昨年・2018年9月に、8月に急逝した翁長前沖縄県知事の後任を巡る沖縄県知事選が行われた。立候補したのは、国政与党・自公等の推薦を受けた、普天間基地の辺野古移設の是非に関して明確な態度を示さなかった佐喜眞 淳氏と、翁長前知事を支援したオール沖縄が擁立し、前知事同様に辺野古移設に反対する姿勢を全面的に示した玉城 デニー氏の2人で、玉城氏が佐喜眞氏に8万票の差をつけて圧勝した。この選挙の当日有権者数は114万6815人、投票率は約63%だった(朝日新聞の記事)。
つまり、2018年の沖縄県知事選によって、辺野古移設反対という沖縄県の民意は確実に示された筈だ。そして2018年11/8の投稿でも触れたように、玉城知事就任後初の首相との会談の中で安倍氏は、
県民の気持ちに寄り添いながら、基地負担軽減に向け一つ一つ着実に結果を出すと述べた(ロイター/共同通信の記事)。しかし、政府は何事もなかったかのように辺野古移設工事を再開する手続きを進め、2018年12/14より土砂を投入して埋め立てを始めた(2018年12/23の投稿)。
沖縄県側、つまり辺野古移設反対を掲げて当選した玉城知事も、それを指を咥えて見ているだけではなく、辺野古移設を単一の争点とする県民投票を実行することなった。投票実施に関して、一部の県内自治体の首長が不参加を表明するなど紆余曲折があったが、「どちらともいえない」という必要性が全く感じられない選択肢を「賛成・反対」に加える事と引き換えに沖縄の全ての自治体で投票が行われることが決まり、2/24に投開票が行われる。
2/14に県民投票が告示され翌15日から期日前投票が始まっており、 厳密には既に投票が出来る状態だ。2/18の朝日新聞の記事によれば、2/15-17までの期日前投票開始後3日間の投票数は、昨年の県知事選のおよそ2.4倍だそうで、沖縄県民の関心の高さがうかがえる。
しかし残念な事も既に起きている。東京新聞の記事「辺野古新基地一点問う 沖縄県民投票、告示 24日投開票」によると、菅官房長官は2/14の会見で「(沖縄県民投票が)どういう結果でも(移設を)進めるか」との質問に「基本的には(県民投票の結果はどうであれ移設を進める)そういう考えだ」と答えたそうだ。確かに2/24に投開票が実施される沖縄県民投票には、結果に政府が従わなければならないという法的な拘束力はない。しかし沖縄全県で実施される投票なので、それによって沖縄県民の辺野古移設に関する明確な民意が示されることには違いない。前述のように首相は2018年10月に「(沖縄)県民の気持ちに寄り添いながら、基地負担軽減に向け一つ一つ着実に結果を出す」と言っている。もし県民投票によって沖縄県民が移設反対の意思を明確に示したとして、それでも移設を進めるというのであれば、どう考えても沖縄県民の気持ちに寄り添っているとは言えない。つまり県民投票で移設反対が多数派という結果が出た場合に、それでも政府が移設を進めるようであれば、安倍氏は明確に嘘をついた事になる。
このような見解に対する様々な反論を見受ける。まずは「結果はどうであれ移設を進めると述べたのは官房長官だから、首相が嘘をついたことにはならない」という説の不備を指摘したい。内閣官房長官というのは誰がどう見ても首相の実務的な右腕である。首相と官房長官の見解が異なるのであれば、それは政府内がまとまっていない、つまり首相が政権をコントロール出来ていないということにもなる。また、首相の見解を否定するような主張を官房長官がしたなら、首相はそれを正す等の対応をするべきだろうが、この件に関して、首相が官房長官に対して異を唱えたという話は一切ない。つまり首相は官房長官に自らの見解を代弁させていると考えるのが妥当だろう。首相が官房長官が示した方針に異を唱えないようであれば、「県民の気持ちに寄り添う」という話は嘘だったということになる。
次に「沖縄近海では中国存在感を増しており、沖縄の米軍基地は沖縄を守る為に必要なものなのに、それに反対する沖縄県民は我儘だ」というような説の不備について指摘する。自分も、防衛上の観点から考えれば沖縄への米軍駐留に全く合理性がないとは思わないし、そう考える沖縄県民も少なからずいるだろう。しかし、なぜ沖縄県で辺野古移設反対派が少なくないのかと言えば、普天間基地を除去してもそれが辺野古に移されるようでは、沖縄の基地負担軽減にはならないという事や、明らかな不平等条約である日米地位協定の所為で、米軍が事故を起こした際や、米兵が事件を起こした際に充分な調査も捜査も行う事が出来ないといった不満がその背景にある。それを勘案せずに「移設反対は我儘」と斬り捨てるのは余りにも物事の一側面だけに注目した説だ。
また、もし沖縄への米軍駐留が防衛上不可欠であるなら「県民の気持ちに寄り添う」などという表現は使わず、「普天間基地の沖縄県内への移設は必要不可欠」と堂々と見解を示せばいいのではないのか。耳障りが良いだけの実態の伴わない話を安倍氏がしていることに何ら変わりないし、米軍の沖縄への駐留が必要だという話がもし正しかったとしても、政治家が有権者に対して嘘をついても良いことにはならない。
ハフポスト/朝日新聞の記事「辺野古めぐる沖縄の県民投票は2月24日。政府、結果にかかわらず工事進める方針」によると、2/14の会見で菅氏は
普天間飛行場の危険除去、辺野古移設に関する政府の考え方や、沖縄の負担軽減を目に見える形で実現する取り組みについて丁寧に説明し、地元のご理解、ご協力を得られるように粘り強く取り組んでいくとも話したそうだ。 つまり、普天間除去だけに触れ、辺野古移設に対して明確な態度を示さなかった県知事候補・佐喜眞氏が落選したにも関わらず、未だに現政権は「普天間除去こそが沖縄の民意」という恣意的な解釈を変えていない、というか「丁寧に説明、ご理解、ご協力を得られるように粘り強く取り組んでいく」などと言っているが、言い換えれば「辺野古移設に関して国としては折れるつもりはないから、お前ら沖縄県民が折れろ」と言っているようなものではないだろうか。
自分は首相や政権関係者が沖縄県民に対して嘘を平気でつくという状況を見て、
この首相や政権は「女性活躍」とか「多様性を重視」とか「働き方改革」のような事をしばしば主張するが、実際には実効性を伴った政策が進められている様子はなく、沖縄県民に嘘をついたように、日本の全国民に対しても耳障りのよいスローガンを掲げるだけ掲げて、実際は何もしないつもりなのだろうと感じる。それだけではなく、現在国会で取り沙汰されている統計不正の問題も、経済政策の効果を演出する為に放置していた恐れも感じられるし、しばしば拉致問題についても全力で取り組むなどと言っているが、単にそのスタンスをアピールしたいだけなんだろうと思える。昨年の米朝首脳会談の前にも「次は私が北朝鮮と直接向き合う番だ」のような事を首相が言っていたが、今月末に2度目の米朝首脳会談を控え、またもや同じようなことを言っている。つまり実際は何もしていないのにポーズだけ取っているとしか思えない。
簡単に言えば、沖縄県民に嘘をつく首相は、日本国民全員にも平気で嘘をつくとしか思えないということだ。