思った事をなんでも言ってもいい、何を言っても誰にも批判されない権利」などと勘違いしているのだろう。しかし彼は前述のように、今日の予算委で韓国国会議長の発言の撤回を求めたそうなので、更に歪曲して都合のよく解釈し、「自分や自分側の主張に対してだけ言論の自由が認められる」と勘違いしているのかもしれない。勿論これは勘違いで済むような話ではない。日本の有権者はこんな者を国のトップに据えていることを恥ずべきだ。
菅氏の「事実誤認」という話もまた矛盾に満ちている。彼は特定記者の質問を制限しようとした理由に関して、
事実に基づかない質問に起因するやりとりが行われると、内外に誤った事実認識が拡散される恐れがあり、会見の意義が損なわれると述べた(産経新聞の記事)。しかし、昨日の投稿でも触れた首相の「都道府県の6割以上が新規隊員募集への協力を拒否している悲しい実態がある」という発言に対して、菅氏は一切「内外に事実誤認が拡散される恐れがある」という見解を示していない。 またNHK・日曜討論の中で、安倍氏が普天間飛行場の辺野古移設工事・土砂投入に関して、「土砂投入に当たって、あそこのサンゴは移植している」と述べた事(1/8の投稿)についても、「内外に事実誤認が拡散される恐れがある」という見解を示していない。
安倍氏も菅氏も、何につけても、自分達だけに都合のよい解釈に基づく論を恥ずかしげもなく繰り広げる人である事がよく分かる。更に言えば昨日は、映画・麻雀放浪記2020の国会議員の麻雀議連限定試写の際に、東京五輪が中止になる設定にクレームがつけられたとして、主演の斎藤 工さんが 「(公開中止になる可能性が)あります」と述べた(デイリースポーツの記事)と報じられたが、首相が言論の自由の重要性を説くのであれば、こんな案件にこそ率先して、真っ先に苦言を呈すなり相応の対応をするなりしなくてはならないのではないか。勿論そんな見解を示したという話は一切聞こえない。
首相や官房長官が、様々な歪曲を駆使して自分達の主張ばかりを強調し、他者の主張の機会を制限するような傾向にあることは、昨日指摘した、首相が嘘をついてまで「改憲しよう」と叫ぶのと同様、或いは更に異様であると考える。このような状況に関して、いとう せいこうさんが、
とツイートしていた。このような捉え方も決して大袈裟ではないのではないだろうか。権力者が言論の自由を持ち、表現者から表現の自由を奪う。諸君、現在目の前にあるのがファシズムだ。— いとうせいこう (@seikoito) 2019年2月12日