2/12の投稿や2/15の投稿でも触れた、安倍首相が党大会で「都道府県の6割以上が新規隊員募集への協力を拒否している悲しい実態がある。この状況を変えよう。違憲論争に終止符を打とう」と発言したことに関して、産経新聞は2/18の社説・主張「【主張】自衛官募集問題 どちらがフェイクなのか」で、
朝日新聞や野党などは自治体の「約9割が募集に協力している」として、首相の発言は間違いだと批判している。とした。 そう示した根拠は、首相が示した根拠と殆ど変わらない内容で、
だが、安倍首相のほうがファクト(事実)を指摘し、朝日新聞や野党などがフェイク(偽り)を語っているのではないか。
本気で言っているのか。紙か電子媒体を出せば済むのにそうせず、募集業務担当の現場の隊員に膨大な作業を強いた。こういう振る舞いを協力とは言わない。募集に関する業務をサボタージュしていると言われても仕方ない。としている。この調子だと産経新聞は、防衛費の増額に異論を呈すと「国防に協力的でない」とか、今後将来的に徴兵制法案が議論されるような事があれば、反対をすると「協力的でない」という論調の記事を書くんだろうと思える。つまり、産経新聞は今後、戦中の大本営発表だけをそのまま報じる、というか進んで更に強調した記事を書くような媒体なんだろうと感じる。
都道府県の6割以上が新規隊員募集への協力的なのかそうでないのかについて、協力的だというのがファクトで、非協力的だというのがフェイクとは言えない。勿論その逆も然り、という事に関しては2/15の投稿でも書いた。いつもならそちらで読んでとするところだが、大事な事なので再掲する。まず、現状がどんな状況かと言うと、2017年度は、防衛省が自衛隊員募集の為に住民基本台帳の18歳/22歳(社会人直前の年齢)の名簿提出を各市町村に求めたのに対して、4割が応じ、個人情報保護に関する条例などを勘案して抽出名簿の提出には応じなかったが台帳の閲覧には対応した自治体が5割、1割が閲覧も認めなかったという状況だったそうだ。これについては岩屋防衛大臣も認めている。つまりファクトは、
である。この情報から何が協力的で何が非協力かを評価してもそれはファクトではなく、単なる個人の主観による評価でしかない。つまり、
このどちらがファクトでどちらかがフェイクだと断言することは出来ない。どちらの見解・評価を支持するとか、どちらの評価がより整合性が高いかを論じる事には大きな問題はないかもしれないが、どちらかが絶対的に正しい見解でもう一方が圧倒的に間違った捉え方とまでは言えないようなレベルの事について、一方の見解がファクトでもう一方がフェイクだと言うようであれば、その主張こそがファクト・事実に即しておらず、つまりフェイク・事実に反する話だろう。言い換えれば安倍氏や産経新聞はファクト・事実の意味を正しく認識できていない、もしくは歪曲して、恣意的に解釈しているとしか言えない。
またこの社説の中には、
憲法9条を根拠に、多くの憲法学者が自衛隊違憲論を唱えている。という文言もある。しかし現在、自衛隊違憲論が大きな盛り上がりを見せている状況とは到底言えず、「多くの」とは一体どの程度の割合の事を指しているのかも定かでない。つまりこれもファクトとまでは言えないような程度の話である。 ファクトやフェイクに関して論じ、ライバル視する朝日新聞の事をフェイクだとまで言うようであれば、どの程度の割合の憲法学者が自衛隊違憲論を唱えているかぐらい調査してから、それについて触れるべきではないのか。
しかも、産経新聞の社説では各自治体に個人情報保護に関する条例が存在し、各自治体がそれを前提とした対応をしている可能性には一切触れておらず、まるで、地方は有無を言わさず中央に従え的な事を言っているかのようでもある。更に、東京新聞は2/17に「首相「自衛官募集6割が協力拒否」 山口・下関 首相の地元、名簿提供せず」という記事を掲載しており、それによると、
下関市は名簿は提供していないが、自衛隊による適齢者情報の閲覧を認めている。自衛隊の地方協力本部から名簿提出の要請はないといい、市の担当者は「拒否と言われてもどうしようもない」と共同通信の取材に語った。そうだ。似たような話は他のメディアでも取り上げられているし、別の自治体からも挙がっているようだ。この記事、若しくは下関市が嘘をついていないのだとしたら「求められてもいない協力に対して協力しなかった事を非協力的」だと言っているのが、安倍氏ということになる。言い換えれば、安倍氏の主張は事実に基づかないフェイクで、産経新聞はそれをファクトだと擁護しているという状況ではないのか。
昨日・2/18にはタレントのフィフィさんが立憲民主党・蓮舫議員について、「児童虐待防止法改正に反対した」という事実に反する内容のツイートを行い、所謂まとめサイトだけでなく、日刊スポーツやスポーツ報知、朝日新聞のWebサイト等もこれに関して事実確認をせずに記事化するという事が起きた(BuzzFeed Japanの記事 その1/ その2)。このような状況では、既存メディアを一括りにマスゴミだの偏向報道だの揶揄する人達をつけ上がらせるだけではないのか。産経新聞や日刊スポーツ、報知、朝日新聞、そして昨年来個人的に不信感を感じているNHK報道などは、自分の首を自分で占めているようにも見える。
昨年、新潮45が発行部数減少を背景に、特定の読者層だけの方を向いた過激な論調、差別さえ厭わない方向性にシフトした結果、休刊を余儀なくされたという件があったばかりだ。紙の発行が重要だと言うつもりはないが、産経は将来的に販売を全国でなく首都圏と関西圏などに限定、縮小する方針を固めたとも報じられている。発行部数やウェブ上でのビュー数獲得を至上とし、内容・記事の質を問わないようであれば、既存のメディアも粗悪なまとめサイトと何も変わらなくなる。万が一全てのメディアがそんな傾向になってしまえば確実に社会は混乱に陥る。最悪は戦中のように、正しい情報が市民に伝えられない状況にもなりかねない。